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デンマーク総選挙が物語る欧州政治の「末路」

花田吉隆 元防衛大学校教授

コペンハーゲンの街中に貼られた選挙ポスター=5月27日、下司佳代子撮影

 何ともはや、グロテスクというべきか。6月5日行われたデンマーク総選挙で社会民主党が第一党となり、連立交渉を経て政権を発足させる模様である。欧州で退潮著しい社会民主党がよくぞ勝利した、と思いきや、その実態は社会民主党に極右ポピュリスト政党が乗り移ったと言った方がいいようなものだ。社会民主党は「これぞ新しい社会民主主義モデル」と胸を張るが、端から見る者にとってはここまで来たか、との感が強い。

 社会民主党は25.9%を得票、前回2015年の26.3%からは落ちたものの、議席数で47から48議席に増やした。これまで政権の座にあった自由党は23.4%、これも議席数では9議席増の43議席だが、社会民主党を中心とした左派陣営が179議席中91議席と過半数を占めることとなり、同党中心の政権が発足する見通しである。実現すれば4年ぶりの政権交代であり、メッテ・フレデリクセン党首はデンマーク史上最年少、弱冠41歳での首相就任となる。自由党はこの18年間、14年にわたり政権の座にあったが、今回、下野を余儀なくされた。

 選挙日直前、自由党は、得票予想が伸びなかったことを受け、ルッケ・ラスムセン首相が中道右派と中道左派による連立を呼び掛けた。社会民主党は、5日、自由党の申し出を正式に拒絶した。フレデリクセン党首はこれから連立交渉に入る予定である。ただ同党首は、多数派形成は必ずしもこだわらず、少数与党で政権を発足させるとしている。

勝利の要因は何か

 拙稿「動き出したドイツ政治の地殻変動」で述べたとおり、欧州で中道政党の後退が進む中、とりわけ社会民主党の退潮が顕著である。ドイツでは、とうとう緑の党に第二党の座を奪われ、欧州議会選挙で15.8%まで落ちた。一時40%を超える支持率を誇った政党としては哀れな末路としかいいようがない。そういう中でのデンマーク社会民主党の快挙である。一体、勝利の秘訣は何だったのか。

 第一の要因は、社会インフラの劣化に対し改善を訴えたことだ。デンマークは北欧の福祉大国として高負担、高福祉が売り物だ。国民は高い税金を払うが、その代わり政府から手厚い福祉政策を受ける。

 その福祉がデンマークで劣化している。学校数がこの10年で1/5減った、病院が1/4消えた、と福祉政策のお寒い状況を物語る数字に事欠かない。自由党は財政緊迫化を理由に福祉予算を削ろうとする。しかしそれでは高い税金を払う意味がない。このまま自由党に政権を任せておくわけにはいかない。

 実は、ここに、福祉国家が抱える構造的問題がある。低成長、高齢化の中で高福祉を支える財源をどこから捻出するか。かつて、高成長、人口増の時は福祉国家モデルは機能した。しかし今は状況が違う。成長が鈍化し、高齢者が増えるに従い福祉関連支出が増加、いくら高負担と言っても国民が払える税金には限度がある。これをどう解決するか。

 今回、社会民主党はこういった国民の不満を鋭く嗅ぎ取り、福祉政策の充実を公約に掲げた。だからといって同党に財源の当てがあるわけではない。これまで自由党ができなかったことが社会民主党に代わったところで、問題が構造的である限り、いい解決策が見つかるわけではない。しかし社会民主党は選挙戦の目玉として福祉の充実を訴え続けた。

「反移民、難民政策」が強くアピール

 だが、社会民主党の勝利は「福祉政策の充実」にあったのではない。もう一つの主張、「反移民、難民政策」こそが有権者に強くアピールしたのだ。

 欧州はどこも移民、難民問題が政治の風景を変える。2015年の難民危機はドイツ政治を一気に変えてしまった。デンマークでも反移民、難民感情は同じだ。その流れに乗り、この20年来、極右政党デンマーク人民党が急速に台頭した。

 極右政党の台頭を受け既存の中道政党はどうすべきか。これを排斥するか取り込むか。デンマークが行ったのは「取り込み」だ。極右政党の反移民、難民の主張が各党にじわじわと浸透、

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