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安倍内閣は長き執政の「有終の美」を飾れるか?

対外関係・安保政策の「強靭性」が「安倍後」に受け継がれるかがカギ

櫻田淳 東洋学園大学教授

安倍晋三首相らと記念写真に納まる新閣僚たち =2019年9月11日

 第4次安倍晋三再改造内閣が9月11日に発足した。安倍晋三(内閣総理大臣/自由民主党総裁)の3度目の総裁任期満了である2021年9月を控え、このたびの改造内閣発足は「安倍後」の展望とともに語られる。小泉進次郎(環境大臣)の起用が注目されたのも、彼が「安倍後」の政局で重要な位置を占めるであろうという世の期待が反映されているからに他ならない。

 一方で、「『安倍後』も安倍」として、安倍の総裁選「4選」を容認する声が自民党内にあるのも事実である。仮に2020年米国大統領選挙に際し、ドナルド・J・トランプ(米国大統領)が再選されるならば、安倍が「4選」を果たしトランプが任期を終える2024年まで「安倍・トランプ関係」を続けた方が、日米関係上は不安が少ないといえよう。当代の各国政治指導者の中でも、安倍がトランプとの関係を最もうまく紡げているという評価を勘案すれば、「安倍・トランプ関係」の行方が、当代の国際政治の「安定」にも結び付いているのは確かであろう。

 とはいえ、本稿では、「『安倍後』も安倍」という事態は想定しない。このたびの改造内閣によって安倍の執政が締めくくられるという前提の下、その行方を展望することにする。安倍は第1次内閣期を含め、11年に及ぶ長き執政の「有終の美」を飾れるのか。その条件を考えることは、「安倍後」を展望するうえでも大事なことに違いない。

茂木外相、河野防衛相起用の評価

 筆者は、それを考える際の評価基準として、対外関係・安全保障政策領域における「強靱(きょうじん)性」を設定することにする。このたびの内閣改造に際しての茂木敏光(外務大臣)と河野太郎(防衛大臣)の起用は、この「強靭性」を担保するにふさわしいのか。

 たとえば、現下、日本の対外関係上の難題は、対韓関係にある。時事通信の記事(9月11日配信)は、韓国・聯合ニュースの報道による韓国国内の改造内閣への反応を次のように伝えている。

 ――河野太郎防衛相についても『(外相時代に)欠礼外交を繰り返してきた』と訴え、茂木敏充外相とともに『強硬な姿勢で外交・安保政策を主導するもようだ』と警戒感をあらわにした。

 「政府は国際法に基づいて韓国側の適切な対応を求めている。その方針は一貫したものであり、新体制の下でもみじんも変わるものではない」という安倍の発言を踏まえるならば、茂木、河野の両相に期待されるのは、「韓国側の適切な対応を求める」という方針にそった政策対応である。そして、茂木、河野の両相に向ける韓国の警戒感情の強さを考えると、両相があえて「温和な対韓姿勢」を示す余地は著しく狭いと見るべきであろう。

河野太郎防衛相=2019年9月11日、首相官邸
茂木敏允外相=2019年9月11日、首相官邸

安倍外交の成果は理念的なもの

 安倍内閣が進めてきた邦人拉致案件を含む対北朝鮮関係、北方領土案件を含む対ロ関係に関しては、安倍が示してきた意欲や熱意に見合うほどの具体的な成果はあがっていないというのが、率直な評価であろう。

 安倍内閣の対外政策展開における成果とは、具体的なものというよりは理念的なものである。

 安倍が第2次内閣発足直後に提示した「アジアにおける安全保障ダイヤモンド」構想にせよ、すでに日米両国の共通構想になった感のある「自由で開かれたインド・太平洋構想」にせよ、そこで強調されたのは、自由・民主主義・人権・法の支配といった価値意識を共有する国々との提携であった。米豪加各国や西欧諸国を含む「西方世界」の結束を固めつつ、それをインドや東南アジア諸国に展開させるという論理を徹底させたことにこそ、安倍内閣下の対外政策展開における際立った特色がある。

 現下の日韓確執の根本は、こうした日本の姿勢とは対照的に、文在寅(韓国大統領)麾下の韓国政府が、民族主義感情を優先させて「南北融和」に没頭する余りに「西方世界」への忠誠を疑わせる政策対応に走っていることにある。米韓同盟の枠組みの下、「西方世界」諸国の一つとして数えられていたはずの韓国の立ち位置に、深刻な疑念が向けられているのである。

絶えず試される外交・安保の強靱性

 戦時労働者案件への対応は、「国際法の遵守」という「西方世界」の信条とは相いれないものであるし、「文在寅の韓国」にあって、日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄や「自由で開かれたインド・太平洋構想」への及び腰な姿勢は、米国を中心とする「西方世界」の同盟網を侵食している。このような情勢下では、「西方世界」国家としての日本は、もはや安易な対韓「妥協」を図るわけにもいかない。

 一方、時事通信の記事(9月11日配信)によれば、華春瑩(中国外務省報道局長)は河野について、「中国は積極的に評価している。今後も中日の友好と協力に大きな貢献を希望する」と評し、茂木についても、「新時代の要求に合致する中日関係の構築を共に推進したい」と期待を表明している。華発言に示される中国政府の反応は、直近の日中「雪解け」機運を反映していよう。

 ただし、香港や台湾の「自由」に対する中国政府の圧迫がいよいよ露骨になった今、日本政府の対中姿勢は決して曖昧にして微温的なものであってはなるまい。中国や韓国といった近隣諸国との関係は、「西方世界」国家としての日本の軸足にかかわる。日本の対外関係・安全保障政策における「強靭性」は、今後も絶えず試されよう。

安倍首相が後世に残すレガシーとは

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