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「桜を見る会」中止にみる安倍政権長期化のわけ

不祥事にその場しのぎ重ね歴代最長に 展望なき「危機管理政治」

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

主催した「桜を見る会」で、招かれた人たちと握手する安倍首相=今年4月、東京・新宿。代表撮影

 首相在任期間が11月20日に2887日となり、戦前の桂太郎を抜いて歴代最長となる安倍晋三首相。その原動力は皮肉にも、政権を維持しようと相次ぐ不祥事をしのいできた危機管理だ。1952年から続く首相主催の「桜を見る会」も、公私混同との批判が高まるや、急きょ来年は中止にした。傷だらけの最長政権の先に日本政治の展望はあるのか。

※11月19日に、11月中旬の朝日新聞の世論調査結果について加筆しました。

 「すでに官房長官が説明した通りでありまして、私の判断で中止をすることにいたしました」

 11月13日夕、安倍首相は桜を見る会について記者団にそれだけ語り、官邸を後にした。

 これが歴代最長になろうとする首相かと思う方もいるだろう。だが私は、こういう首相だからこそ歴代最長になれるのだと改めて思った。

桜を見る会を中止すると話す安倍首相=11月13日夕、首相官邸。朝日新聞社

 最近では週刊誌報道を受けた相次ぐ閣僚の辞任や、土壇場での大学入試への英語民間試験導入延期もあったが、政権は身をかわし続ける。NHKの11月上旬の世論調査では安倍内閣支持が47%で、前回の9月とほぼ同じ。昨年7月以来の40%台をキープした。

 さらに「桜を見る会」の来年中止が発表された直後、朝日新聞が11月中旬に行った世論調査では内閣支持率が44%。これも前回の10月から横ばいで、40%台は昨年9月以来続く。この1カ月の一連のどたばたは内閣支持率に影響しなかったと言える。

 振り返れば森友・加計という大問題もあったが、安倍政権はその場その場をしのいできた。内閣支持率を意識しながら、退くも進むも大胆に決める危機管理。この異能が歴代最長政権をもたらしたのだと、政治記者20年になる私は考える。

小泉政権と比べれば

郵政民営化を問う衆院解散による選挙を控え演説する小泉首相=2005年8月、甲府市。朝日新聞社
 先立つ最近の長期政権としては、2006年まで1980日続いた小泉政権がある。進次郎氏の父・小泉純一郎首相のスタイルは安倍首相とは違った。

 郵政民営化や靖国神社参拝など、自ら掲げた公約を国論が割れても断行。当時、首相官邸記者クラブで私が取材した政府高官は「決める政治を世論が支持して官邸主導の推進力になり、自民党や省庁を抑え込んだ」と語ったものだ。

 安倍首相が政権を担当したのは、小泉首相の次の2006~07年と、再登板した12年以降。官房長官として仕えた小泉首相の「決める政治」を引き継いだイメージがあるが、実際のところは、次から次へと起きる問題への危機管理に追われてきた。国家的な危機管理と、政権維持のための危機管理の両方だ。

 最初の首相の時は、2006年にいきなり北朝鮮が最初の核実験をした。07年には閣僚の失言や不祥事による辞任が相次ぐ中で参院選に大敗。戦後最年少の52歳で首相となった安倍氏が「戦後レジームからの脱却」を掲げながら、内外の荒波にもまれて1年で退陣していく姿も、私は首相官邸記者クラブで目の当たりにした。

 首相に再登板した2012年から今日までの7年間弱を前後半に分ければ、前半のヤマは15年の安全保障法制制定だ。戦後続いてきた憲法解釈を覆しての集団的自衛権行使の限定的容認や、それを具体化した安保法制に国論は割れ、断行したことは安倍首相の「決める政治」の象徴のように言われた。だが、これは国家的な危機管理に属する。

