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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(13)

第4章 必要な「固有語」と「音変化」 3.音変化は大事なものから

市川速水 朝日新聞編集委員

フィギアスケートで一世を風靡したキムヨナさん(右)

今回は超難関です!

 アンニョンハシムニカ!

 前回お知らせした通り、超難関の回です。一段と難しくなります。ハングルの長い歴史を経て、表記と発音が離れていき、表記のまま読んだつもりでも全然通じないことがあります。それらは音変化と名付けられています。

 その代表例をいくつかパターン化することにしました。どういうことか、日本語から考えてみましょう。

 「圧」は「あつ」なのに、「圧勝」は「あっしょう」と「っ」になりますね。「雑用」と「大雑把」(おおざっぱ)の「っ」の読み方も違います。「上」の「う」はちゃんと口をつぼめて読むのに、農家、高価のなかに出てくる「う」という音は、音引きか、ぼんやりした「お」に近い音になりますね。

 「あいうえお」の「お」の列(こ、そ、と、など)に続く「う」は、たいていがこのぼんやり型の音になるルールが実はあるのですね。なぜこんな法則があるのか? そう尋ねられても困ります。「決まり」なのですから。

 韓国語も同じ、韓国人も意識していない慣習的な読みのパターンがあるのです。

 なじみやすく多用される順番で記すつもりですので、文法を重視した典型的な教本とは少し異なります。各項目の名前は難しいですが、一般的な教本に合わせただけですのでまったく気にしないでください。

 各項目の学術的説明や列挙した単語は「身につく韓日・日韓辞典」(三省堂)の付録「ミニ文法」を大いに参考にさせていただきました。

【連音化】(リエゾン)

 「リエゾン」とはフランス語などでよく使われますが、前の語の終声字(パッチム)が後続の初声とつながって発音されることです。日本語の世界では1文字ずつ子音+母音をはっきり発音するので、ほぼ見当たりません。「っ」や子音で終わる言葉がなく、名詞・動詞・形容詞と助詞の区別もはっきりしているからだと思います。

 外来語の「ライン・アップ」=「ラインナップ」のイメージでしょうか? でも、日本語でも「役割」(やくわり)を連音化させて「ヤックヮリ」と言ってみてください。けっこう同じでしょ。この要領です。連音が頻繁に出て来る韓国語では、変わった響きに聞こえる発音が目立つので、最初は「なんだこりゃ」と感じるかもしれませんが、面白い響きだけに、覚えたら忘れない言葉も多いように感じます。

 例を挙げましょう。

・「キョロン=결혼」→結婚、発音は겨론
・「ハリン=할인」→割引 発音は하린
・「ハニル=한일」→韓日、発音は하닐
・「マノン=만원」→1万ウォン 発音は마눤 *「1万」の時は「1」は不要です。

 それぞれ「キョル+ホヌ」「ハル+イヌ」「ハヌ+イル」「マヌ+ウォヌ」が連音化したものです。

 ここで一つ別に覚えていただきたいのは、「ㅎ」(は行)は強く発音されません。朝日新聞は「アサイ・シンムン」と聞こえる時があります。人によって「h」の強弱は違います。連音化の際も、この子音が交じると、ほぼ消えてしまいます。

 では、「チョナ」とは何でしょう? 電話です。전화、ですが、ㅎがほぼ消えるうえに連音化が生じます。

 前回、固有数字のところで説明したように、11時のことは「ヨル」+「ハンシ」ですが、これも連音化とハ行の弱音化で「ヨランシ」となります。

 しばしば聞く身近な連音化は、ほかにもたくさんあります。

・職業=「チゴプ」직업
・卒業=「チョロプ」졸업
・韓国語=「ハングゴ」한국어
・ご存じ前大統領「朴槿恵」=「パク・クン・ヘ」でなく「パク・クネ」(박근혜)
・独立記念館がある都市は「天安」=チョナン(천안)

 助詞「~が=이」や「~を=을」「~は=은」「~へ=에」が「ㅂ」「ㄱ」などにつながる時も同じです。

「職業は何ですか?」(チゴビモエヨ? 직업이 뭐에요?)

