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アベノミクスの目玉・国家戦略特区の大いなる欠陥

「評価・対応」なき制度につきまとう「利権」のわな。特区制度自体を評価すべき時期に

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

特区指定に伴う規制緩和でオープンした農家レストラン「いぶき」=2018年5月19日、神奈川県藤沢市

 10月15日の予算委員会で森ゆうこ議員が国家戦略特区について取り上げた問題は、それに先立つ質問通告時間、これに関する官僚の暴露ツイート、関係者による質問内容の漏洩、その後の懲罰要求署名運動と、質問内容よりも付随する事柄が話題を呼びました。

 それはそれで重要な論点であり、それゆえに私も以前の論考で取り上げましたが、それと同時に、質問内容である、「規制改革の提案者に対し国家戦略特区WG委員が助言をする事の是非規制改革の提案者に対し国家戦略特区WGが助言をする事の是非」については、理念はともかく実態として問題があり、それは「国家戦略特区」の制度・運用上の欠陥から生じていると思いますので、この点を論じたいと思います。

アベノミクスの目玉だったが……

 「岩盤規制に穴をあける」ことを掲げ、アベノミクスの成長戦略の目玉として華々しく打ち出されたわりに、最近は率直に言ってスキャンダルでもない限りあまり注目を浴びなくなった国家戦略特区ですが、官邸における位置づけはさして変わっていないらしく、今なお、安倍政権の経済政策の目玉として首相官邸HPに大きく掲載されています(「こちら」を参照)。

 このHPにおいて、国家戦略特区WGの八田達夫座長は、国家戦略特区WG委員が提案を行っている事業者に対して助言を行っている事実を認めたうえで、国家戦略特区は「規制改革」のためのプロセスであり、実現すれば提案者だけでなく、広く一般に適用されるから提案者に対する助言を行っているのであり、事業者の選定を行わない国家戦略特区WG委員と提案者の間には「利益相反」の余地はなく、何ら問題がないと主張していますが、これは事実でしょうか(「こちら」を参照)。

 国家戦略特区が、官邸や八田座長の主張通り、「実現すれば提案者だけでなく、広く一般に適用される」「規制のサンドボックス(砂場)」である、すなわち一定の期間を経た後、その成果を評価し、効果のあった規制改革は全国的制度とし(全国措置し)、効果のない(問題のあった)規制改革は廃止する制度であり、そうした運用がなされているなら、規制改革の認定時において提案した事業者に助言がなされたとしても、一時的にはともかく、最終的には全国民の利益となって特定の事業者に利益が残らない以上、いわゆる「利権」は発生せず、「利益相反」もないという主張はその通りなのかもしれません。

 ところが、実際の制度・運用を見てみると、もともとの理念とは裏腹に、国家戦略特区は、そもそも八田座長の主張するような制度設計になっておらず、そのような運用もなされていないと言わざるを得ないのです。以下、具体的にみていきます。

全国展開された事業は5事業だけ

 まず、国家戦略特区を設置する根拠となる「国家戦略特別区域法」、通称「国家戦略特区法」を見てみましょう(「こちら」を参照)。2014年に施行されたこの法律は、目的を次のように記します。

(目的)
第一条 この法律は、我が国を取り巻く国際経済環境の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るためには、国が定めた国家戦略特別区域において、経済社会の構造改革を重点的に推進することにより、産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点を形成することが重要であることに鑑み、国家戦略特別区域に関し、規制改革その他の施策を総合的かつ集中的に推進するために必要な事項を定め、もって国民経済の発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。

 以下、理念、組織、法律の適用除外等が全41条の法律で細かく規定されています。

 ではこの法律で、規制改革の評価とそれに基づく対応については、どの様に定められているでしょうか。PDCAでおなじみの通り、「評価(Check)と対応(Action)」は計画(Plan)と実施(Do)と同様か、それ以上に大事なはずですが、これについて定める条文はたったひとつだけです。

(認定区域計画の進捗状況に関する評価)
第十二条 国家戦略特別区域会議は、内閣府令で定めるところにより、認定区域計画の進捗状況について、定期的に評価を行うとともに、その結果について、内閣総理大臣に報告しなければならない。

 この条文では、進捗状況について「定期的に評価を行う」とされていますが、どの程度の頻度で評価を行い、その結果どの程度の期間後に、どの様な評価をもって全国措置か廃止かの対応(Action)を決するかについては、何ら定められていません。上記条文内の「内閣府令」として「国家戦略特別区域法施行規則(平成26年政令第99号)」が定められていますが、ここでも定められているのは「1年に1回評価する事」だけであり、それ以上のものはありません。

 実際、国家戦略特区は、2014年から始まり現在までに各区域に335もの事業が認定されていますが、5年を経た2019年現在、特区から全国措置された事業は5事業に過ぎず(「こちら」を参照)、廃止された事業があるとは聞いていません。

 特区から全国措置された5事業について、官邸は「国家戦略特区」の大きな成果と謳(うた)っていますが、その中身は、古民家の旅館利用(養父市)、都市公園保育所(東京都)、シルバー人材の就業時間柔軟化(養父市)、農業生産法人の要件緩和(新潟市)、農業に対する信用保証(新潟市)で、後付けの批判かもしれませんが、正直言って当初から特区を用いず、普通に全国の制度としてもさしたる問題がなかったものに限られている様に思われます。

特区は「利権」となりうるか否か?

