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介護施設のスタッフの半分が外国人になる時代

介護は「不祥事に対する贖罪の行い」の場か。介護施設へ就職嫌がる日本人の親たち。

来栖宏二 アゼリーグループ 社会福祉法人江寿会理事長、医学博士

 介護人材不足の将来推計は各所で行われ、「2025年には約37万人不足」、「2035年には約79万人が不足」と言われるなど、その数字の大きさに強いインパクトを覚えます。この問題は、今ある介護サービスの提供者や利用者の問題だけではなく、保険料負担をしている現役世代、働き盛り世代が利用者になったときに直面する問題です。外国人を積極的に採用し、管理職にも登用している「アゼリーグループ」代表、来栖宏二さんの寄稿(前編後編)の後編です。みなさんはどう思いますか?(「論座」編集部)

前編「日本の介護施設で外国人が管理職になる日」の要旨

 2025年はまさに団塊の世代が後期高齢者、つまり75歳を迎える年であり、厚生労働省の2015年の推測では約37万人の介護人材が不足するといわれている。しかし、過去20年間の介護保険制度での統計によると、75歳に至っても介護保険でサービスを受ける割合は約13%と言われている。つまりほぼ9割近い後期高齢者は、まだ介護が必要ではないのである。

 それでも約37万人が不足しているのである。

 では10年後の2035年の介護人材不足問題はどうなるのであろうか。統計によると、85歳以上になると約6割の老人に介護が必要となる。つまり団塊の世代が85歳になる2035年には、経済産業省の2018年の推計によると約79万人の介護人材が不足すると見られている。

 今後、介護の担い手である生産年齢人口が減少する日本で、介護問題だけでも果たして「持続可能な社会保障制度」を維持できるのだろうか。

 私が経営するアゼリーグループは江戸川区を中心に介護、保育、医療を一体で提供する地域密着型のグループで、その中核事業である特別養護老人ホームは介護保険制度が始まる1年前の1999年に江戸川区に開設された。江戸川区は、東京都の中では新宿区に次いで2番目に外国人の居住者が多い。アゼリーグループでは10カ国以上、全スタッフの1割を超える外国出身者が活躍している。日本人スタッフと外国出身スタッフが一緒に業務にあたっているのが日常であり、スタッフ間でも、出身国などは特別に意識していないようである。

 グループ内の介護施設では、「自立支援介護」を実践しているためか、海外から多くの視察団が毎月訪れ、見学している。日本の介護の強みを再認識し、日本式の介護施設の立ち上げの協力依頼など、地域に密着した国内産業と思われていた業界がすでに国際的な業界へと変貌している。

「不祥事に対する贖罪の行い」という認識でいいのか

 世間の介護に対するイメージは相変わらずである。

 利用者やその家族からは「若いのに介護の仕事をよく頑張っているわね」と、お褒めの言葉を頂くとスタッフから聞く。

 また芸能人等が不祥事を起こし、介護の資格を取るために学校に通っている、あるいは介護施設でボランティアを始めたといった報道がある。

 そういった現場での家族からの話や報道に接するにつれ、介護の職場は「家族がやるべきお世話を代わりにやってもらっている」、あるいは「不祥事に対する贖罪の行い」という認識があり、世間では専門職としての「介護」というものが定着していないということを実感する。

介護クライシス②利用者と会話する外国人スタッフ=アゼリーグループ提供

介護業界への新卒就職をいやがる親たち

 すでに今年の新卒採用も終盤戦である。最終面接者として、すべての学生と対話しているが、学生に介護のやりがいや、自社の特徴を分かってもらおうと必死だ。ここ数年は内定者からの入社率は徐々に下がり、50%を切っており、同業他社も同様であるようだ。学生は「人と接する仕事がしたい」「社会貢献を実感できる仕事に就きたい」と訴えてくるなど、こちらが求める人材も多く、最終面接の場で直接内定を伝え、相思相愛だなと思える求職者から内定辞退の連絡があるとがっかりする。

