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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(23)

第7章 困った時の切り抜け方 1.硬い言葉を恐れず漢字語に言い換える

市川速水 朝日新聞編集委員

SK Design/shutterstock.com

一番大切な「切り抜け方」を伝授します!

 ヨロブン、アンニョンハセヨ!

 私は個人的にはこの「切り抜け方」の章を一番大切だと感じています。ストレスをためないで済むためには、言葉につまった時、長い沈黙を相手に強いたり自分の頭の中が真っ白になったりしないために、あらかじめいろいろな「引き出し」を持っていれば安心だからです。幸い、文化が似ていますので、ジェスチャーでも手ぶりでも表情でも、伝わればそれでいいのですが。時には外来語(カタカナ言葉)もうまく織り交ぜていけば気が楽になります。

 日本語の世界から考えてみましょう。

 例えば日本語を習いたての外国人が「ぶっちゃけさあ」「マジっすか?」と言ったら、どう感じますか? 「すごい言葉を知ってるなあ」と感心しますか? 「品がないなあ」と思いますか? 「その前に覚える言葉があるだろう」(怒)の人もいるでしょう。

 その言葉自体は新しく、流行もしていて、若者っぽく響くのですが、問題は全体のバランスでしょう。安全で硬い表現をどれだけ知っているか、さらに、ほどよく「ざっくばらんさ」を身につけるか、織り交ぜるのがいい方法ではないかと思います。

 さて、今回のテーマに掲げた「言い換える」とはどんなことでしょうか。まず、日本語から着想していきましょう。

 「決める」は「決定する」、「選ぶ」は「選択する」、「できる」は「可能だ」と、それぞれほぼ同義語です。漢字が多ければ多いほど、あるいは音読みの方が硬い響きがするのは日本語の世界で当たり前ですね。

 その着想と、これまでに学んだ韓国語の知識を重ね合わせていきます。漢字語からハングルへアプローチし、知らない漢字語の熟語でも「勘」でハングルの形と発音が想像できるようになったのですから、きっと言い換えもできるはずです。

 「あ、わからない。言い換えたい」という言葉は、ほとんどが固有語でしょうね。それが~ほぼ全部といってもいいでしょう~知っている漢字語に言い換えが可能なのです。

 例を挙げましょう。

 「お昼に何を食べようか決めたいけど、なかなか決められないし選べない」という意味の言葉を口から発したい時、「決めたいけど決まらない」という表現が難しかったとします。それなら、「選択(선택)ができない」と言い換えてみます。硬くなりますが、言ってしまえば通じます。「チョイス(쵸이스)できない」と外来語で言っても通じるでしょう。

 ほかにも言い換え例を挙げてみましょう。

 ビフォー・アフターでいえば、ビフォーは固有語、アフターは全部漢字語か外来語です。

言葉の言い換え例
◇泊まる(머무르다、묵다)→宿泊する(숙박하다)
◇乗る(타다)→乗車する(승차하다)
◇(品物の値段を)まけてくれる(깎아 주다)→割引してくれる(할인해주다)→サービスしてくれる(서비스해주다)
◇できる(할 수 있다)→可能だ(가능하다)
◇通う(다니다)→通学する(통학하다)
◇時が流れる(시간이 흐르다)→時間が経過する(시간이 경과하다)
◇(病気が)よくなる(낫다)→回復する(회복되다)
◇この飲み屋のつまみはうまい(이 가게의 안주는 너무 맛있다.)→この食堂の食事は美味しい(이 식당의 식사는 맛있다.)
◇あの人は優しくて気が利く(그 분은 마음씨가 착하고 눈치가 빠르다.)
*「ヌンチ(ヌヌッチ)」というのは韓国語特有の表現です。勘とか、めざといとか、「その場の空気を読める」ことを指す便利かつ神秘的な言葉です。
→あの人は性格がよくて親切です(그 사람 성격이 좋고 친절해요.)
◇うまくいくといいですね(잘 되면 좋겠어요.)→幸運を期待します(행운을 기대하고 있습니다.)