 このように、せっかく「チゴプ」と連音化を覚えたのに、「チゴビ」が分からなくてがっかりすることもありますが、けげんな顔をしていると、相手も察して「職場」(チクジャング)とか、「イル」(仕事の固有語)とか言葉を変えてくれますので、何とかなるものですよ。

 助詞が続く例はこんな感じです。 

    表記     発音      読み
お金が=돈이     도니  トニ
扉が =문이     무니  ムニ ムヌ=門の漢字語
外で   =밖에서  바께서 パッケソ
ご飯を=밥을     바블  パブル
家を =집을     지블      チブル
財布に=지갑에  지가베 チガベ

 少し脱線しますが、当然、人名も同様に読みが変化します。先ほど説明したように、朴槿恵・前大統領は、「パク・クヌ・ヘ」で「パク・クネ」となります。「パックネ」と聞こえます。

 女子フィギアスケートで日本の浅田真央さんとライバル関係にあったキムヨナさん、覚えていますよね。漢字では金姸兒と書くそうです。ハングルでは김연아 ですが、連音化してキム・ヨナになります。

 また、日韓で活躍したタレントの「ユンソナ」さんは尹孫河、윤손하と書きます。発音はユヌ・ソナ。ハ行が落ちて「ソナ」という響きになったのですね。漢字で見ると少しイメージが変わります。特に人名は「恵」などハ行が多いので、連音化して脱落してしまうことが多いのです。発音からハングルや元の漢字を想像するのは意外とてこずります。

日韓で文化の架け橋になったユンソナさん

【有声音化】(語の途中で濁る化)

 日本語でいう、「棚(たな)」が「本棚(ほんだな)」と濁音化するのと似ています。「人(ひと)」も「旅人(たびびと)」になると濁りますよね。最初(冒頭)に出てくる時には濁りませんが、その前に字がある時にはたいてい濁る法則です。

 そもそも「ハングル한굴」がそうです。「ハヌ・クル」が濁るわけです。

 よく使う「お店」=「カゲ」가계ですが、ハングルとしては「カ・ケ」。これを続けて読むと濁るわけです。

 人名にもあてはまります。例えば「京花」という人がいたとして、読みは「キョングファ」ですので、友達が下の名前だけ呼ぶときなどには濁りません。ただ姓が「李」なので、続けて読むと「イ・ギョングファ」となります。よく「あなたの名前はキョングファですか? ギョングファですか」と聞く人がいますが、答えは「両方正しい。場合によりけり」です。

 「ㄱ」(か行)、「ㄷ」(た行)、「ㅂ」(ぱ行)、「ㅈ」(ちゃ行)が有声音化の対象になります。日本語的に言えば「た行」が二つありますが、最初のㄷの「濁音化」の発音は「ダ・ディ・ドゥ・デ・ド」、最後のㅈは「ジャ・ジ・ジュ・ジェ・ジョ」となります。

 日本語は半濁音や濁音が表記できますが、韓国語には「ガ」とか「ダ」を示す表記がないのが特徴です。

 この4種類の子音を持つ語が冒頭以外に来た時、「無気音である平音が語中で有気音に変わる」と一般的には説明されています。

【頭音法則】(イ・ノ・リの法則)

 これはおなじみの方も多いでしょう。「李」さんが「リ」でなく「イ」さん、「柳」さんが「リュ」でなく「ユ」さんとなるルールです。元大統領の「ノムヒョン노무현」さんも「盧武鉉」で、元々の読みは「ロ」だったのですが、「ノ」と変化しました。北朝鮮ではこのルールが適用されずに「リ」「ロ」となります。だから北朝鮮の労働新聞は、韓国では「ノドングシヌムヌ、노동신문」ですが、北朝鮮では「ロドングシヌムヌ、로동신문」と発音します。韓国側の法則を文法的に難しく言うと、以下のようになります。

*漢字語や外来語の頭の音の「ㄹ」が母音の「아・야・ 여・ 요・ 유」の前では「ㄹ」を発音せずに「ㅇ」となる。それ以外の母音の前では「ㄴ」に変わる。また語頭の「ㄴ」が母音「아・얘・여・에・요・유・이」とともに現れる場合に「ㄴ」が脱落する。
例:理性 이성(리→이) 女子 여자(녀→여) 労働 노동(로→노)

 言葉にすると、こんなに難しいのですね。間違っても上の3行を暗記しようと思わないでください。今までぼうっと分かっていた「リさんはイさんなんだ」「ノ大統領で、昔はノテウ(盧泰愚)という大統領もいたなあ」でいいのですから。

 ハングルそのものの表記が変わってしまうわけですから、本来、「音変化」の項目に加えるのはふさわしくないかもしれません。ただ、日本人が漢字語にもっているイメージが独特のルールにより変化するため、あえて優先順位2番目の項目にしました。

