メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

[122]世田谷に澁澤龍彦、降臨!

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

記者会見する特別監察委の樋口美雄委員長(右)ら=2019年1月22日午20190122記者会見する特別監察委の樋口美雄委員長(右)=2019年1月22日

1月22日(火) 午前中「報道特集」の定例会議。目の前に広がる荒野。転倒してうった肋骨部分が痛む。午後いちで局の診療所に行き、診察してもらう。痛み止めと胃腸の荒れを防ぐ薬と貼り薬を処方してもらった。今週の前半特集は、結局、厚労省の勤労統計不正を続けてやることになったとの連絡で、急遽、今日の午後4時からの特別監察委員会の報告書提出後の記者会見を取材することになった。

 厚労省の記者会見室は満杯状態。座る場所などとっくにない。Mディレクターがどこかから椅子を運んできて記者席の横にちょこんと置いた。ああ助かった。今の体調では非常にありがたい。そこから会見を聞くしかないか。午後4時から特別監察委員会の記者会見が始まったのだが、報告書の説明をする樋口美雄委員長やその両脇にいる人々(元判事とか肩書はそれぞれ、そこそこの人たちだ)からは、事態の深刻さへの怒りが伝わってこず、率直に言えば「幕引き」の、「幕引き」による、「幕引き」のための、「幕引き」と感じざるを得なかった。不正への組織的な関与や、組織ぐるみの隠蔽について質しても、聴取した職員の言い分をそのまま信じて「隠蔽とまでは認定できなかった」とは、これでは第三者委員会の体をなしていないのではないか。あまりにもお粗末で、その割には、厚労省の記者たちが(僕からみれば)あまりにもおとなしいので、会見終了直後に廊下まで樋口委員長を追っかけて行って「樋口さんは統計委員会の委員長の前任者だったでしょう。その時もこの不正が行われていたということは、あなたも騙されていたということじゃないですか?」と訊いた。すると「そうですよ。僕の方があなたよりも怒っていますよ」とだけ言い置いて引き上げて行った。

 その後、20分ほどの間隔を置いて、今度は根本匠厚労大臣の記者会見だ。この性急さは何なんだろう。早くこの問題を終わりにしたい、幕引きしたいという段取り感が丸見えである。この根本大臣というのが、会見を行ったはいいが、役所が用意した職員に対する処分の概要のペーパーを丸読みするだけで、ほとんど会見の体をなしていない。さすがに僕は「幕引きを急いでいるととらえられても仕方がないのではないか」と直接聞いたが、まともな答えは返ってこなかった。それもそのはずで、この会見のあとすぐに、大臣が幹部職員に訓示を行う予定が組まれていたのだ。そこに撮影に行くと20数人の幹部職員たちが、まるで学校の教室で教師に叱られて立たされた生徒たちみたいに手持ち無沙汰に立ち尽くしていた。みな無言である。根本大臣があわただしく入ってきて訓示をそそくさと始め、あっという間に終わって退出していった。この時間、厚労省担当の記者たちは「事務方」からブリーフィングを受けているとか。とにかく取材は来てみるものだ。いろいろなことがみえてくるから。厚労省の勤労統計不正はこれで終わると思ったら大間違いの事態だと思う。

 このニュースの陰であまり大きな扱いになっていないが、プーチン・安倍日露首脳会談はほとんど中身のない無残なものとなった。政府があれほど喧伝していた「領土問題の進展」など1ミリもなかった。それを煽っていた政権寄り添い記者たちはどう責任をとるのだろう。

 「現代思想」の水嶋一憲の小論、なかなか面白い。

『高丘親王航海記』をみる。生きていてよかった!

1月23日(水) わき腹の痛み続く。まいった。局の診療所で再度みてもらう。午前11時にNHKが「日産のカルロス・ゴーン前会長、ルノーのトップ辞任の意向」とニュース速報。あしたの動きでスケジュールをもろもろ調整。「調査情報」に書くことを考えるために頭のなかを整理。辺見庸講演とNHK『こころの時代』。コミュニケーション資本主義。服従化と隷属化の装置としてのスマホ。これは水嶋一憲氏の論考に触発されてのものだ。このくにで進行する「気持ちの悪さ」。特に日韓はひどい状況になっている。

 たまたま電話をいただいたGさんと長話をするが、テレ朝の『報ステ』の衰退凋落ぶりがひどい、日テレのUさんもがっかり、ニュース番組でみるものがなくなったわ、と一方的に話される。こちらは黙って聞いているしかない。その後、調査報道の素材をみる。4年前の記憶がよみがえってきた。神保町でM氏から東京五輪疑惑について詳細なレクチャーをうける。

1月24日(木) 寝返りを打つとわき腹の痛みが響く。今日午後の『罪と罰』の観劇は止むを得ずキャンセル。残念無念。厚労省の勤労統計不正。なぜ国民はもっと怒らないのだろうか。今回の不正をそもそも指摘した総務省の統計委員会(このことだけでも統計委員会・西村清彦委員長は偉い!)の北村行伸委員長代理にインタビューに行く。場所は国立の一橋大学経済研究所。自然にめぐまれたキャンパスに赴く。北村氏は朴訥としたお人柄のようで、厚労省の役人に「裏切られた」と言っていた。統計の

・・・ログインして読む
(残り:約2335文字/本文:約4408文字)