 残りの330事業においては、いま現在それぞれの特区・事業に対してそれぞれの事業者が選定され、事業を行っています。“有名な”ところでは、広島県・今治市の「獣医学部の新設に係る認可の基準の特例」における加計学園があり、私が知事をつとめた新潟県にも「農家レストラン設置にかかる特例」の農家レストランがあります(「こちら」参照)。

 これらの特区が、理念はともかく現実として「利権」となりうるか否かについて、私の地元新潟県にもある「農家レストラン」(新潟市4事業者の他に、東京圏1事業者、関西圏4事業者、養父市1事業者、愛知県3事業者、沖縄県1事業者の合計14事業者が認定されています)について考えてみましょう。

「農家レストラン」の場合の考察

 「農家レストラン」とは、本来農業用の施設しか設置できない「農用地区域」内に、一定の条件を満たすレストランを「農業施設」として設置できるようにするものです。「農家レストラン」の規制改革で懸念される事項としては、レストランが流行りすぎて「農業用地区域内」に次々と「農家レストラン」が設置され、「農用地区域」での農業が阻害される事ぐらいですが、市街地から離れた農地にたくさんのレストランが存立できるはずはなく、新潟の農家レストラン設置区域においても、特区事業が認定されてから5年経った今に至るまで、そのような事態が起こっているとは聞いていません。

 そうである以上、「農家レストラン」は早々に全国措置によって全国的制度にしても良さそうなもので、そうなれば「全国で農家レストランを運営可能」になりますから、たしかに事業者の「利権」や、それを前提にした「利益相反」の問題は生じません(仮に今までの5年間に「利権」や「利益相反」があったとしても、消えてしまいます)。

 しかし、5年たった今でも「農家レストラン」は、基本的には全国で6地区の14事業者しか運営できません。仮に「農家レストラン」がタピオカミルクティーのように大人気で、全国に農家レストランに行きたいお客さんが山の様にいるという事であれば、日本中のお客さんがこの14事業者のレストランに殺到し、にもかかわらず他の事業者はそれをできないのですから、たとえ将来的な全国措置を見据えた期間限定のものだとしても、それは「利権」となりえます。

 そして、それが期間限定ではなく、事実上永続的にこの14事業者しかできないとなれば、それは紛( まご) うことない「利権」としか言いようがなくなるのです(ただし、実際の「農家レストラン」に関して言えば、そもそも農用地区域外の普通の市街地で農家が運営する特区外の農家レストランも多数あり、人口の少ない農用地区域内でレストランをやりたいという需要が特に高いわけではないので、ほとんど問題となっていません)。

加計学園の獣医学部の場合の考察

 それでは、有名な「加計学園」の場合はどうでしょうか。この例では、首相の「腹心の友」である加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園が、提案に関与した事が認められている(朝日新聞デジタル2017年8月6日)「獣医学部の新設に係る認可の基準の特例」の規制改革として、第25回国家戦略特区諮問会議(平成28年11月9日)の決定に従って「1校に限り」獣医学部の新設が認められ、特区として広島・今治の国家戦略特区が、事業者として加計学園が運営する岡山理科大学が選定されました。この際、岡山理科大学が新設した獣医学部の定数は、既存の日本全国の獣医学部の定数790人に対して140人という極めて大きなものでした。

 今後の日本の人口減や獣医師の需給を考えると、追加の新設が認められるとは考えづらく、一定の期限内に「全国措置か廃止か」の対応を定めない現在の国家戦略特区の制度・運用からしても、この「獣医学部の新設に係る認可の基準の特例」が適用されるのは、今後相当長い期間、加計学園以外には出てこないと考えられます。つまり、そもそもこの規制改革は、今後相当長い期間、加計学園一事業者にしか適用されないのであり、「実現すれば提案者だけでなく、広く一般に適用される」「規制のサンドボックス(砂場)」であるはずの特区制度の対象となるようなものではないのです。

 要するに、国家戦略特区は、短期間にその評価がなされ、全国措置されるか廃止されるような規制改革を対象とし、実際にそのような対応がなされてはじめて、「規制改革のサンドボックス(砂場)」として、八田座長の言うように「提案者だけでなく、広く一般に」利益をもたらすものとなるのですが、現在のように、そうした対応に適さない規制改革が対象とされたり、そうした対応が可能なはずの規制改革であっても、その大半(335事業のうち330事業=98.5%)で見られるように、いったん事業が認定され、事業者が選定されると、長期間にわたって選定された事業者だけに事業の運営が許されたりするのであれば、「特定の事業者のみが特別な事業を行う事を許された特別な区域」としての「特区」に外ならず、利権そのものになってしまうのです。

国家戦略特区諮問会議であいさつする安倍晋三首相(右手前から3人目)=2019年6月11日、首相官邸

「規制緩和の砂場」ではなく「特製ショーケース」

 換言すれば、

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