ちょっと寄り道⑲ No!大統領
 日本語や中国語は、漢字そのものに視覚的意味がある表意文字。英語は発音を並べる表音文字。世界一科学的な文字、とも評されるハングルは、漢字の意味を残したままの表音文字という画期的な方式です。韓国の国宝にも指定されています。ただ、その表音文字だという自覚が薄れると、他者には理解できない論争に発展します。
 私も馬鹿馬鹿しくなるような「事件」を目の当たりにしました。
 盧武鉉(ノムヒョン)大統領時代の2004年7月、突然、韓国メディアが大報道を始めます。姓に多い「盧」を「ノ」と発音するのは先述の通りです。ところが韓国の国会で、議員が「米中央情報局(CIA)のホームページで、盧大統領が『プレジデントNO』と紹介されている、正しい表記は「Roh」なのに、誤記されている。訂正要求すべきだ」と当局にかみついたのです。韓国当局は「在米大使館が何度も申し入れているが、返答がない」と答えました。韓国メディアの取材に、米国務省関係者は「外国元首といえども、英語表記は一般的な発音と認識されている表記を優先している」と説明しました。
 その時、私は思いました。そりゃそうだ。米国が正しい。本国の人が呼ばない名前を表音文字の大国が採用するわけがありません。韓国人は、ハングルが英語と同じ表音文字だと理解していないのだなあ、と。
 ただ、そのうちに、なぜこんな些細な問題が国会で論議されたのか理解しました。盧さんは、民主派(進歩勢力)から生まれた大統領で、在韓米軍への依存を弱めたり米国の要求に「ノー」と言ったりすることで民族のアイデンティティーを強めようとし、結果的に対米摩擦を生んでいました。議員やメディアは「何でもノーという韓国大統領」というレッテルを米国に貼られたくなかったのです。
 ところで、韓国人の名前の英語表記は必ずしも決まっていません。個人の自由とされています。朴さんは韓国では「Park」、北朝鮮では「Pak」と表記されることが多いようです。また姓の安さんは「Ahn」、尹さんは「yoon」など、いろいろです。

韓国の国会は、もめると断食あり籠城あり。2004年3月、盧武鉉大統領の弾劾案が可決された時には与野党議員がもみあい、靴のようなものも飛びました(東亜日報提供)

【流音化】(ルルの法則または韓流の法則)

 おなじみの「韓流」の発音です。発音は「ハヌ・リュ」ではなく「ハルリュ」となります。「ハヌ」の「ㄴ」が、「流」の頭の「ㄹ」に影響されて「ㄹ」に変わるのです。これは、「ㄹ」+「ㄴ」と逆の場合も同じです。これも発音をそのまま表記したものを並べて比べてみましょう。

新羅=신라 発音:실라
人類=인류 発音:일류
元日・元旦(固有語です)=설날 発音:설랄
権力=권력 発音:궐력
1年=일년 発音:일련 7年=칠년 発音:칠련
建立=건립 発音:걸립

【鼻音化】(ム・ン化)

 終声字(パッチム)のうち、「ㄱ・ㄷ・ㅂ・ㅅ」が直後の初声鼻音の「ㄴ」「ㅁ」に同化して、それぞれ「ㅇ」「ㄴ」「ㅁ」「ㄴ」に変わることをいいます。

 一番使われるのが「입니다」(イムニダ)でしょう。もちろん「~です」という意味ですが、「イプニダ」とは言いません。試しに「イプニダ」と言ってみると、言いにくいでしょう。言いやすい方向へ変化していったのだと思います。よく使う言葉に意外と多いので、最初は気をつけましょう。

昔=옛날 発音:옌날   10万 십만 発音:심만
昨年=작년 発音:장년  韓国語 한국말 発音:한궁말
*말は「話」「語」の固有語です。

【못=モッの発音の多様変化】

 못は「can not」を意味する英語的な文字ですね。それ自体は「モツ」と読みます。

 ところが、その後に来る動詞の頭の子音が「ㄱ・ㄴ・ㅁ・ㅇ」などの場合、「몯」と変化したうえで、濃音になったり「ン」に変わったり連音化したりするものです。

食べられません=못 먹어요→몯먹어요 発音:몬머거요(モヌモゴヨ)
来られません =못 와요→発音:모돠요(モドゥアヨ)

 さらにあといくつか。

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