メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

[119]モンテネグロで日産アライアンス広告

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

クロアチア航空に乗ってドゥブロヴニククロアチアのドゥブロヴニク=撮影・筆者

1月1日(火) こんな真夜中に出発する便に乗ったのは久しぶりのことだ。午前0時55分発の便でとりあえずフランクフルトへ。そこで乗り換えてクロアチアへと入る。機内はすぐに暗くなって皆、睡眠モード。7時間も眠った。

 その後、映画をみてみる。2010年の古いドキュメンタリー映画だが、『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』。とても刺激的な作品だった。5月革命当時のフランスでの2人のアクティヴィズム(社会運動に価値を置く生き方)を再認識。こんな時代が確実にあったのだ。ゴダールとトリュフォーの決別を記す手紙が生々しい。とりわけトリュフォーのゴダールに対する最後通牒は深い。

 ニューヨークタイムズ紙にカルロス・ゴーンの娘たちへのインタビュー記事が掲載されていた。勾留中のゴーンの体重が20ポンドくらい(約9キロ)減ったという内容や、父の逮捕は、日産・ルノーの統合阻止という日産側の描いた大きなプロット=筋書きに沿った動きだという、娘の発言からは、いろいろなことを想像させられる。

 フランクフルトに現地時間の午前5時着。5時間待ちの末にクロアチア航空に乗ってドゥブロヴニクへすんなりと行くはずだった。ところが、クロアチア航空が、突然、ザグレブ経由でドゥブロヴニクへ向かうと経路変更したうえ、出発時間が遅延、さらにザグレブで2時間以上待たされる羽目に。何じゃこれは。まいった。

 ようやく飛び立った機上からのドゥブロヴニクの町は、アドリア海の真珠と言われる場所だけあって、美しい! 頼んでおいたタクシーのドライバーのマリオは、運転しながらチトー(旧ユーゴスラビア大統領)を絶賛していた。さすがにクロアチアは遠いや。町自体は中世のヨーロッパの石畳と坂と教会と城壁からなる美しいたたずまいの場所。レストランの夕食でシーフード。午後9時から野外コンサートをやっていたが、僕は眠くなってバタン。遠くからリズム楽器のきついポップミュージックの音が聴こえてきた。

ボスニア・ヘルツェゴビナへ――戦争の記憶

1月2日(水) 時差ボケで午前4時に目が覚める。そのまま目が冴えたので、スラヴォイ・ジジェクの『絶望する勇気(The Courage of Hopelessness)――グローバル資本主義・原理主義・ポピュリズム』を読み始める。

 朝食後、ドゥブロヴニクの町並みを見渡せる山の頂上へ。あいにく小雨が降っていて風も強い。山の頂から眺望したこの町の美しさは、歴史という文字を感じさせる人間の営みの果実なのだった。ドライバーの名前は今日の男性もマリオだ。47歳のマリオは内戦の時、クロアチア軍の兵士だった。ユーゴスラビア軍(セルビア主体)や、ボスニア・ヘルツェゴビナ軍と戦った。山頂付近にはその戦争の痕跡がまだ残っている。

 その後も城壁に付属する旧修道院など市内を散策。風と雨が強くなってきた。よく観察すると、この町には猫が多い。野良にも誰かが居場所を与えている気配がする。市庁舎博物館には、ドゥブロヴニクの強いプライドを誇示する「城壁の歴史」ビデオが繰り返し放送されていた。

 宿舎に戻ってCNNをみていたら、ポール・サイモンのインタビューとインドのヒンドゥー寺院に入った3人の女性が逮捕されたことに抗議するインド人女性たちの抗議のデモ(拳を突き出す姿)が映し出されていた。

1月3日(木) 今日も午前4時に目が覚めてしまった。午前9時にホテルを出て、ボスニア・ヘルツェゴビナへと向かう。さいわい天気に恵まれたが風が強く寒い。山岳地帯の道路を通って2時間半で古い都市モスタルに到着。途中、セルビアの飛び地リュビーナを通る。セルビア国旗が掲げられていて、ここの住民たちの多くはセルビア正教を信じているという。

 クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ国境のチェックも大したことはなかった。パスポートにやたらスタンプを押されたが。モスタルは字義通りの古い石橋(スターリ・モスト)がシンボルになっている歴史ある町だ。橋をはさんで一方がカトリック、一方がモスレムが多い。長いあいだ共存共栄の関係が続いたが、1991年のユーゴスラビア崩壊に至る内戦で、橋が破壊され戦火が続いた。2003年に世界銀行やクロアチア、オランダ、トルコなどの支援で橋が再建修復された。今は多くの観光客が訪れている。オフシーズンで観光客はアジア人が多い。ハイシーズンはヨーロッパ中から人々がやってくるが、今は遠くからやってくるアジア人で閑散期をしのぐ観光産業の構造になっているようだ。中国人は団体が多い。かつての日本人とおんなじ。韓国からは若い人が多い。

 戦争の記憶は各所に残っていた。

・・・ログインして読む
(残り:約1827文字/本文:約3804文字)