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国会論戦はよみがえるか?論点がひしめく臨時国会

アベノミクス検証、関電疑惑……問われる立法府の意義

星浩 政治ジャーナリスト

第200回臨時国会開会式でお言葉を述べる天皇陛下=2019年10月4日

 臨時国会が10月4日に召集された。会期は12月9日までの67日間。重要な論点がひしめく国会である。

 ①10月1日に8%から10%に引き上げられた消費税の景気への影響②年金の財政検証が公表されたが、目減りへの不安が増す老後の年金問題への対応③長年にわたり不正契約を続け、実態を報じたNHKの報道に注文をつけていたかんぽ生命の問題④農産物の関税引き下げなどで合意したものの、日本から輸出する自動車の関税引き下げは先送りされた日米協定⑤安倍晋三首相が早期合意を掲げながら、停滞するロシアとの北方領土交渉の行方―など、議論するべき懸案は山積だ。

 安倍首相は憲法改正の議論を進めるよう強く訴えているが、野党側は慎重な姿勢を崩さない。また、臨時国会召集の直前に発覚した関西電力の原発がらみの金品受領問題は、原発政策の「闇」を白日の下にさらした。

立法府の権威が問われる臨時国会

 こうしたもろもの問題や課題に、「国権の最高機関」である国会はどう臨んでいくのか。

 「平成」の末期、国会は、森友・加計学園問題など政権の不祥事に対し、真相の解明を果たせなかった。行政のチェック役のはずの立法府の存在感は、大きく低下したと言っていい。それだけに、令和に入って初めての本格論戦の舞台ともいえるこの臨時国会では、論戦の中身だけでなく、立法府の権威が回復できるかどうかが問われている。

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「国会で質問するときは『念』を入れろ」

 国会論戦について思い起こすことがある。

 それは、民主党が2009年に政権を奪取する前の野党のだったころ、仙谷由人氏(後の官房長官、故人)が後輩たちに説いていた言葉だ。「国会で質問するときは『念』を入れろ」である。

 仙谷氏の指導を受けていたのは、枝野幸男、辻元清美、細野豪志、古川元久各氏ら当時の民主党若手議員。「念を入れろ」とは、国民の気持ちが乗り移ったような意識を持って、気合を入れて質問しろという意味だった。

 「弱者、少数者、差別を受けている人、そういう人たちの声をじっくり聞いて、その気持ちを自分の魂に吹き込んで、質問に立つ。それが国会議員の仕事だ」と仙谷氏が語っていたのを、いまも鮮明に思い出す。

 しかし現実には、その後、「念の入った」国会論戦はあまり聞かれることはなかった。それより、平成後期の政治を彩ったのは、民主党への政権交代や自民党の政権復帰、そして安倍首相の「一強」政治といった、権力の争奪戦であった。仙谷氏の「門下生」の一人だった細野氏が、結局は旧民主党勢力から離れ、無所属となって自民党入りをめざしている姿は、国会論戦より権力という政治の実情を象徴しているように思う。

国会は国政調査権で関西電力疑惑にメスを

高浜原発をめぐる疑惑についての記者会見の最後に頭を下げる、関西電力の八木誠会長(左)と岩根茂樹社長=2019年10月2日、大阪市福島区
 ここからは具体的な論点について見ていこう。まず、最近、メディアを騒がせている関西電力の福井県高浜原発をめぐる金品受領問題についてだ。なにより求められるのは、実態の解明である。

 高浜町の元助役(故人)から関電幹部に、総額3億2千万円分の金品が渡されていたことは判明しているものの、経緯については未解明な点が多い。元助役は、地元の建設会社から3億円を受け取り、それを関電側に渡したとみられているが、カネの流れや意図も明確になっていない。

 この建設会社は、関電の原発関連工事を大量に受注している。実質的には、関電からの原発関連資金が、建設会社と元助役を経由して関電幹部に環流している構図が浮かび上がってくる。「原発マネー」の環流である。

 野党側は、関電幹部を国会に招致して真相解明を進めるべきだと主張しているが、自民党は「民間企業なので、国会招致はふさわしくない」と慎重な姿勢を崩さない。だが、関電が高浜町で進めてきた原発事業は、「国策」として扱われてきた。そして、電力会社は公益事業を担う存在として、多くの優遇措置が与えられている。

