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ベーシックインカム年金 超党派で議論はじまる

「年金財源のリサイクル制度」に議論集中。さらに検討を進化したい

階猛 衆議院議員

超党派勉強会を開催

 「桜を見る会」の問題で国会が紛糾する最中の11月12日夕方、井坂信彦氏、井出庸生氏、私の3人で立ち上げた「年金抜本改革チーム」は、「基礎年金(国民年金)生活者の貧困リスクと対策を考える」と題し、国会議員を対象とする勉強会を企画した。

 この勉強会は、9月29日に『論座』で発表した「年金抜本改革チーム」提言『消費増税なしでベーシックインカム年金は実現する』を実現に近づけるため、国会の内外で理解者・賛同者を増やすための活動の一環として行ったものだ。

 開催にあたり、私たちの提言をなるべくわかりやすく、簡潔に伝えられる資料が必要だということになり、メディア出身の井出氏が中心となって「日本の年金はこれからどうしたらいいか」という4枚組のイメージ図を作った(下図)。

 また、提言をまとめる過程で大変お世話になった、稲垣誠一・国際医療福祉大学教授、小黒一正・法政大学教授、西沢和彦・日本総研主席研究員にもお越しいただき、専門的な立場からコメントを頂くことにした。

 会場の議員会館内の会議室には、多忙な公務、政務の合間を縫って、野党の立憲民主党、国民民主党、日本維新の会のほか、自民党や無所属の国会議員26名が駆けつけてくれた。他にも議員秘書13名やマスコミ関係者にも傍聴して頂き、活発で有意義な意見交換を行うことができた。

 本稿では、私たちの問題意識や改革の内容への理解を深めて頂くため、勉強会の場での主な議論について紹介したい。

論点の提示と三人の有識者からのコメント

 勉強会の冒頭、私から提言に至るまでの経緯と提言の概要を紹介した。次いで井坂氏から各種データに基づき以下の内容を説明し、論点を提示した。

①今後の離婚・非婚の高齢女性の増加と、これらに伴う「老後の貧困」の深刻化(参照『年金不安を根本から解消するために』『75歳からのベーシックインカム』
②その解決策として、税を財源とする75歳以上向けの「ベーシックインカム年金」(参照『75歳からのベーシックインカム』
③増税に頼らない財源の調達策として、「年金財源のリサイクル制度」(参照『月8万円の「ベーシックインカム年金」を目指して』『消費増税なしでベーシックインカム年金は実現する』
④75歳未満の基礎年金と厚生年金の財政統合による、基礎年金(所得代替率)の改善(参照『消費増税なしでベーシックインカム年金は実現する』

 これを受けて、三人の有識者から順次ご意見を伺った。

稲垣教授

 現在の年金制度は保険料を十分に払えない人について、老後の生活保障を考えていない。国民年金の加入者の4割、約600万人が年金保険料を払えないために保険料免除や納付猶予を受けており、老後の貧困に直面する。

 民主党が政権公約に掲げていた「最低保障年金」がうまく制度化できなかったのは、65歳からこれを始めようとしたことだ。財源が多くなるだけでなく、旧制度から新制度への移行も難しくなる。

 75歳以上向けの「ベーシックインカム年金」なら、移行は容易だ。「年金財源のリサイクル制度」というのも国民負担を増やさず、いい発想だ。

小黒教授

 超党派で年金改革の議論が行われることは喜ばしい。公的年金の純債務は2004年度で690兆円だったのが2019年度で1110兆円に達した。次世代に負担を先送りすべきではない。

 「ベーシックインカム年金」の必要財源は一見巨額に見えるが、例えば8万円の支給額を6万円に引き下げることなどで大幅に圧縮できる可能性がある。

 このままでは、今後生活保護を受ける高齢者が急増しそうだ。生活保護の財源の四分の一は地方自治体の負担であり、人口減少で危機的な地方財政をさらに圧迫することになる。

西沢研究員

 夫が会社員、妻が専業主婦で厚生年金に加入する「モデル世帯」ではなく、単身女性などの老後の貧困に着目した点や、再分配を重視して税金を使う点において評価できる。

 他方、財源の調達方法として消費税を避けている点や「年金財源のリサイクル制度」のオペレーション(実務)に課題が残る。

論点1「老後の貧困」問題の深刻化

議員からのコメント

 まず「老後の貧困」問題が今後深刻化するという私たちの認識について、特段の異論はなかった。ただし、75歳未満は保険料の支払実績に応じた基礎年金が支給されるため老後の貧困は防げず生活保護が増えるとの指摘や、「ベーシックインカム年金」の支給を75歳以上に限定する理由を尋ねる質問があった。

私たちの回答

 これに対し、私たちからは、「様々な統計やアンケートから75歳未満の方は就労の意欲と能力が高く年金以外の収入を得やすいことから、低年金でも生活保護を受給する可能性はさほど大きくない。75歳以上になると年金以外の収入が得にくいことを踏まえ、75歳以上をベーシックインカム年金の支給対象にした」旨の回答を行った。

論点2「ベーシックインカム年金」の妥当性

議員からのコメント

 次に「ベーシックインカム年金」を75歳以上のすべての高齢者に支給することについては、お金に余裕のある高齢者に支給する意味があるのかという疑問や、保険料を払わない高齢者にも支給することで不公平感が生まれるのではないかという指摘があった。

私たちの回答

 前段の疑問について、私たちからは、「人生100年時代に病気や災害などに見舞われるリスクは誰もが負っている。ベーシックインカム年金を当面使う予定がない富裕層でもいざという時に備えて運用に回すという方法もある」旨の回答を行った。

