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[141]天安門事件30年。山形ワイン

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

事件発生から1週間、現場近くには数多くの花束が手向けられ、行き交う人たちが手を合わせていた=4日午前7時7分、川崎市多摩区2019年6月4日川崎・登戸の殺傷事件から1週間、現場近くには数多くの花束が手向けられていた=2019年6月4日

6月4日(火) 午前中、「報道特集」の定例会議。前半の特集は参議院選挙の一人区に焦点をあてたものになりそうだ。川崎の殺傷事件やその後の元農水事務次官の長男殺害など、時代を映し出す事件への無反応に内心苛立っていたので、先週のネタは米中貿易摩擦ではなく、そっちの方だったんじゃないの、程度の感想を言ったが全くの無反応だった。議論をしないのだ。いつからこんな御前会議みたいなふうになってしまったのか。息苦しい。

 川崎の殺傷事件の現場をみる。いまだにひっきりなしに献花に人々が訪れていた。現場のひとつとなったコンビニ前の道路脇に記者が座り込んでパソコンで記事を送っていた。この風景自体が非日常なのだが。

 局に戻って「調査情報」の原稿をひたすら書く。三島由紀夫の天皇制について。というよりは、三島由紀夫の「戦後否定」の根拠としての、日本人の戦後の精神性の喪失、つまり金さえ儲かればいい、過去なんてどうでもいい、日本人として生きていくうえでの「論理的な一貫性」=integrityの欠如を問う姿勢について書きたいと思っていたのだ。今から考えると、「三島由紀夫VS東大全共闘」のフィルムに何故僕があれほど惹かれたかの根っこには、このことがあったのだと思う。

 午後になって「報道特集」の特集が急遽差し替えになって、「引きこもり」についてやるという。何があったのかよくわからない。福岡県在住の奥田知志さんの意見に深く考えさせられたことがあったので、そういう深掘りができればいいと思っていたのだが、参議院選挙の企画は予定通り取材を進めるという。それで僕はあした秋田へ行くことになる。そう言えば今日はあの天安門事件から30周年の日に当たる。

イージス・アショア配備予定地の現場へ

6月5日(水) 朝の便で秋田へ。空港で「調査情報」原稿の続きを書いて編集部にメールする。その後、取材クルーとドッキングして秋田市内の取材。ここは与野党の一騎打ちの構図になっている。農業県・秋田のいつもながらの争点(農業と過疎化)に加えて、ここに来て、イージス・アショア(地上配備型ミサイル迎撃システム)の配備が秋田市内の住宅地に近接した場所に決まりそうで、にわかに争点になっていた。その争点としての盛り上がりがどの程度なのか、現場に来て取材しなければわからない。

 地元紙の秋田魁新報が、新屋演習場を選定するにあたっての防衛相の報告書にずさんなデータがあったことをスクープしていて、これが大いに盛り上がっていた。地元紙の面目躍如である。与党議員と野党議員の双方に聞き歩く。IBC(岩手放送)の秋田駐在記者の小田嶋さんが非常にいい人で、実に有能かつ協力的な人物だった。元共同通信におられた方で共通の知人もいた。

イージス・アショアの配備候補地となっている陸上自衛隊の新屋演習場(中央)=2018年7月9日、秋田市新屋町、朝日新聞社ヘリから20180709イージス・アショアの配備候補地となっている新屋演習場(中央)=2018年7月、朝日新聞社ヘリから

 住宅地を取材して回っていたら、配備予定地の近くにあるお寺さん(勝平寺)の高柳俊哉住職が、イージス・アショアの配備に大変怒っておられた。お寺の建物の窓から撮影をさせていただいた。高柳住職と話をしているうちに、このお寺の屋外の仏像が全部海の方角を(つまり大陸側を)向いているとの説明があった。それは戦争中の悲劇を二度と繰り返さないという非戦の誓いのようなものだという。そこに今度は大陸側からのミサイルを想定した軍備を置くとは何ということかと怒っておられた。さらにひとりの僧侶の方がドローンの免許を持っておられて、イージス・アショア配備地がいかに住宅近接地に位置しているかをよく知ることができますと言って、ドローンを飛ばしていただいた。何というラッキー続きだろうか。小田嶋さんらと夕食をともにする。やっぱり現場に来てよかった。

6月6日(木) 朝から新屋勝平地区振興会の会長さんに、現場付近の住宅地を歩いて案内していただく。小学校、中学校、高校と学校が集まっている。丁寧に対応していただいた。

 15時45分発の飛行機で羽田に戻る。雑誌「クレスコ」の原稿。「Journalism」誌の原稿。川崎の殺傷事件と、ひきこもり報道に誘発された形の元農水事務次官の長男殺人をめぐって書く。

6月7日(金) 早起きしてプールに行きがっつりと泳ぐ。このところの運動不足とストレスと食べ過ぎで体が重い。

 その後、区役所に出向いて、印鑑登録と印鑑証明書をもらう手続き。これが結構な時間を要してしまった。おまけに運転免許証をどこかに置き忘れてしまい、身分証明のためのパスポートを自宅まで取りに帰ったのでなおさら時間を要した。雑誌「Journalism」の原稿で、国民投票CM規制について書くつもりだったが、もう少し取材を進めてみる必要があるのと、川崎の殺傷事件のテレビ報道で思うところが多々あったので、テーマを変えることにする。夜、毎日新聞社のMさん。戦後史関連。

天安門事件から流れ込む歴史のうねり

6月8日(土) 「報道特集」のオンエア。前半が「引きこもり」当事者および家族の直接取材。後半が日下部正樹キャスターとKディレクターの天安門事件30周年企画。これが実に見ごたえがあった。天安門事件で中国当局から指名手配された学生リーダーたちを密かに国外(香港や台湾、アメリカなど)に逃がす地下運動が当時あった。「黄雀行動」と呼ばれるものだ。日下部キャスターは、学生リーダーの一人・ウーアルカイシー氏に現在の居住地・台湾でインタビュー。さらには香港でこの「黄雀行動」を動かした牧師に当時の経緯を詳しく聞いていた。香港の裏社会(密輸船や移送ネットワークなど)が

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