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[155]組閣より千葉だろ、報じるべきは

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

9月10日(火) 午前中、局で「報道特集」の定例会議。今週は11日に内閣改造があって、これにどう切り込むか、ということがある。テレ朝の「モーニングショー」で、これでもかと言うほど、例の「玉ねぎ男」こと(こんな言い方も失礼なのだが)、チョ・グク法務大臣のことを詳報していた。うんざりするが、ただひとつだけ勉強になったのは、韓国の文大統領系と言われるハンギョレ新聞で、編集局幹部と現場記者の間で対立が起きているとのこと。スタジオ・ゲストの辺真一さんは現場記者に肩入れしていたが、いろいろと複雑な背景があるようにも思える。世代間対立のようなダイナミズム。

 午後、韓国情勢の勉強会。夕刻から浅井基文氏の講演会に参加。徴用工問題が1965年の請求権協定ですべて解決済みという日本政府の主張が、国際法上いかに根拠を欠くものであるか。1978年に日本が署名した「国際人権規約B」について、当時、外務省にいて当事者の一人だった浅井氏の政府主張への論駁は非常に説得力があり、目から鱗が落ちる思い。なぜ浅井氏のような明晰な主張が紹介されないのだろうか。

 あしたの組閣。今日一日、NHKは「〇〇氏、入閣内定」だの「〇〇氏、〇〇相に内定」だの、おそらく最多記録ではないかと思われるほど、ニュース速報を出しまくっていた。誰それが入閣することがスーパー速報を出すほどのそんなに大ニュースなのか。これこそがストレートニュースの現場における政治部支配の現実である。有無を言わせずにスーパーでニュース速報を入れろ、という権力関係が働くのである。そのほとんどは視聴者を無視した担当記者たちの狭い世界でのマスターベーションである。

 夕方以降に小泉進次郎氏の入閣内定(環境相)が報じられて取材態勢を組み替え。僕は萩生田光一文科大臣に取材に行くことになった。それにしても加計学園疑惑の渦中にいた萩生田氏を文科大臣に据えるとは、露骨を通り過ぎて、今や焦土と化した文科省に凱旋させるような感じか。それにしても改造内閣の顔ぶれがひどすぎないか。側近重用と「滞貨」一掃。ウルトラ右派の顔ぶれ。目くらましの進次郎氏。

原田義昭前環境相と記念撮影に応じる小泉進次郎環境相(左)=2019年9月12日20190912原田義昭前環境相と記念撮影に応じる小泉進次郎環境相(左)=2019年9月12日

萩生田文科大臣の会見、「滑稽」を通り越して…

9月11日(水) 早朝、トランプがボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を解任した。驚き。そのまま早起きして某プロジェクトの取材。収穫あり。

 13時から官房長官による新閣僚リストの読み上げ。今日はまるで組閣祭りだ。組閣劇場。一方で、千葉県南部の台風禍、とりわけ停電が復旧しない。現地からの悲痛な叫びが一部ではあるけれどもツイッターなどを通じて伝わってきた。

萩生田光一文部科学相加計問題の「当事者」の一人、萩生田光一氏が文部科学相に
 萩生田新文科大臣の初登庁と就任記者会見を文科省記者クラブで取材する。文科省の職員は、花束を用意してお出迎えの用意。大臣室に通じる廊下の両サイドに文科省職員が夜8時をとっくに過ぎているが「残業」で職場に残って大臣の到着を待ち構えている。それで萩生田大臣がエレベーターを降りるや、女性職員が花束を贈呈。廊下を新大臣が通ると拍手が巻き起こった。こりゃあ文科省は徹底的に焦土作戦でやられたのだな、と実感。

 記者会見が始まった。幹事社の日経の女性記者が3問質問した後、挙手して聞いた。もう僕はどの記者会見の現場に行っても最年長で、ひとりジジイが混じっているという状況なのだった。党幹部として教科書検定に関わった経緯や、教育勅語についての所感、そして加計問題への関与について聞きただした。質問に答えるにあたって、控えている秘書官が萩生田氏に全速力で走り寄って答弁用メモを差し紙する。そのスピードと頻度の多さが、目の前でみていて「滑稽」を通り越して「悲しみ」に近い様相なのだった。

 文科省の記者たちは、記者会見の醍醐味を知らない若い人たちが多く、自分の聞きたい、あるいは上司から言われたことだけをお行儀よく聞いていて、加計問題という最大の焦点をあえて聞こうとしないのだった。そんななかでNHKの若い女性記者が執拗に加計問題に関する文科省内部文書について、食い下がって質問を続けていた。こういう記者がNHKにもちゃんと生き残っていたんだ。加計については、最後に近い方で朝日の記者が聞いた程度か。会見の途中、文科省の広報担当者が幹事社の日経女性記者のところに2回ほど近寄ってきて何やら耳元で囁いていた。あとで確認したら

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