 国民が支払った電力料金が関電の「裏金」に回っている可能性がある中で、国会が国政調査権によって疑惑にメスを入れるのは当然である。

 今回の資金環流は、東日本大震災による福島原発事故を受けた、原発の安全対策工事に関連している。電力会社は原発の再稼働をめざし、安倍政権も原発を国の基幹エネルギーと位置づけてきた。不明朗なカネの動きが再稼働に影響を与えていないどうか、国会は解明に努めるべきだろう。

停滞する北方領土交渉で議論を尽くせ

 北方領土をめぐる外交も国会による検証が必要である。

 安倍首相は「1956年の日ソ共同宣言を基礎として」北方領土の返還交渉を進め、平和条約を締結するという姿勢を強調。事実上、歯舞・色丹の2島返還と、日本とロシアとの共同経済活動を優先させる方針にカジを切った。日ソ共同宣言以降、日本外交が積み上げてきた「4島返還」への努力を棚上げするとも受け取れる判断であり、外務省で対ソ連・ロシア外交を担ってきた専門家は強く反発してきた。

 現実には、安倍首相の新方針はロシア側から受け入れられず、北方領土交渉は停滞している。だが、日本外交の大きな方針転換であるにもかかわらず、この間、安倍首相や河野太郎前外相は、国会に対してロシア側との交渉内容を十分説明していない。与野党を問わず、国会の権威にかけて、北方領土問題の議論を尽くす必要がある。

アベノミクスの全体像を検証する時期

 発足から7年近くになる第2次以降の安倍政権の経済政策・アベノミクスの点検も国会の大きな役割だ。

 政権発足の直後、大胆な金融緩和によって、2年以内に2%の物価上昇をめざしたが、いまだ実現にはほど遠い。日銀の黒田東彦総裁は責任をとろうともせず、5年の任期終了後も再任された。日銀はマイナス金利に踏み込み、金融機関の経営を圧迫している。低金利・マイナス金利は、年金生活者にとってダメージとなっている。

 アベノミクスが7年近くが過ぎても成果を出せず、「金利のある経済」を実現できていない責任はどうするのか。安倍首相は雇用情勢が好転しているとしてアベノミクスを自画自賛するが、金融政策、成長戦略を含めてアベノミクスの全体像を国会が正面から検証すべき時期にきている。

憲法改正に意欲を示す安倍首相だが……

安倍晋三首相の所信表明演説が行われた衆院本会議=2019年10月4日

 一方、安倍首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で、憲法改正にあらためて意欲を示した。「令和の時代に、日本がどのような国をめざすのか。その理想を議論すべき場こそ、憲法審査会ではないでしょうか」と述べ、憲法を議論することで「国民への責任」を果たそうと強調した。しかし実際には、憲法論議は進展しそうにない。本質的なボタンの掛け違いがあるからだ。

 一般の法案や予算案は、衆参両院でそれぞれ過半数の賛成で可決、成立する。だが、憲法改正は違う。衆参両院で3分の2以上の賛成によって改正案を可決したうえで、国民投票にかける。そこで過半数の賛成を得て、初めて改正が実現する。

 そのため、衆参両院の憲法審査会では、与野党の幅広い合意を得る努力が重ねられてきた。仮に審査会で自民、公明両党などが多数で改正案を押し切っても、衆参の本会議での採決は混乱するし、それを受けて実施される国民投票でも、与野党が対立したままでは、有権者は「国会の意思」がどこにあるのか戸惑ってしまう。

 そういう判断もあって、これまで衆参の憲法審査会は「円満な運営」が続けられてきたのである。安倍首相が自衛隊の明記などの憲法改正を急いでも、国会審議は簡単には進まない構図となっている。その点を理解しない限り、安倍首相主導の憲法改正は進まないだろう。

国会論議の活性化が与野党双方に重要なワケ

 今回の臨時国会は、野党の立憲民主党、国民民主党などが統一会派を組んでのぞむ初の国会である。衆参合わせて約180人となった野党勢力が、巨大与党にどう挑むのか。「安倍一強」が長期化するなかで、野党側がいかに突破口を見出すかが勝負どころである。

