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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(11)

第4章 必要な「固有語」と「音変化」

市川速水 朝日新聞編集委員

第4章 必要な「固有語」と「音変化」 1.固有語は「訓読み」のつもりで

「冬のソナタ」の「冬」は固有語。理屈抜きで覚えるしかありません

 ヨロブン、アンニョンハセヨ!

 前週までは、日本語の発想や漢字から韓国語に入った方がいかに楽か、共通点や法則を見つけて紹介してきました。これからの章は、私にとっては一番手を抜きたいけれど抜いてはいけない、このシリーズの主眼である「日本語からのアプローチ」からは最も縁遠いところです。

 やりたくないなあというのが本音です。だって、「理屈抜きで覚えなければならない」と言わなければならないからです。ほんと、いやだなあ。

 というグチは置いといて、今後、どういう「罠」が待っているかを前もって警告しておきましょう。

 まず、具体的に、あの元祖韓流のテレビドラマ「冬のソナタ」を使って説明しましょう。

人気絶頂時の「ヨンさま」ことペ・ヨンジュンさん。「冬のソナタ」の名せりふ、いまでも思い出します=2004年11月、成田空港

 このちょっとイカしたタイトルもまた、韓流に火を付けた要因だと思っています。原題は「겨울연가(キョウル・ヨンガ)」です。「キョウル」は冬の意味。「ヨヌガ」は漢字語で「恋歌」です。

 ソナタは本来、多楽章の器楽曲ですが、恋歌(ラブソング)をソナタと意訳したのです。「冬のラブソング」だと、ぱっとしませんね。「冬ソナ」ならぬ「冬ラブ」ではヒットしたでしょうかねえ。おっと、また横道に。

 ではキョウルは? 元の漢字もないし、覚えるしかありません。春・夏・秋・冬は「ポム、ヨルム、カウル、キョウル」と、いずれも漢字がありません。これが「固有語」です。

 全部覚えなければならないのです。がっかりでしょう?

ドラマや日常会話は、漢字語や固有語がバラバラ!

 冬ソナ全20話のうち、ちょうど中間あたりに出てくるペ・ヨンジュン演じるカン・ジュンサンの台詞を見てみましょう。

 過去の記憶を無くしたジュンサンは、自分の本当の名前も、かつてユジン(チェ・ジウ)を熱愛していたことも覚えておらず、この時点ではミニョンという別人の名前で生きることを決心します。こう言います。

기억도 나지 않는 강준상이란 이름으로 유진 씨 욕심내지 않겠어요.
発音:キオクド ナジ アヌヌン カングジュヌサングイラヌ イルムロ ユジン シ ヨクシムネジ アヌケッソヨ。
意味:記憶もないカン・ジュンサンという名前でユジンさんに欲を出すことはないです。

 ここでは「記憶」「欲心」と漢字語が出て来ます。記憶は発音がそっくりだし、欲心も簡単に想像できますね。でも、そのほかの動詞「(記憶が)出てくる」や「(欲心を)出す」は固有語です。イルムは「名前」を意味する固有語、「アンケッソヨ」は動詞の後について「~はないですよ」です。

 ドラマや日常会話は、このように、漢字語と固有語がばらばらに交じっています。

 理解できましたか? できませんよね。早く理解したいですよね。

 これが「罠」なんです。

 韓流ドラマや映画を理解したい、ざっくばらんな友達言葉を覚えたい、というのは、このシリーズの冒頭で私が示した、上手になるための最強の動機なのは確かです。

 ただ、そこへ行くまで、遠回りとまでは言いませんが、ワンテンポ、ツーテンポ置きましょう。そうでないと、語学の教科書のような、「家庭での父母との会話」「市場で買い物するときの会話」「授業中の先生との会話」みたいな、応用の利きにくい中途半端な学びになってしまいます。

 旅行案内本の最後に付いている「状況別の困った時の会話」で言葉の基本を覚えた人ってあまり聞いたことないですよね。あれと同じです。

 がまん、がまん。

文在寅大統領の演説は、漢字語がズラリ!

 さて、今度は状況が全く違う、堂々たる演説を見てみましょう。

 今年8月15日、文在寅(ムンジェイン)韓国大統領が、日本の植民地支配から解放されたことを記念する「光復節」(クァンボクチョル)の73周年式典で挨拶した、その冒頭です。

文在寅・韓国大統領が今年8月15日、日本の植民地統治からの解放を祝う式典で演説しました=ソウル市

 少し長いですが引用します。発音のカタカナ表記は省略します。また、今度は冬ソナと形式を変えて、日本語も韓国語のアキに合わせて切れ目を入れました(韓国語のこのスタイルは、主語や助詞、目的語を離すことで意味をわかりやすくする「分かち書き」と呼ばれます)。

존경하는 국민 여러분, 독립유공자와 유가족 여러분, 해외동포 여러분,오늘은 광복73주년이자 대한민국 정부수립 70주년을 맞는 매우 뜻깊고 기쁜 날입니다.
意味:尊敬する 国民(の) みなさん、独立有功者と 遺家族(の) みなさん、海外同胞(の) みなさん、今日は 光復73年周年であり 大韓民国政府樹立70周年に あたる 非常に 意義深く 嬉しい 日です。

 今度はどうですか?(の)は省かれることが多いので私が加えたものです。「ヨロブン」はご存じですよね。「みなさん」です。あとは、尊敬、国民、独立有功、遺家族、海外同胞、光復、周年、大韓民国、政府、樹立 周年と漢字語でぐいぐい押してきます。途中、오늘、 이자、 매우、 뜻깊고、 기쁜、 날 など固有語なども出て来ますが、重要な名詞は漢字語になっています。

