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連合は与党陣営へ。新宿区長選でも負けた野党共闘

沖縄以外で勝てない野党共闘。結束して掲げる大きな旗印が不可欠だ

山下剛 朝日新聞記者

新宿の高層ビル群=2017年9月18日

「東京の中心」で惨敗

 「野党共闘」にまた一つ、黒星がついた。

 11月11日に投開票された新宿区長選で敗れた。自民党、公明党が推薦する現職と、立憲民主党、共産党、自由党、社民党などが支持する新顔との一騎打ちの構図で、ダブルスコアの大敗北だった。

 野党共闘は、沖縄でこそ沖縄県知事選、豊見城(とみぐすく)市長選、那覇市長選と連勝したが、その波は全国に広がっていない。

 沖縄県知事選と同じ9月30日に投開票された品川区長選には保守系の元都議を、そして10月28日には新潟市長選には31歳の前市議を擁立したのだが、ともに敗れた。そのふたつの選挙については「沖縄で勝ち、品川で負けた。野党共闘の課題は?」と「野党共闘の31歳が新潟で敗れ沖縄の連勝は止まった」を参照していただきたい。

 そして今回の新宿区長選での敗北。首都・東京で、連敗である。

 東京都庁がそびえる新宿区は「乗降客数世界一」とされる新宿駅があり、いわば「東京の中心」だ。衆院選ではその大部分が東京1区に含まれ、自民党の与謝野馨氏と民主党の海江田万里氏が長く議席を争ってきた激戦区として知られる。

 新宿区長選は、品川区長選と並び、来年の参院選に向け、野党共闘の真価、特に都市部での実力が問われる選挙であった。

 野党はなぜ、都心の区長選で勝てないのか。この二つの「野党共闘」に共通するのは、野党最大の支持団体・連合が自民党の推す現職についたことだ。

 実は「野党共闘」は成立していなかったのである。

 衆参両院で野党第一党となり安倍政権への対決姿勢を強める立憲民主党と、連合の影響を強く受けて安倍政権と対話を探り共産党とは距離を置く国民民主党との溝が、首都・東京の区長選で露見したともいえる。

3割を切った投票率

 新宿区長選は、自民、公明が推薦する現職の吉住健一(よしずみ・けんいち)氏(46)に、立憲民主、共産、自由、社民などが支持する新顔で経営コンサルタント会社社長の野沢哲夫(のざわ・てつお)氏(52)が挑む一騎打ちの構図だった。

 連合執行部と密接な関係にある国民民主党は態度を鮮明にせず、どちらも応援しなかった。

 開票結果は以下の通りだ。

吉住健一 49353票(得票率67%)
野沢哲夫 23973票(得票率33%)
投票総数 74429人(投票率28.24%)

 最初に指摘しなければならないのは、投票率の低さだ。投票率3割を切る選挙で、野党が、組織票で勝る与党(しかも現職)を破ることはほぼないだろう。低投票率の理由は、有権者を引き寄せる争点をつくれなかったことに尽きる。つまり、盛り上がりに欠けたのだ。

 都心の選挙はおしなべて投票率が低い。品川区長選は32.71%。目だった争点もなく、投票率が3割に届かなかった新宿区長選も、無党派層が投票所に足を運ばなかった結果、連合を含む組織票を固めた与党系現職が圧勝したといっていい。

現職区長を安倍政権に重ねた野党

 野党共闘の野沢氏は、吉住区政を「デモの出発地に使える区立公園を4つから1つに減らした」「65歳以上の個人情報を防犯目的で警察に提供した」と批判した。安倍政権で「言論統制」が進んでいるとの認識の下、吉住区政を安倍政権に重ね合わせて批判し、無党派層を取り込む戦略だった。

住宅街で街頭演説をする野党共闘候補の野沢哲夫氏=新宿区若葉2丁目

 野沢氏の応援に立った立憲民主党最高顧問の海江田氏はさらに国政レベルの対決を持ち込む姿勢を鮮明にし、「吉住区政は安倍政権と通じるものがある。これは憲法を守れという闘いだ」と訴えた。