 その理由を聞くと自分としては是非入社したいが、親の反対が強く辞退しますとの回答が多くなってきた。先日も金融関係から内定を2社もらっているという女子学生の最終面接を行った。その学生も福祉への想いが強く、悩んでいて、内定はあるが面接を受けに来ているとのことであった。しかし、最後に「何か質問はありますか?」と聞いた際に、「介護職のイメージを変えるために御社ではどんな取り組みをしていますか?」と聞かれた。介護という仕事のイメージがここまで悪くなっていて、ますます日本人がこの業界に入ってこなくなってしまうという危機感が更に増したのである。

コスト削減でなく人材難のため

 東京で暮らしていると外国人と接しない日はほとんどない。コンビニエンスストアでは店員に外国人のいないお店のほうがまれであり、居酒屋などでは外国人スタッフが日本人より多いお店もある。サービス産業は人件費が一番のコストであるが、そういったお店がコスト削減のために雇用しているかといえば、人材不足のために雇用しているのが実情であろう。

 介護業界においても、外国人スタッフを雇用するのは、まさに人件費削減ではなく、人手不足を補うためにわらをもすがる思いで雇用しているのが実情だ。技能実習制度での入国などは、現地での研修費や入国後の研修費、宿泊施設の準備を考えると日本人の雇用よりもコストがかかる。

 前編で紹介した学会が主催する「日本自立支援介護・パワーリハ学術大会」が7月上旬、江戸川区で開催された。そのシンポジウムでは学会始まって以来初めて「外国人介護職の受け入れと育成」という特別企画が行われた。その会場には今年4月にベトナムから来日し、技能実習生として福岡県、愛知県、富山県の施設で介護に取り組む12人が約500人の聴衆の前で、覚えたての日本語で「日本で学びたいこと」について一人ずつ話した。

 ベトナムでは看護学校を卒業しており、中には来日後3カ月足らずでメモには一切目もくれず、5分程度のスピーチすべてを日本語で話しきる実習生もおり、その能力の高さと真摯さがひしひしと伝わってきた。

人材確保へモンゴルに

 私は8月初旬に技能実習生の採用面接のため、病院・介護施設を経営する医療法人、障碍者施設を経営する社会福祉法人とともにモンゴルを訪問した。医療法人は初めての外国人採用で10人以上の採用予定、障碍者施設は求人への日本人応募者があればすべて採用している状況で、障碍者業界での外国人採用は大変まれなケースだ。

 合同面接会には24人のモンゴル人候補者たちが集まり、候補者たちのほとんどは病院で勤務中の看護師だったが、4人の現役医師が含まれていたことには大変驚かされた。実習生候補者たちはその能力の高さと真剣さ、チャレンジ精神にあふれており、「子どもを親にあずけて日本に行きます」「日本へ行くことは、家族みんなで決めました」といった言葉が印象的だった。

 また、当然のことだが、彼女たちが日本へ行くことに大きな不安を感じていることも伝わってきた。

医療法人は9人、障碍者施設は3人、私たちは3人の合計15人の技能実習生が内定し、来年の夏を目指して日本語学校での勉強が始まる予定だ。しかし、内定後、家族の反対で辞退する候補者もいるようで、改めて感じたのは、技能実習制度は本人だけでなく、家族の人生にも大きな影響を与えるということだった。

50パーセントが外国人スタッフの時代へ

 私たちも10年を超える外国人雇用で様々な経験をしてきた。それはまさに人間が生きている限り避けて通れない問題である。

 突然出社しなくなったと思ったら、ご主人からのDVにより、職場に無断で帰国し、気が付くと何事もなかったように職場に復帰していたなんてことは序の口である。親族が殺人事件に巻き込まれて急きょ帰国になったケースもあれば、本国の家族に承諾が得られずに勢いで結婚出産し、子育て経験のある日本人スタッフがその外国人の家庭を交代で訪問し赤ちゃんのお世話をしたなど、日本人にでも起こりうること、あるいは異国の地であるが故にさらに解決が困難な問題も生じている。

 今年4月から、政府は「特定技能」という「技能実習制度」より基準を緩和した新たな枠組みを創設した。今後この制度を利用して、外国人が介護を含めた人手不足の業界にさらに増えてくるのは確実だ。制度的には介護保険施設ではスタッフの50%までは外国人スタッフを受け入れることが可能になった。東京都内のコンビニエンスストアのように、数年内に介護業界でも半数が外国人で運営されている施設が現れるかもしれない。

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