 雰囲気が全く違うでしょう。新聞や雑誌に載っている言葉は演説に近く、友達同士やテレビのワイドショーなどはドラマの台詞に近く、職場や街なかではその中間ぐらいです。

 この「にわかん」コーナーの根本にかかわることなのですが、どこからどうアプローチするかという問題です。ドラマの発音と字幕から入って難しい言葉へ広げていくか、日本人が得意な難しい言葉から始めて固有語や柔らかい言葉へとたどっていくか。私は後者を目指していますが、前者のやり方も否定はしません。どちらが自分にとって「省エネ」か、あるいは自分の目的へ早道かということなのです。

ちょっと寄り道⑯ 王道も大事、近道も大事
 私がなぜ一般的といわれる会話や易しい言葉から始めるのでなく硬い言葉(漢字語)からアプローチを始めたのかには理由があります。
 ソウルに駐在するためには韓国語を操ることが必須です。でも私の場合、普通は外国語留学は1年という制度のところ、半年間しか時間を与えられませんでした。韓国の大学の「語学堂」(オハクタン)と呼ばれる韓国語習得コースは1年で4段階のステップを勉強する仕組みになっています。1級から6級まで。1級から始めると3カ月ずつ昇級して4級で終わる仕組みです。スタート時の能力テストで2級や3級からスタートする人もいます。さらに3カ月間の成績が良ければ飛び級が認められます。1級から始めて飛び級を重ね、1年後は6級で卒業した同僚もいました。
 私の場合、半年間なので2段階でしか勉強できません。でも最大の目的である「新聞を読んで時事問題を議論すること」は4級からでした。最初は運良く「にわか勉強」で2級からスタートできたのですが、3カ月後に4級への飛び級が認められませんでした。期末テストの点が1点足りませんでした。
 そこでいったん「退学」し、私立の語学専門学校に駆け込んで「5級」に入れてもらいましたが、落ちこぼれました。その間、2人の家庭教師(昔からの友人で、費用は払えず謝礼は実質お茶代だけ)に日常会話を習っていました。あれもこれも手を出して中途半端な私に、先生は言ったのです。
「時間がないのだから、目的をはっきりさせるべきです。友達言葉を話したいのですか? 違うでしょう。特派員を目指すのなら、韓国人の誰に対しても失礼のない言葉を優先すべきでしょう。大統領と会見しても動じない言葉から覚えるべきではないですか?」と。
 それが漢字語であり、尊敬語、謙譲語でした。
 ふっきれた後は元の大学の5級に編入させてもらい、ぎりぎり5級修了で留学を終えたというわけです。ぶつ切りのような留学体験は、ほめられたものではありませんが、「うまくいかない」という焦りや悩みは共有できるのではないかと思っています。

日常使う動詞や形容詞、副詞は固有語です

 日本語を学ぶ中国人や韓国人に聞いても、最も難しいのは漢字の訓読みであり、日本語特有の形容詞や副詞、擬態語、擬声語だと言います。「さわやか」「そよそよ」「おしとやか」「あっという間に」「ちょびっと」「ぞわぞわ」「がみがみ」「うろうろ」などですね。

 逆に韓国語でそれを学ぼうと思った時、やはり数限りなくあるのに驚くでしょう。それは絶望的に言えば「覚えるしかない」。でも、怠け者的に言えば「知らなくてもそうそう困らない。知っていれば言葉がさらに豊かになるオマケ」。プラス思考で考えましょう。

 さて、固有語は「訓読み」のつもりで覚えるしかないのですが、日韓共通の「くせ」があります。身の回りのこと、体の部分、基本的な動作(動詞)や五感に関すること(形容詞、副詞)が圧倒的に固有語の中心を占めていることです。

 食べる、ねる、などは、漢字語で「食事する」「睡眠する」などと言い換えることも可能ではありますが、訓読みの方が柔らかく自然な響きになるので固有語が使われます。一方で、日常的に使うわけですから、知らないと大変ですが、毎日のように使っていればすぐに覚えてしまいます。

 次に並べるのは、ほんの一例です。

【体や日常的な動作・習慣】
顔=얼굴(オルグル゙) 指=손가락(ソヌッカラク) 足=다리(タリ)、발(パル)
体=몸(モム) 食べる=먹다(モクタ) 寝る=자다(チャダ)
持つ=들다(トゥルダ) 走る=뛰다(ティダ)、달리다(タルリダ)
【身の回りのものや動作】
水=물(ムル) ご飯=밥(パプ) 酒=술(スル) 行く=가다(カダ)
帰る=돌아오다(トラオダ) 歩く=걷다(コッタ) こと、もの=것(コッ)
ある=있다(イッタ) ない=없다(オプタ)
右=오른쪽(オルヌチョク) 左=왼쪽(ウェヌチョク) ここ=여기(ヨギ)
そこ=거기(コギ) あそこ=저기(チョギ) どの、とある=어느(オヌ)
【感覚に関する言葉】
温かい=따뜻하다(タットゥッタダ) 冷たい=차다(チャダ)、차갑다(チャガプタ)
寒い=춥다(チュプタ) 暑い=덥다(トプタ)
多い=많다(マヌタ) 少ない=적다(チョクタ)
難しい=어렵다(オリョプタ) 易しい=쉽다(シュイプタ)
やわらかい=부드럽다(プドゥロプタ) 惜しい=아깝다(アッカプタ)

 では、私の独断と経験による「覚えて得した固有語の形容詞・副詞」ベスト10!

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