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日本のスクランブル政策、真の抑止力に変化が必要

デニス・ブレア 元米太平洋軍司令官

 オバマ政権で情報機関を統括する国家情報長官だったデニス・ブレア氏が、中国とロシアの軍事活動が活発化する東アジア地域での日本の自衛隊活動のあり方について提言する論考を朝日新聞社に寄せた。

 ブレア氏は軍歴34年。日米同盟に深くかかわる米太平洋軍の司令官もかつて務め、現在は「笹川平和財団米国」の理事長を務める知日派。

 日本や北大西洋条約機構(NATO)加盟国など同盟国に対しても貿易赤字を理由に容赦なく関税の脅しをかけるトランプ大統領と、同盟関係重視の国防総省の間には意見の違いが取りざたされている。だが、軍事力強化に力を入れ、南シナ海や東シナ海など海洋進出に余念がない中国への強い警戒感では両者は一致する。この論考からも、中国の軍事活動に厳しい米軍主流派の立場をうかがうことができる。(朝日新聞アメリカ総局長・沢村亙)

英語版もご覧ください。

デニス・ブレア元米太平洋軍司令官(ランハム裕子撮影)

 日本周辺の空・海域で近年、中国とロシアの軍事活動が増えている。日本の防衛省の最近の統計によると、2018年4月から6月の航空自衛隊によるスクランブル発進は、前年の同期間より42回増の271回に達したという。中国の海空軍は増強されているうえ、運用方法も洗練されている。日本の排他的経済水域(EEZ)や防空識別圏(ADIZ)とその隣接域、さらには日本の領海や領空を通過する形で、より多くの艦船や航空機を日本周辺に送るようになっている。ロシアも近年、太平洋地域での戦力の増強を進め、日本周辺において航空部隊の活動を強めている。日本政府はこうした中ロの活動を脅威ととらえ、すべての中ロの軍用機や艦船の接近を捕捉(インターセプト)し、自国の航空機や艦船によって領域外に誘導排除(エスコート)する対応をとっている。

 こうした「捕捉と排除」の政策は、日本の国家主権を守り、自国の部隊が常に警戒態勢にあり、領土を防衛することが可能であることを示す思慮深い対応と思われるものの、軍事効率という点ではコスト的に高くつくものとなっている。中ロの軍用機を捕捉するためにスクランブル発進したり、中国艦船を捕捉するため水上艦を緊急覇権したりすることは、戦術的に練られたものであるにせよ、「戦時の技術」を磨くという意味ではほとんど効果がない。

 こうした対応のパターンは中国の人民解放軍やロシア軍の諜報部門に、日本の監視・対応能力がどの程度のものかについて情報をもたらし、結果的に軍事作戦の面で先方を利することにもなっている。この「あらゆるものを捕捉・排除する対応」がもたらす財政面への影響はさらに重大だ。まさに飛ぶごと、航行するごとに予算が費やされてしまい、「有事(戦時)」において必要なより難しい技術を磨くための複雑な訓練にあてるための資金が少なくなってしまっている。

 「なんでも捕捉」という戦術は、紛争時に領土を守るための準備態勢を損なうものになりつつある。中国の軍事的な侵略行為を抑止するのは、自国の島嶼部への侵攻を食い止めたり、占領された場合に取り返したりするための統合的な防衛能力であって、中国の探りを100%阻止した実績というものではないはずだ。

 問題は、いかにこちら側の決意と能力が弱まっていると見られないよう、政策を変更できるかである。日本の防衛省と自衛隊は、自国領土において中ロはすべて捕捉・排除すべしという重い政治的な圧力にさらされている。日本の領土周辺で中ロが自由に活動すべきではないようにする対応は理にかなっているようには見える。しかし、日本が限られた防衛予算を、ムダが多く、高率の悪いやり方で費やしてしまうよう中国とロシアが画策できてしまう事態は許されるべきではない。

日本はどう変更すべきか

デニス・ブレア元米太平洋軍司令官(ランハム裕子撮影)

 いかにして日本はこのポリシーと作戦を変更していくべきか。

 第1段階は、この捕捉と排除の活動に予算をいくら振り向ければいいのか、そして有事のための訓練にいくら使うべきかを、航空・海上自衛隊が決めることだ。正確な比率というものはない。しかし捕捉と排除の活動は、訓練用の予算のごく一部、たとえば10%ほどに限られるべきだ。

 第2段階は、

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