 けれども、「憲法問題」は区長選の争点として広がらなかった。

 そもそも区長選でなぜ憲法なのかという疑問は野沢陣営内にもあった。沖縄県知事選で与党が携帯電話料金の値下げを主張して反発を浴びたのと相似している。デモの出発地に使える区立公園を減らしたことへの批判には「デモに参加する人は限られ、共感を得にくい」との声が陣営内からも出た。

 同様の理由で、現職の吉住氏を安倍政権と重ね合わせる主張も、広がりを欠いた。

 しかも吉住氏は、与謝野氏の秘書を務めた後、新宿区議、東京都議へと転じており、安倍晋三首相や首相の出身派閥・清和会(現細田派)に近いわけでもない。選挙中盤の演説会で、吉住氏はこう訴えていた。

演説会で語る、自公が推した現職の吉住健一氏=新宿区高田馬場1丁目

「新宿区長選に就任したとき、私設秘書を持たないようにしようと考えた。どうしても私の名刺を持った人間が都庁に行ったり、国に行ったり、最も危ないのは区役所に来たりすると、どうしても私への忖度が生まれてくる」

 安倍政権の森友・加計問題に対する批判と受け取るのが自然だろう。安倍政権批判が新宿区長選に飛び火しないようにうまく立ち回ったといえる。

 こうした「安倍隠し」は来年夏の参院選でも繰り返される可能性は高い。与党候補も森友・加計問題への苦言を述べることは十分にありえる。つまり、スキャンダル批判だけでは、与野党の争点をくっきりさせ、無党派層の関心を引き寄せ、投票率を大きく引きあげることは難しいだろう。

 そして、与野党激突の構図をぼかすのに大きな役割を果たしたのが、連合だった。

「現職・与党」と全面対決を避ける連合

 争点の不在に加えて、選挙戦をわかりにくくしたのは、連合だ。先に述べたように、新宿区長選でも品川区長選でも、連合東京は与党系の現職陣営についたのである。

 いうまでもなく、連合はかつての民主党の最大の支援団体で、民主党から組織内候補を擁立していた。2009年に民主党が政権交代を果たすと、民主党政権に大きな影響力を及ぼしてきた。

 一方で、2012年に第2次安倍政権が発足して以降、高収入の専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)をめぐって水面下で政府と修正協議することが発覚するなど、腰が定まらない場面が目だってきた。

 昨年秋の衆院選の際に、民主党後継の民進党が事実上解党すると、連合傘下の労組の支援先は立憲民主党と国民民主党とに分かれ、「股裂き」状態になった。連合執行部との関係が深い国民民主党は、連合と歩調をあわせるように「対決より対話」の姿勢が目立ち、支持率は1%程度に低迷。連合執行部の遠心力も強まっている。

 連合東京の幹部は、与党系現職を推す理由について、共産党系の労働組合と対立していることを踏まえ「(共産党が加わる)野党共闘の枠組みには連合としては乗れない」と説明する。そのうえで「連合は働く人の目線で様々な政策を提言し、そうした政策を実現するために現職と組まなければならない」と力説する。

 連合は「現職」や「与党」との全面対決は避けたいのが本音だ。特に知事や市長などの選挙でその傾向は顕著だ。国政選挙でも連合の根本的な体質は変わらない。

 野党は連合依存を続ける限り、政権与党と全面対決に持ち込むことには限界があり、その結果として、争点はぼやけ、最も重要な投票率アップにつながらない。連合とはそう割り切って付き合うほかない。

 野党が明確な争点を設定して無党派層の関心を引き寄せ、与党に勝つ可能性が高まれば、おのずから連合は「政策実現」のため野党にすり寄ってくる。無党派層の心をつかむことが先なのだ。

何のための野党共闘か

 4年前の新宿区長選は、自民、公明の推薦を受けた吉住氏と、共産が推薦する候補の新顔2人の一騎打ちだった(投票率は25.80%で今回よりやや低い程度)。このとき共産推薦候補の得票は24262票だった。

 驚くのは、今回の野党共闘候補(野沢氏)の得票は、4年前に共産だけの推薦を受けた候補を下回ったことだ。

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