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「日韓」の悪化、「対北朝鮮」に悪影響

日韓の相互不信は深まるばかり。これでは双方の北朝鮮交渉も進みそうにない

鈴木拓也 朝日新聞記者

シンガポールで開かれたアジア安全保障会議の夕食会で握手する岩屋毅防衛相(右)と韓国の鄭景斗国防相。岩屋氏が笑顔で握手を交わしたことに対し、自民党内から批判が出た=2019年5月31日、韓国国防省提供

北朝鮮のミサイル発射にも日韓に温度差

 2月にベトナム・ハノイであった2回目の米朝首脳会談が物別れとなり、北朝鮮は5月上旬に複数の短距離弾道ミサイルを発射した。国連安全保障理事会の制裁決議違反となる弾道ミサイルの発射は2017年11月以来で、挑発行為のエスカレートが懸念されている。

 こうしたなか、5月31日から6月2日にかけてシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)では、今年も北朝鮮の核・ミサイル問題が主要議題の一つになった。日米中韓の政府高官らが主張を述べたが、その中で韓国の鄭景斗国防相の発言内容は北朝鮮への配慮がにじみ出ており、文在寅政権の苦しい立場を物語っている。

 鄭氏は演説などで、南北軍事境界線近くでの敵対行為の停止など、昨年9月の南北首脳による軍事分野合意を取り上げ、北朝鮮が「徹底して履行し、対話の場を壊さないように努力もしている」と評価した。

 日米両政府は発射されたミサイルが制裁違反となる弾道ミサイルと断定している。これについても「弾道ミサイルなのか、違うのかといったたくさんの話が出ている。一節にはロシアの(短距離弾道ミサイル)『イスカンデル』と同一の新型ミサイルとの話もあるが、韓国政府は分析中だ」と言及を避けた。

 そのうえで、ミサイル発射の意図について「米国に譲歩という政策変化を願う部分がある。平和的な対話で解決しなければならないという意味が込められている」などと指摘。米国の歩み寄りにも期待した。北朝鮮に「弱腰」とも取れる発言が続き、隣で聞いていた岩屋毅防衛相が、「ショート・レンジ(短距離)であれば許されると、北朝鮮に誤解を与えてはいけない」と釘を刺す場面もあった。

APECビジネス諮問委員会(ABAC)に臨む安倍首相。右は韓国の文在寅大統領=2018年11月17日、ポートモレスビー

南北交渉に打つ手なしの韓国

 韓国の文在寅政権が北朝鮮を過度に刺激したくない理由の背景には、国内での支持率低迷がある。

 ソウルの大学に通い、来年に就職活動を控える男子大学生は、収賄や横領の罪で有罪判決を受けた李明博元大統領を引き合いにこう話す。「最初はクリーンなイメージの文在寅を支持した。だけど、何もしてくれない。悪いことはしたが、経済政策にも取り組んだ李明博のほうがましだった」

 政権発足当初に8割を超えていた支持率は40%台後半に下落。経済政策や就職対策への不満から、特に20~40代の若い層の不支持が目立つ。韓国政府関係者は「文大統領が成果として誇れるのは、南北関係の改善くらい。北朝鮮が挑発行動を続けて再び緊張が高まるような事態は絶対に避けたい」と話す。

 北朝鮮に非核化を促すためには、昨年9月の南北首脳会談で合意した「平壌共同宣言」に盛り込まれる、開城工業団地や金剛山観光の再開、鉄道事業などの南北経済協力が必要との立場だ。

 だが、米朝交渉が行き詰まり、北朝鮮が期待する経済協力は進めることができない。人道的な観点からの食糧支援に限っては米トランプ政権が容認し、準備を進める。ただ、北朝鮮側は「我々の要求と大きな距離がある人道主義協力事業をめぐり、まるで北南関係が前進するかのように大げさにふるまうのは、同族への礼儀を欠く行為だ」(5月12日、北朝鮮のインターネット媒体「メアリ」)との批判を繰り返す。

日朝交渉の見通しも立たず

 有効な手立てが見つからないなかで最近、韓国政府関係者がよく口にするのは、皮肉にも徴用工問題などで関係が悪化した日本への期待だ。

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