 後段については、「ベーシックインカム年金の原資は保険料ではなく税金であり、老後の貧困を防ぐために再分配を強化することは問題ない、むしろ現在の基礎年金は、(各人の給付額の財源につき保険料と税金が半々であるから)自分が払った保険料に見合う額しか税金による給付が得られず再分配機能が弱いという問題がある」旨の回答を行った。

 ただし、現行制度での税金投入の評価については、別の議員から「現行制度は保険料を払えばそれに見合った税金が支給額に上乗せされるため、保険料を支払うインセンティブを高めている点で合理性がある」旨のコメントがあった。

論点3「年金財源のリサイクル制度」の妥当性

議員からのコメント

 「年金財源のリサイクル制度」については、もっとも議論が集中した。

 議員の関心事は、大別すると、①私たちが試算した返還予想額が過大ではないか、②実質的には相続税の大幅な課税強化であり実務が回るのか、という点であった。

 ①については、返還予想額は現時点で高齢者が保有する金融資産のデータが前提になっているが、リサイクル制度で返還義務が生じるとなると消費に回す高齢者が増え、金融資産が減少して返還額は先細るのではないか、という指摘や、「ベーシックインカム年金」を15年受け取って亡くなると受給総額は約1500万円となるが、これを返還するとなると多くの高齢者は死後に財産を根こそぎ持っていかれて酷だ、という指摘があった。

 ②については、制度導入に国民の理解や協力が得られるのかという問題意識と、相続人などへ返還を求める役所側の事務負担が重いのではないかという問題意識が寄せられた。

私たちの回答

 ①について、私たちからは、「返還の元となる財産は金融資産に限らないため、仮に金融資産が減少しても直ちに返還額が減少することはない。死後に財産を根こそぎ持っていくのではなく、最低限の費用として300万円と、配偶者や子が居住する不動産は返還を求めない」旨の回答を行った。

 ②について、私たちからは、「フランスの高齢者の生活保障給付やドイツの生活保護などに同様の制度があり、定着している。相続税で支払うべき金額は国税当局に立証責任があり、現在のマンパワーでは徴税に限界があるが、リサイクル制度で支払うべき金額は死亡時の年齢から明らかであるため役所側の事務負担は重くない」旨の回答を行った。

論点4 基礎年金と厚生年金の財政統合による基礎年金の改善

議員からのコメント

 75歳未満の基礎年金と厚生年金の財政統合で基礎年金の水準が改善するという点については、年金財政やマクロ経済スライドの仕組みを深く理解していないと、なかなか実感がわかない。参加した議員からも、この年代の基礎年金への税金投入をなくそうとする今回の提案ではむしろ基礎年金の水準が悪化するのではないか、という疑問や、仮に基礎年金の水準が改善するとしても、その分厚生年金の水準が悪化してしまうのではないか、という疑問が出された。

有識者からのコメント

 以上の疑問点については、有識者の皆さんからコメントを頂いた。

 前者の疑問について、稲垣教授から、「税金投入がなくなってもベーシックインカム年金導入で不要となった75歳以上の基礎年金用の保険料で穴埋めできるため、基本的に、年金財政に影響はない。ただし、障害基礎年金や遺族基礎年金の財源をどうするかよく検討する必要がある」旨のコメントがあった。

 後者の疑問について、小黒教授から、「厚生年金のバランスシート上の財源規模は2260兆円であるのに対し、国民年金の財源規模は140兆円で大きな差があるため、統合した場合に厚生年金の水準はわずかに悪化するが大きな影響はない」旨のコメントがあった。

11月12日に開いた超党派勉強会。正面席は左から井坂信彦氏、稲垣誠一・国際医療福祉大学教授、小黒一正・法政大学教授、西沢和彦・日本総研主席研究員、階猛氏。左奥の司会役は井出庸生氏

議員からのその他のコメント

 これ以外にも、専業主婦が保険料負担を免れる「3号被保険者」制度を廃止すべきとの意見、超高齢者には「ベーシックインカム年金」を現金ではなくサービス給付にすべきとの意見、「ベーシックインカム年金」より「最低保障年金」等の名称の方が実現しやすいとの意見、高齢者だけでなく現役世代も含めた生活保障の手段としてベーシックインカム制度を議論すべきとの意見など、多角的ないし大局的なご意見を頂いた。

 総じて私たちの提案内容をさらに発展させて欲しいという建設的な声が多かった印象だ。改めて、今回の勉強会にご参加頂いた有識者、国会議員の皆さんに深く感謝を申し上げたい。

今後の活動方針

 勉強会に参加した議員との意見交換を通じ、①現行の「半保険料半税金」の基礎年金制度から、75歳を境に「全額保険料」の基礎年金と「全額税金」の「ベーシックインカム年金」から成る新制度へと移行するための手法と期間、②「年金財源のリサイクル制度」による資金調達力のより詳細な把握と返還方法など、私たちの提案は実務面の検討を行う段階に入った。

 今後は、私たちの提案について、実務を担う霞が関の関係者と意見交換を行う場を設けたいと思う。

 並行して、SNS等を活用して動画やイラストを交えながら、より多くのみなさんが私たちの提案に関心と共感を持って頂けるような取組みも行っていきたい。

 最後のあいさつで井出氏が述べたとおり、年金制度は党派を超えた共通の認識の下で改革を行うべきであり、時の権力者の意向でコロコロ変えるようなことがあってはならない。拙速を慎みつつ、時機に遅れない中身の濃い提案に仕上げていきたい。