安保法制に関し記者会見する安倍首相=2014年5月、首相官邸。朝日新聞社
 民主党政権での尖閣諸島国有化を機に中国との対立が激化する一方、北朝鮮は核・ミサイル開発をエスカレートさせていた。米国を日本防衛により確実に巻き込むには、自衛隊の役割を広げ米軍と双務性を高める安保法制が必要だと、日米同盟を重視する外務・防衛両省の主流官僚らは考えていた。

 その旗振り役として安倍首相は適任だった。中国や北朝鮮に若手の頃から厳しい姿勢を示し、集団的自衛権を行使できない憲法解釈に疑問を呈し、民主党政権は普天間問題で日米関係を弱めたと批判してきた首相は、国家的な危機管理のため安保法制を推し進めた。

政権維持こそ国益

 この大きなヤマ場を乗り越えた安倍政権が、後半に入って歴代最長をにらむほどに長期化してくると、興味深い現象が見られるようになった。政権イコール国家、政権維持こそ国益といったロジックが語られるようになったのだ。

「国難突破解散」を記者会見で表明する安倍首相=2017年9月、首相官邸。代表撮影
 最たるものが、2017年の衆院解散だった。安倍首相は解散を表明した記者会見で、「国難突破解散だ。急速に進む少子高齢化を克服し、北朝鮮の脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜く決意だ」と語ったのだ。

 私は当時、首相の言葉の意味がわからなかった。衆院解散は時の政権に都合よく行われるのが世の常とは思うが、解散の大義として政権をかけるほどの何かを世に問うのも常道だ。だが、安倍首相の言う少子高齢化や北朝鮮の核・ミサイルへの対応は、そもそも与野党が対立するような話ではない。

 しかし、政権維持こそ国益という思考回路に至れば、選挙で民意を調達し直して政権を強化することは、なんら不自然ではなくなる。最初の首相の時は民意をつかみ損ね、早々と辞任した安倍氏は、再登板した政権が長期化し国家と二重写しになる中で、「国難突破」を衆院解散の理由としてためらいなく語れるようになっていた。

 こうした思考回路は、外交面から補強された。小泉政権の後、首相が毎年のように代わり、その度にあいさつから始まる首脳外交が機能しないと嘆いていた外務省にとって、久々の長期政権はありがたかった。安倍首相自身も、首脳外交を優位に進めるには政権の安定が欠かせないという実感を積み重ねた。

 政権維持こそ国益だとなれば、国家的な危機管理と政権維持のための危機管理も重なってくる。わかりやすいのが自然災害への対応だ。

 東日本大震災はもちろん、ここ数年は豪雨災害が激甚化し、一方で多くの地方自治体が少子高齢化や過疎化に悩む。そんな中で自然災害への対応において国家的な危機管理が問われ、政府が役割を果たさねばならないのはもちろんだ。

 ただ、政権が長期化するとそうした自然災害が起きるたびに対応を問われ、反応が鈍ければ批判される。被災地での実際の救助や支援に加え、「政府が動いている」という姿勢をPRすることも重要になり、自然災害への官邸の感度は増すばかりだ。例えば自衛隊の災害派遣はその意味で被災地にも政権にも貢献している。

日米貿易協定に関する共同声明に署名した安倍首相とトランプ大統領=9月、米ニューヨーク。朝日新聞社
 国家と政権の危機管理の重なりが広がった背景として、外交面では2017年のトランプ米大統領登場も大きかった。予測不能の大統領相手に日本外交の基軸である日米同盟を維持するのに、首脳外交の重みが増した。ゴルフや一対一の会談でトランプ氏と意思疎通するには「安倍氏でないと」というわけだ。

 そうして首相官邸を中心に磨かれた危機管理能力が政権維持に生かされ、次から次へと起きる不祥事をもいなし続けた末に、歴代最長政権に達することになったと思うのだ。

「次は危機管理の菅氏」

 こうして歴代最長となる安倍政権だからこその、ジレンマがある。

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