ちょっと寄り道㊲ 漢字語チラリ動詞

 「がっかりする」という意味で韓国語で一番使われるのは漢字語の「失望、실망하다」(シルマングハダ」だと思います。「着いた」の一般的な言葉も「到着、도착했다」(トッチャクヘッタ)です。日常使うことばで漢字語が一番使われると知った時は、なぜか「はっ」と、あるいは「ほっと」します。日本語ではまず漢字語の音読みは難しい言葉や文語として扱われ、日常会話に音読みの一部を流用するような例は少ないからだと思います。

 日本語で「時」を「とき」というニュアンスも韓国では「時間」(시간、シガヌ)が一般的です。時を表す別な言葉で固有語の「テ」(때)もありますが、こちらは「若い時」とか「あの時」と前後関係で何か条件を付ける場合に使われます。

 一方で、日常で使われる動詞の中に、漢字語が1字だけ含まれていることが割合多いのも驚きの一つです。例えば「決める」は「決定」の1字を使って정하다「定(チョング)ハダ」、「気楽だ」「居心地がいい」は「便利」「利便」の1字を使って편하다「便(ピョヌ)ハダ=ピョナダ」、「傷つく」は「負傷」の1字を使って상하다「傷(サング)ハダ」です。

「選ぶ」は「選択」の1字を使って택하다「択(テク)ハダ=テッカダ」
「伝える」は「伝達」の1字を使って전하다「伝(チョヌ)ハダ=チョナダ」
「求める」は구하다「クハダ」。これも「求=구」の1字を使っています。
「願う」が원하다。「願う」+「ハダ」=ウォナダ
「勧める」は권하다。「勧」+「ハダ」=クォナダ

 つまり、日本語はそれぞれの漢字に音読み、訓読みがある。易しい言葉になると訓読みになるから「傷」を例にとれば「傷(きず)つく」「負傷(ふしょう)」のように読みが変わってしまう。でも、韓国語の場合は原則、漢字にひと通りしか読みがないから、易しい言葉になっても読みは変わらないという理屈です。以前お伝えしたように、歩く、食べるといった身の回りの動詞は圧倒的に固有語が多いのですが、自分の意志とか、主体性を伴う動作は「漢字語チラリ」が目立つようです。

 この「漢字語チラリ動詞」を集めると、けっこう動詞が覚えられてしまいますよ。


 ストレス解放作戦の続きです。相手の言うことがちんぷんかんぷんだったり意味不明だったりした時、どう言いましょうか。こちらの語学力の問題、先方の方言(なまり)の問題、文化や思考の違いをお互いが分かっていない場合などいろいろ原因はあるかと思いますが、そんな時に。

もう一度言ってください→다시 한 번 말씀해 주시겠어요?
ゆっくり話してください→천천히 말씀해 주세요
少し理解できないのですが→이해가 잘 안 되는데요 *「理解」は漢字語読み
こんな時、なんていうんでしたっけ?→이럴 때 어떨게 말하면 될까요?
(独り言のように)なんというか…→뭐랄까?

 ここで少し上級語です。告別式の時にご家族にかける言葉。特別に思い出があれば特に問題はないのですが、儀礼上、参列してご遺族に対して特に伝える言葉がない場合です。

 なんと申し上げてよろしいか分かりません。→뭐라고 말씀드려야 될지 모르겠습니다.

ちょっと寄り道㊳ 臭い、匂い、香り

 「嗅覚(きゅうかく)」にまつわる言葉は難しいですね。嫌な「におい」や、気分が和らぐ「アロマ」、香水の「香り」など、使う単語によって感覚の差を微妙に区別します。形容詞も「かぐわしい」「くさい」と様々ですし、程度を表す言い回しも「プンプン」「ほのかに」「一面に」「充満」など数えきれません。

韓国式のり巻き、キムパ。ごま油が食欲をそそります。
 韓国語も使い分けています。「におい」は「ネムセ(ネムセ)=냄새」、香りは「ヒャンギ(ヒャングギ)= 향기」。後者は「香気」という漢字語です。私が浴びせられる言葉はたいがい「ネムセ」の方です(ニンニクや焼き肉の煙が原因)。

