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[138]猿になりたくなかった猿

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

丸山穂高衆院議員北方領土返還に関する「戦争発言」で日本維新の会を除名された丸山穂高衆院議員

5月14日(火) 午前中『報道特集』の定例会議。何かものを言うべきタイミングだったのだが、自分のなかにそこまでたたかう気力、勇気が今日はとても残っていないのだった。スポーツの日比麻音子さんが今月いっぱいで番組を「卒業」と突然、会議での発表。

 その後、銀行に行ったり、雑務の整理をする。夏の広島の件でHさんとお話をする。七つ森書館で本にサインして郵送をお願いする。番組担当者から連絡。今週の前半ネタは「高齢者ドライバー」だという。えっ、そうなの。僕はてっきり米中貿易戦争を扱うのかと思い込んでいた。世の中にはいろいろな考えを持っている人がいるものなのだ。今週は、プライベートで旭川の義母の納骨の法事があり、金曜日に帰京することになっていたが、切り上げて帰京するかどうか。迷ってしまう。

 維新の丸山穂高衆議院議員が、いわゆるビザなし交流訪問団に参加し、その際、北方領土問題に絡んで、元島民にとんでもない暴言を吐いたとのニュース。丸山穂高議員と言えば、僕の認識の中では、ネトウヨ的言説を国会内で堂々とまき散らすトンデモ議員のひとりだ。「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」「戦争しないと、どうしようもなくないですか」などと発言していた。丸山議員は、元島民から「戦争などという言葉を使うな」などと、たしなめられていた。大人が子どもを諭すように。

 丸山議員と言えば、2年前の「共謀罪」法案の委員会審議で「委員長、もういいでしょう。早く採決を」などと強行採決を促したいわくつきの議員だ。また、ネトウヨ系のインターネット番組で、ネトウヨめいた発言を繰り返してきた。与党内には似たような議員が他にもいる。それが今の日本の議会政治のまぎれもない現実だ。

三島由紀夫三島由紀夫=1969年

三島由紀夫の天皇論は「劇薬」

5月15日(水) 沖縄本土返還の日。今日は岸井成格さんの命日だった。話のできるジャーナリストがどんどんいなくなっていく。TBSのKから、「三島由紀夫VS東大全共闘」のTBS所蔵フィルムのことで電話が入る。電話の趣旨がよく理解できなかったが、要するに「NEWS23」で、そのフィルムを特集でKが扱うとの事前通告だったのかな。僕自身も日本人にとって天皇制とは何かを考えていることもあり、こちらから、どうのこうのと言うべき筋合いはない。好きにやればいいのだ。「三島由紀夫VS東大全共闘」については、僕自身もう33年前に特集をつくったことがあり、その後も2回ほどこのフィルムを使って特集を組んだことがあった。あの映像が広く市民に共有されること自体はいいことだと思っている。歴史的な出来事なのだから。三島の天皇論は、今現在のふやけた天皇制に関する言論状況においては、一種の「劇薬」であり、生半可な扱いを許さない部分がある。それを超えることができるのか。問われるのは僕らだ。

 夕方の便で旭川へと向かう。駅前のホテルに家人と投宿。あしたの朝が義母の法事のもろもろで忙しいので、夜のうちに中学以来の親友Mと会う。お互いに歳をとったなどという世間話を2時間ほどしてホテルに引き上げる。本当に気のおけない友達の数はどんどん減ってきた。人と敵対し続けるのは相当なエネルギーが必要だ。また逆に、人から敵対され続けるのに耐えるのにも相当な気力が必要だ。憎悪の根源に遡れば遡るほど、その憎悪が強まるということがあることを知る。こういう時は泳ぐに限る。横浜に戻ってから泳ごう。

5月16日(木) 早起きして、ホテルの大浴場に行き、まずアルコールを抜く。旭川市内の高台にある墓地で義母の遺骨を墓に入れる納骨式。義父を迎えに行き、車で分乗してお墓を水で清め、お坊さんに読経をしてもらい、納骨。義母の骨を初めてみた。亡くなった時は仕事で葬儀に立ち会うことができなかった。墓地は旭川の街を一望できる高台にあって、とても環境がいいが、冬は雪の下にすっぽりと入り込んでお参りも難しいのではないか。この墓地には三浦綾子の墓もある。その後、ホテルに戻って雑件を片づけ、19時30分発の最終便で東京に戻る。あしたの朝の取材に間に合わせるためだ。

5月17日(金) 午前中、江東区東雲のオートバックスに行き、そこで、アクセル、ブレーキ踏み間違い防止装置のトライアル運転。何で自分がこういう役回りをするのか、自分でも納得がいかないまま「取材」と称して撮影されることになる。恩師の筑紫哲也が44歳の時に出した本で『猿になりたくなかった猿――体験的メディア論』(1979年、日本ブリタニカ)という本がある。今の時代でも優れたテレビ論だが、そこに記されている文章を引用する。

 <……テレビという私にとって新奇な世界で仕事をすることになってから、「テレビ・マンは番組の出演者を“猿回しの猿”だと思っているのか」と私がテレビ側の仕事仲間にカミついたら、

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