 国会論戦と言えば、野党が追及して政府・与党側がそれをしのぐという構図が定着しているが、与党の自民、公明両党にとっても国会論議の活性化は重要である。なぜか。次にその点を考えてみよう。

 30年余続いた平成は、政治腐敗をきっかけに政治改革が叫ばれた時代でもあった。改革の結果、中選挙区制だった衆院の選挙制度は小選挙区比例代表並立制に改められた。小選挙区制には批判も根強いが、政権与党が成果をあげられなければ、政権交代につながる制度でもある。小選挙区制によって政治に緊張感が出てきたことは間違いない。

 小選挙区制によって、候補者の公認権を握る政党本部の権限が強化された。政党助成金の導入で、政治資金も政党本部が差配するようになった。その結果、政権政党のトップは首相官邸の権限と党本部の権限の両方を握り、「強い首相」が実現した。とすれば、これをチェックする国会の権限も強化されなければならないが、実際には国会の機能強化は進んでいない。どうすればいいのか?

 具体的には、①国会の会期を「通年」に改めて、行政監視のために常時、国会の関連委員会などができる態勢をつくる②国勢調査活動を強めるために、国会の調査スタッフを充実させる③与野党が協力して進める議員立法の内容を充実させる――などの対応をとり、国会を活性化させることが必要となる。

 繰り返すが、平成時代に定着した小選挙区制は、長期的には二大政党による政権交代可能な政治体制を生み出す。いまの政権与党も、いずれは野党になる可能性があるなかで、与野党ともに国会の活性化が必要という共通認識を持つことが求められる。

 平成から令和へと時代が移るいま、臨時国会で時代の節目にふさわしい議論ができるかどうか、まさしく議会制民主主義の質が問われている。その意味を、議会制民主主義を担う政治家たちにはぜひ、自覚してほしい。

          ◇

 30年余に及んだ平成政治の興亡と今後の展望を描いた星浩さんの新刊『永田町政治の興亡』(朝日選書)が10月10日に発売されます。昨年秋から今年6月まで「論座」に連載した「平成政治の興亡」に大幅加筆したものです。ぜひ、お読みください。

 同書の出版に合わせて、「論座」は自民党の中堅・若手政治家と星浩によるトークイベントを10月12日に開催します。参加無料。開催要領は以下の通りです。

◇トークライブ 令和を担う国会議員5人と星浩キャスターが考える 日本の政治 どう拓く?

◇開催日
2019年10月12日(土)14:30~16:30(開場14:00)

◇場所
ヤフー株式会社本社17階セミナールーム(東京都千代田区紀尾井町1-3紀尾井町タワー)

◇ファシリテーター
星浩(ほし・ひろし)
TBSニュース23 報道キャスター

◇ゲスト
・伊藤達也・自民党衆院議員
1961年生まれ。慶應義塾大学卒。松下政経塾を経て、1993年衆院選で初当選。金融担当大臣などを歴任。当選8回。東京22区

・木原誠二・自民党衆院議員
1970年生まれ。東京大学卒。大蔵官僚を経て、2005年衆院選で初当選。外務副大臣などを歴任。当選4回。東京20区

・齋藤健・自民党衆院議員
1959年生まれ。東京大学卒。通産官僚、埼玉県副知事を経て、2009年衆院選で初当選。農水大臣などを歴任。当選4回。千葉7区

・福田達夫・自民党衆院議員
1967年生まれ。慶應義塾大学卒。三菱商事勤務を経て2012年衆院選で初当選。防衛大臣政務官などを歴任。当選3回。群馬4区

・松川るい・自民党参院議員
1971年生まれ。東京大学卒。外務省に入り、女性参画推進室の初代室長などを歴任。2016年参院選で初当選。当選1回。大阪選挙区

◇チケット申し込み
定員150名(先着順) 無料
申し込みは「Peatix」の「論座」のページから→【申し込み

◇星浩さん新刊本サイン会
トークライブ終了後、会場内で「論座」の連載に加筆した最新刊『永田町政治の興亡 権力闘争の舞台裏』の販売とサイン会を行います。ご希望の方はお残りください。