 韓国語には「匂う」「臭う」という形容詞はないようです。「におう」を辞書で引くと、「냄새가 나다(ネムセガ・ナダ)」、直訳すれば「においが出る」です。

 日本語で言うと「臭いがする」「香りがする」でしょうか。考えてみると、においは気体なので「出る」がむしろ正しいような。日本語はなぜ「する」のでしょうか…。

 ところで、「臭」という字はたいがい良くない臭気の意味で使う場合が多いのに、日本語には「悪臭がする」「いやな臭い」と意味を重ねていう場合もあります。「このあたり変なにおいがする」と「このあたりは臭う」は、ほぼ同じ意味ですよね。こうした言葉は、広い意味で「重言」(じゅうげん、じゅうごん)というようです。

 臭いのほかにも、「歌を歌う」「踊りを踊る」など、ふだん使う言葉にもたくさん隠れています。有名なものでは「頭痛が痛い」「馬から落馬する」など熟語と動詞・形容詞を掛け合わせた場合に目立ちますが、これらは新聞社など活字や文章の世界では御法度で、「間違い」「要修正」とされます。ただ、「えんどう豆」「びっくり仰天」となると、よく考えると重言なのですが、あまりにも日常に浸透しているため、問題ないとされます。

 韓国語でも「踊りを踊る」は、同じ字を使って춤을 추다(「ㅁ」パッチムは、動詞を名詞形にする時の子音の一つ)といいますが、ほかの動詞は日本語ほど多くありません。例えば「歌を歌う」の場合は「노래를 부르다」と言います。부르다は「呼ぶ」「招く」という意味で、口から何か発して呼びかける場合に使います。「ノレ・ハダ」も使います。「歌をする」という感じですね。

 부르다は「称する」「叫ぶ」など、使い勝手がいい言葉です。飲みに誘ったり誘われたりする時も。

 そうそう、重言でいえば、「ハングル文字」が代表格ですね。ハングルの「クル」は文字のことですから。ただ、ハングル文字について、「それは間違い」と指摘しても、知ったかぶりと思われるだけなので、気をつけましょう。

 今回は、立て続けに別な寄り道です!

ちょっと寄り道㊴ 料理は言葉の宝庫

家庭料理の定番、チャプチェ。「雑菜」の漢字語読みですが、なぜ「雑」なのでしょうか。
 お待ちかねの料理コーナーです(って私だけですかね)。そもそも「韓国語がんばろう!」と思った動機の一つが「美味しいものを注文して食べたい」だったからです。

 万国共通だと思いますが、料理名のほとんどが「調理の仕方+材料名」(あるいはその逆)になっています。

 「焼き魚」「焼き鳥」とか「混ぜごはん」「豚シャブ」といった具合です。なかにはメインの具材を省略して「刺し身」、「串焼き」などと言ったりもします。日本で暮らせば、具材が何なのか想像できますね。韓国語も同じ雰囲気です。

 端から端まで料理の言葉を覚えようなどという考えはやめましょう。実際に食べる前に忘れてしまいますので。食べたいものから「つまみ食い」しましょう。

 日本でかなり有名になった韓国料理もあり、意味は分からなくでも、名前を覚えてしまったものがあるのではないでしょうか? キムチとか、ボックンバ、チゲ、ビビンバ、サムギョプサル…。その言葉の意味を改めて理解すれば、さらにおいしいものを注文できます。留学中、私はおいしい物を食べられないことが悔しくて、悔しくて、本当に涙が出ました。メニューが読めないし。キムチボックンバ(キムチチャーハン)を誰かが頼むのを待って、指さして「あれ、チュセヨ」なんて言ってましたから。

 食べ物の恨みは恐ろしいのです。今は「分からないメニューなどない」と言い聞かせて励みにしています。もっとも、初めて味わうことに関心がありすぎて辛すぎて食べられないこともあるのですが。

◇肉の種類

 まず、肉の種類です。高級(というか値段)の順に。

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