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「共和党のトランプ化」か、新しい変化の台頭か

中間選挙後のアメリカ政治を占う

前嶋和弘 上智大学教授

中間選挙の結果を受けてホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領=11月7日、ワシントン
 11月6日の米中間選挙の結果、共和党が上院を制した一方、民主党が下院多数派となった。トランプ氏は移民を拒み、オバマ前大統領が実現に導いた医療保険制度を骨抜きにし、銃規制に背を向けてきた。選挙戦では、こうした「トランプ的なるもの」の是非が問われた形となった。

 現在の115議会では上下両院とも共和党が多数派の「統一政府」だが、これで上下両院がねじれることによって「分割政府」になる。

 これで予想できる変化には次のようなものがある。

(1)厳しくなる内政のかじ取り

 今回の選挙結果は来年1月に始まる新議会から反映される。民主党が下院で多数派を奪還したことでトランプ政権の政策運営は一気に厳しくなるだろう。

 議会の多数派党が変われば、下院の場合は議長も変わるほか、どの政策を優先的に取り上げていくかを決める委員長職も変わる。大統領の望む政策を優先しないようになる。これを権力分立がもたらす健全なチェック機能とみるか、トランプ氏が進めた大きな変革の桎梏とみるかは政治的立場の違いで見方が異なるだろう。

 しかし、いずれにしろ、トランプ政権にとっては大きな痛手である。特に予算措置を伴う案件が動かなくなる。トランプ氏がメキシコ国境に建設すると公約した「壁」はインフラ投資の目玉だが、民主党はこれに待ったをかけるのは必至である。

 オバマ政権の時の最初の中間選挙を思い出せば、下院が対立党に取られることがいかに深刻であるかが分かる。

 オバマ政権では就任して2年間は上下両院とも多数派は民主党で、「統一政府」であり、オバマケア、大型景気刺激策、ウォール街改革という3つの大きな法案を民主党主導議会とともに成立させていった。

 しかし、2010年の中間選挙で共和党に下院の多数派を奪還され、状況は一変した。その後は全くといっていいほど、オバマ大統領が望むような政策が立法化されず「レームダック化」したようなものだった。

 残りのトランプ政権も同じ道を歩むかもしれない。

(2)ロシア疑惑の追及による混迷化の可能性

 議会の承認が必要な内政の舵取りが一気に難しくなるだけでなく、ロシアの大統領選介入とトランプ陣営の癒着についてのロシア疑惑を巡るトランプ氏の弾劾裁判が始まる可能性がある。

 2年前の大統領選に介入したとされるロシア側とトランプ陣営が「共謀」した疑惑について、モラー特別検察官の捜査が現在、大詰めを迎えているといわれている。

 ロシアの行為を容認・協力したのかどうか、下院多数派の民主党が主導する形で、追及が強まっていくだろう。トランプ政権に対する下院各委員会の調査も本格化する。

 ただ、もし、成果を急ぐ民主党がロシア疑惑を巡り、トランプ大統領の弾劾に向けて動きだせば、政治が一気に膠着して止まってしまう。下院の過半数が賛成すれば弾劾状(起訴状に相当)を可決できるが、弾劾を決めるのは上院であり、投票出席議員の3分の2の賛成が必要なため、ハードルは極めて高い。つまり、弾劾の可能性が少ないことを前提に弾劾にかけるようなものだ。

 ロシア疑惑追及を進め、政治が停滞した場合を危惧する声が民主党側は特にベテラン議員の間では多い。そのため、疑惑追及に今のところ慎重である。それでも民主党にすれば下院の多数奪還が今回の中間選挙の最大のポイントであるため、「せっかくの機会を使わない手はない」という声もある。モラー特別検察官の捜査内容やトランプ氏側の対応次第では、弾劾手続きが始まる可能性は常にあるとみた方がいいだろう。

(3)不安定な外交

 一方でトランプ大統領が成果を出せるのは外交となる。外交・安全保障は大統領の専権事項であるためだ。ただ、外交での成果を急げば、外交そのものが大きく不安定になる可能性がある。不確実性がトランプ氏の一番の売りだが、その不確実性はさらに大きくなると覚悟した方がいいかもしれない。

 不確実性が増すという意味で最も考えられるのが対中政策だ。トランプ政権は中国に対してますます強硬になるかもしれない。一方で

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