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[140]長野県の山中で仙人のごとく……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

負傷者の搬送活動が続いていた。後方は「カリタス学園」と書かれたバス=2019年5月28日午前8時44分、川崎市多摩区登戸新町2019年0528川崎殺傷事件当日の現場=2019年5月28日、川崎市多摩区登戸新町

5月28日(火) 朝、かなり早めに局に着いて雑件を片づけていたところ、川崎市内で異様な事件が発生したとの一報で、テレビをつけると空撮で現場を撮っている。午前7時40分ごろ、川崎市登戸の駅近くで、男が児童や保護者を次々と刃物で襲ったという。いわゆる「通り魔」事件か。「報道特集」の定例会議中も、そのことが気になって、何だか気が気でなかった。その後、情報が入るに従って、被害の全容の異様さが刻々と伝わってきた。スクールバス待ちの児童が被害にあったようだ。女児1人と保護者1人が死亡し、重傷者も多数出たようだ。襲った男は自殺をはかり、その後死亡が確認された。何という無残な犯行だろうか。動機などはまだ不明だが、読売新聞の夕刊だけが被疑者の氏名を報じていた。その後、夜になってNHKなども報じ始めた。「ニュースウオッチ9」をみていたら、自宅に記者が訪ねて行ってチャイムを押していた。無反応だったが、ちょっと驚いた。その後、県警の人間がその自宅に入っていったので、中には家族がいたようだ。

 パソコンが不調になってまいった。午後遅く、除染費用の54%もがいわゆる「減容化施設」(汚染物資の焼却等施設)の建設解体に使われている実態について原子力市民会議のブリーフィングがあった。除染についてはとても興味があるので参加した。「除染ビジネス」の内実は取材に値する。

 その後、局に戻ってテレビをみ続けるが、川崎の事件の現場取材に行くべきだったと強く反省した。僕は記者なのだから。基本的な動作が弱ってきていないか、僕らは。被害に遭ったカリタス学園の校長が「マスコミの皆さん、どうか子どもたちの写真を撮ったり、インタビューをしないでください」と語気を強めて発言していた。夜になって雨が降り出している。

5月29日(水) 未明に外で雨が強く降っているので目が覚めた。まだ午前5時前だ。 PCが不調になってしまい、やむを得ず、出張業者にみてもらう。2年ぶりのことだ。最悪の事態は免れたか。朝から情報番組は、川崎の事件を詳報している。犯行に及んだ51歳の男性に関する情報に焦点が移ったようだ。自殺願望と無差別襲撃が合体したケース。近隣とのトラブルも頻発していた上に、生育家庭環境は薄幸のようだ。ある種の社会的な背景も徐々にみえてきた。

 その後、銀座へ移動して「映画と社会」をめぐる鼎談。小森陽一さん、望月衣塑子さんと。その後、現代美術家協会の現展へ。さらにその後、早稲田大学関係のガイダンス。僕らとの鼎談の後、望月さんは官房長官記者会見で、菅氏から「暴言」を浴びせられたことを知る。

『作兵衛さんと日本を掘る』に頭が下がる

5月30日(木) 早起きしてプールへ行き、がっつりと泳ぐ。泳がずにはいられない。ストレス・フリーになりたい。泳いでいて30分を過ぎると、からだから自然に力が抜けてくる。外もからっと晴れている。テレビは依然として川崎の事件だ。やはり、この事件には時代を映し出す要素があると思う。

 熊谷博子さんの『作兵衛さんと日本を掘る』をみる。これは本当によくやったとしか言いようがない。頭が下がる思いだ。熊谷さんが、故・山本作兵衛さんと一緒に、日本の縮図である炭鉱の坑道を一緒に掘って今・現在に辿り着いているのである。一緒に掘っていることが最重要なのだ。作兵衛の絵を材料にしてカメラで撮って作品化しているのではない。この絵を描かせた坑道を、熊谷さんは一緒に掘っているのだ。もっと早くみるべきだった。いつだってこうだ。今年前半みた映画のベスト5に入れよう。作中の森崎和江さんの昔の著書『まっくら』を読みたくなった。

ドキュメンタリー映画、25日から中野で公開東京都写真説明 映画から。山本作兵衛の作品「低層炭 坐(すわ)り掘り」(1973年)=山本家提供ドキュメンタリー映画『作兵衛さんと日本を掘る』から山本作兵衛の作品「低層炭 坐(すわ)り掘り」(1973年)=山本家提供

5月31日(金) 午前中、「報道特集」の取材で衆議院外務委員会委員長の若宮健嗣議員にインタビュー。米中貿易摩擦をめぐって。10連休中に訪米して、米シンクタンクのハドソン研究所に行き、マクマスター前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に面会してきたという。マクマスター氏は同研究所のジャパン・チェアの責任者に就任したらしいが、なぜジャパン・チェアなんだろう? 国家安全保障の見地から、トランプのアメリカは、覇権戦争の長い道のりに乗り出そうとしている。その主張の中心人物の一人がマクマスターであることは本人が認めているところだ。直接話を訊いてみたい一人だ。

 その後、首相官邸前の沖縄基地問題のデモを

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