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イラクでシーア派の若者が反乱を起こした理由

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 イラクの反政府デモは10月1日以来、2カ月目に入った。最初の5日間で、バグダッドや南部の都市で計110人が死亡し、6000人が負傷した。デモは一時収まったものの、レバノンのデモが起こった後の10月下旬、それに刺激されるかのように再燃し、やむ気配はない。政府は外出禁止令を出し、すでに320人以上のデモ参加者が軍・治安部隊による武力制圧で命を落としている。

 10月末にサレハ大統領は、アブドルマハディ首相が辞任する意向であるとし、さらに選挙制度を改革して早期に議会選挙を行う方針を発表したが、具体的な期日は示していない。若者たちは政府の腐敗や派閥主義、経済生活の失敗などを非難し、政府の一新を求め、デモは11月になっても続いている。

 デモ開始から1カ月にあたる11月1日はイスラム教の集団礼拝がある金曜日と重なり、バグダッドと南部地域で大規模なデモが起こった。カタールに拠点を置くアラビア語の衛星テレビ「アルジャジーラ」は、「イラク戦争でサダム・フセイン政権が倒れて以来、最多のイラク人が通りに繰り出した」というテロップでバグダッドでのデモを報じた。

イラク紙アルマダが伝えたデモでの負傷者を運ぶデモ参加者デモで負傷者が出たことを伝えるイラク紙「アルマダ」

 イラクの独立系紙「アルマダ」も10月28日付で「政府が外出禁止令を出してもデモに参加する人々は減らない」としてデモの広がりを報じた。記事では「イラクで10月1日に始まった民衆によるデモは、基本的な公共サービスの欠如、失業の蔓延、問題を解決できない政府の政治的無能さに抗議するもの」と書いている。その時点で、「デモで239人が死亡し、8000人が負傷した。治安部隊の実弾で撃たれた者がたくさんいる」と報じている。

電気は1日8時間、賄賂で職を得る若者

 デモに参加する若者たちは政権を主導するイスラム教シーア派であり、デモはバグダッドと、シーア派地域のイラク南部の都市のほとんどで起こっている。シーア派は同派の政党・組織が国民議会選挙で「シーア派リスト」をつくって議会の最大会派となり、首相を選任し、各シーア派政党・組織が主要省庁を押さえてきた。

 石油収入が歳入の約9割、GDPの6割を占めるなかで、シーア派の各政治勢力は、自分たちが押さえる省庁の就職先やサービス、プロジェクトなどを自分たちの支持者や支持地域に配ることで政治的な影響力を維持・拡大してきた。石油収入はさらに各政治組織が率いる民兵組織を維持する資金源ともなっていた。

 バグダッドにいる私の知人に連絡をとったところ、市内で政府の電気が来るのは1日8時間程度で、あとの時間は売電業者から電気を買わなければならないという。政府の電気供給は、連日40度以上になる夏の間は、4時間程度になるという。知人は「電気事情はこの10年ほど何も変わっていない。石油収入はあるのに、十分な電源開発プロジェクトに向けられていないためだ」と語った。

 国民生活と産業の基本である電気供給が一向に改善しないことに人々の不満は強い。だが、若者たちが特に不満を向けるのは、公務員の任用である。知人によると「この10年ほど、国家公務員の正常な任用は行われていない。実質的に省庁を押さえているシーア派政党・組織がメンバーやその子弟を任用し、自分たちの影響を伸長する手段として使っている。政党や政治組織のメンバーでなかったり、特別なコネのない普通の若者は、いくら大学をよい成績で卒業しても公務員の職を得ることはできない」と語る。

アルジャジーラが報じた11月1日のイラクの首都バグダッドでのデモの映像11月1日のイラクの首都バグダッドでのデモを報じたテレビ局「アルジャジーラ」の映像=筆者提供

 さらに深刻なのは、

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