メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

安倍総理!皇位継承の議論をすぐ始めましょう・下

皇室制度を守り皇族方の人生の尊厳を守るために女性天皇・女系天皇・女性宮家を

山尾志桜里 衆院議員

「地球科学・リモートセンシング国際シンポジウム2019」に出席した天皇、皇后両陛下=2019年7月29日、横浜市

皇位継承の検討開始は今秋?

 参院選が終わったからこそ、すぐさま始めなければならない議論がある。それは皇位継承問題である。「安倍総理!皇位継承の議論をすぐ始めましょう・上」では私がそう思い至った思考の道筋を整理してきた。引き続き「下」ではまず、安倍政権において女性天皇・女系天皇・女性宮家を実現することが可能かどうかという点から考えを進めたい。検討の手続き論に関しては菅官房長官の答弁、実質論に関しては安倍総理の答弁を手掛かりに、その可能性を探ってみる。

 そもそも、皇位継承問題の検討を開始する時期に関しては、生前退位に関する皇室典範特例法の付帯決議において、「政府は……(中略)……本法施行後すみやかに検討を行」うことが定められている。にもかかわらず、本法施行=代替わりが行われてすでに2カ月以上が経過しているのに、いまだ検討は始まっていない。「すみやかに」とは一体いつなのか。

 菅官房長官は、「平成31年4月30日以降速やかに」(平成31年2月27日衆議院予算委員会第一分科会)、あるいは「ご即位された後というふうに考えています。そんなに時間は待たないでというふうに思っています」(平成31年3月18日参議院予算委員会)と答弁しており、早期の検討自体には前向きである。これは前述の付帯決議において、皇位継承問題を「先延ばしすることはできない重要な課題」とピン止めしたうえで、政府に対し一定の時期を区切って検討義務を課した成果であるといえるだろう。

 さらに平成31年4月16日の日本経済新聞によれば、大島理森衆議院議長が都内で講演した際、「検討時期に関しては皇位継承に伴う一連の儀式を終える秋以降とした上で『政府には検討に入ってほしい』と述べた」とされている。

 これらから、安倍政権としても付帯決議を無視するわけにはいかず、今年の秋以降には政府としての検討が開始されると考えてよいだろう。

意外とも見える安倍氏の三つの答弁

 問題はその中身である。安倍総理は男系貫徹路線=旧宮家皇籍取得案に拘泥し続けるのだろうか。その点について、意外とも見える以下の三つの答弁を紹介したい。

 一つ目は、平成18(2006)年1月27日、小泉純一郎政権における安倍官房長官(当時)の答弁である。

 そこで安倍官房長官は、男系男子に限定する現行の皇室典範制定時の国会での論点として、①過去の事例を見る限り男系により皇位継承が行われてきており、それが国民の意思に沿うと考えられること②女性天皇を可能とした場合には、皇位継承順位など慎重な検討を要する困難な問題があり、なお研究を要すること③男性の皇位継承資格者が十分に存在していること――をあげている(衆議院予算委員会)。

 しかし、現在、国民は女性・女系天皇を十分に許容し、皇位継承順位についての議論も一定程度熟し、そのうえで男性の皇位継承資格者は極めて少なくなり限界に達している。こうした現状を冷静に議論すれば、安倍総理も官房長官時代の自身のロジックを崩すことなく、時代の変化を考慮して、「あてはめが変わった」ことによる「新しい判断」が可能なのではないか。

安倍晋三首相=2019年3月20日、国会
 二つ目は、平成29(2017)年1月26日の衆議院予算委員会での細野豪志議員に対する答弁である。

 細野議員が「男系を維持するために、希望する旧宮家の皇籍復帰もしくは養子、このやり方を総理御自身が発表されていますが、こういう考えを今でも持っておられるんですか」と質問したのに対し、安倍総理は「これは総理大臣に就任する前の話でありますが、一つの選択肢としてそれはあり得るのではないか、こう考えていたわけでございます。……(中略)……その制度をつくっても、これは全く絵に描いた餅にならないようにしなければいけないわけでございますし、……(中略)……では果たしてその対象者がどこも希望というか、全てから拒否されるということもこれはあり得るわけでございます」と答えている。

 男系貫徹=旧宮家皇籍取得(復帰)案について、総理大臣としての現在の自説と重ねることを明確に回避し、むしろこの案は実現不可能かもしれないことを具体的積極的に明言している。

 三つ目は、平成31(2019)年3月20日の大塚耕平議員に対する答弁である。

 大塚議員が「GHQの指示に基づいて11宮家と26人の皇族の方が皇籍離脱をしたという、これをこのままにしておいて本当に戦後政治の総決算ができるというふうにお考えですか」と質問したのに対し、安倍総理は「皇籍を離脱された方々はもう既に、これは70年前の出来事で、70年以上前の出来事でございますから、今は言わば民間人としての生活を営んでおられるというふうに承知をしているわけでございます。それを私自身がまたそのGHQの決定を覆すということは全く考えてはいないわけでございます」と答えた。

 戦後政治の総決算という文脈で、皇籍離脱の巻き戻しを提起する大塚議員の質問には驚いたが、それを明瞭に否定した安倍総理の答弁ぶりも、よい意味で意外であった。

 細野議員は旧宮家皇籍取得案について、「到底国民に受け入れられると思わない」と明言してきた否定派だ。他方、大塚議員は続く質問でも「旧宮家の皇籍復帰も皇位の安定継承の選択肢の一つと理解してよいか」と総理に確認を求めているから、旧宮家皇籍取得案に肯定的な立場なのだろう。立場が異なる二人の質疑者であるが、いずれも総理から旧宮家皇籍取得案に拘泥しない柔軟な答弁を引き出した功労者だと思う。

政府より先に立法府の検討が必要

Sean Pavone/shutterstock.com
 以上、政府は令和元年秋にも検討を開始する可能性が高く、安倍総理自身も少なくとも国会答弁上は柔軟な姿勢を見せ始めている。そこで、これからのポイントは立法府の動きとなる。立法府としての検討が、政府の検討にできれば先行、遅くとも並行しなければならない。

 なぜなら、天皇の地位は「日本国民の総意に基づく」(憲法1条)ものである以上、その本質にかかわる議論をリードするのは、政府ではなく国民代表機関である国会でなければならないからだ。

 もっと言えば、政府にリードを許せば、安倍政権の「ニッチな後ろ盾」の意向にさからえず、皇室制度が消滅するまで、旧宮家皇籍取得案を探り続けることになりかねないおそれがある。

 今回の生前退位を議論する立法過程においても、すべての政党・会派が「国民代表機関たる立法府の主体的な取組が必要である」との認識で一致、立法府が議論をリードしてその意思をとりまとめ、立法府の意思に相当忠実な「閣法」が提案されたからこそ、生前退位が可能となった事実を忘れてはならない。もし、政府が主導していたら、天皇の公務を軽減する案でお茶が濁され、今この瞬間も私たちは平成を生きていた可能性が高いかもしれない。

 安定的な皇位継承も、生前退位の議論と同様、「国民代表機関たる立法府の主体的な取組が必要である」ことに変わりはない。付帯決議は、立法府の主体的な取組を決して排除してはいない。立法府としての大きな役割を果たせるよう、今年の秋以降、動きをつくっていくことが肝要であろう。

皇室を守り皇族の尊厳を守るための制度変更

 私は衆院議員として3期目の任期において、憲法問題と皇室問題に意識的に焦点をあわせて取り組んでいる。いずれも、

・・・ログインして読む
(残り:約1498文字/本文:約4680文字)