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丸森町へのボランティアの善意

[163]宮城県丸森町、国民祭典、天皇即位祝賀パレード、『フィガロの結婚』…

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

11月5日(火) 午前中「報道特集」の定例会議。いろいろな行き違いで延び延びになっていた辺見庸さんの新詩集『純粋な幸福』の書評を琉球新報にメール。ようやく掲載される。

 沖縄タイムス社から首里城焼失についての短いコメントを欲しいとの依頼が来る。うーん。首里城の焼失についてはとても110字なんていう字数じゃ言い切れないくらい複雑な思いがあるのだけれど。でも締め切りが明日だというので引き受ける。

 今週の前半特集は、台風禍1カ月でということになった。継続取材の難しさを感じつつ、関わりをもつことになった宮城県丸森町に行くことには躊躇がない。夜、新宿でH。

11月6日(水) ストレス解消のため朝、早起きしてプールへ。このところ太り気味だ。雑誌「クレスコ」の原稿。萩生田文科大臣の「身の丈」発言について書く。考えてみると「身の丈」とは「階級」のことではないか。「沖縄タイムス」の短文送る。早稲田の学生と面談。夜、赤坂でT。

11月7日(木) 朝7時発のJRで宮城県白石蔵王駅へと向かう。そこで車に乗り換え丸森町へ。天気がいい。今回も来日中のコロンビア大学キャロル・グラック教授の話を聞くチャンスを逸してしまった。とても残念。

 丸森町役場前のゴミ集積場は、2週間前よりもゴミの量がさらに増えていた。以前の取材でお世話になった船山さんを訪ねる。船山さんは今も避難所で生活している。2週間前の取材では、孤立地区にあった自宅は1階部分が泥土で埋まり壊滅状態だった。それが何と、今月の3連休にボランティアの人たちがやって来て、1階部分の泥土や家具を全部取り除いてくれたのだという。

町民グラウンドに山積みになった災害ごみ=2019年11月12日午後2時49分、宮城県丸森町町民グラウンドに山積みになった「災害ゴミ」=宮城県丸森町

 一緒に現地に行ってみて驚いた。本当に庭と1階部分の泥土・漂流物が除去されているではないか。船山さんは僕たちに嬉しそうに携帯電話で撮った記念写真をみせてくれた。山形県から来た女子高校生9人のボランティア・グループが写っていた。さらに福岡や京都からもボランティアが来てくれたそうだ。「まだまだ捨てたもんじゃないって思いましたよ。こちらも何だか希望をもらって」。船山さんは本当に嬉しそうだった。だが、この家を再建してここに住むのはやはり相当に困難だと考えているという。仮設住宅に入るのが現実的だと考えている。3連休中に丸森町に来たボランティアは2400人にも達したという。

 その後、川が氾濫した地区に回ると、まだまだ復旧にはほど遠い状態が続いていた。Tディレクターの発案の避難情報の適切なありようの検証で、氾濫時の住民の証言を聞き歩いた。避難勧告はかなり早い段階から出ていたが、行政からの「レベル5」の情報が発せられたかなり前の夕方(午後6時から6時半)の段階で実際には堤防が決壊して、一気に胸の高さの濁流が押し寄せたのだという。

 さらに、東北大学の河川管理の専門家らに現地で話を聞いた。Tディレクターは水位計の設置にこだわっていたが、この地域の住民や行政も、水位計の必要性は現実的な問題とはなっていなかったように感じられた。だが、今後はそうはいかないだろう。災害はこの後にいかに教訓をくみ取って活かしていくかが問われる。

 丸森町の中心部を回っていたら、1階部分が水没した日本料理屋さんを一生懸命に再建・再開しようと、店主と工務店の女性らが汗を流して修繕作業をしていた。「当たり前の日常がいかに大切なのかを思い知りました」という工務店の女性は、息子さんの結納の祝言をこの店でやったので特別の思い入れがあるのだと言っていた。何だか話を聞いていて、じーんと胸に沁みた。

 汚染土の仮置き場に行くと、2週間前に農産廃棄物の仮置き場にするために自衛隊員が整地していた場所には大量の水が溜まっていた。この場所は全くの無人で、汚染土置き場は2週間前と同じ、全く手つかずの状態だった。

 夕方になると、さすがに寒くなる。丸森小学校の避難所に行くが、撮影は不可だと言われる。カメラを持たずに中に入ってみたら、段ボールベッドがあって、石油ストーブが数台置かれていた。校庭には自衛隊の救援部隊が浴場「伊達の湯」を設営していて、避難所から住民らが三々五々訪れていた。多い日で1日に300人が浴場に訪れるという。浴場には男湯と女湯があるが、番台役の自衛隊員は屋外でストーブを置いて座っている。自衛隊員は災害現場で本当によく働いている。

 今日一日取材をしていて、何だか2週間前の取材の番組に反応があって、ボランティアの人々も訪れたことを知って、ほんの少しだが報われた気がする。

台風19号が上陸してから1カ月。被害を受けた住宅兼作業所で、泥をかき出す仙台市から来たボランティアの佐賀智博さん(30)。「思ったより被害がひどく行方不明の人もいる。まだまだ人手も足りない」=2019年11月12日午前11時52分、宮城県丸森町台風被害を受けた住宅兼作業所で、泥をかき出す仙台市から来たボランティア=宮城県丸森町

壮大なテレビショー「国民祭典」への違和感

11月8日(金) 今日も好天。丸森小学校の避難所内部の撮影ができることになって、向かう。段ボールベッドがあるのとないのでは全く環境が違う。何となく仕切りのようなものもできていたが、こんな場所に避難者が長期に滞在しなければならないことが気の毒だ。

 午前中にはほぼ取材を終えて、丸森町の地元の飲食店に入って昼食をとる。まだ再開してからまもない気の利いた日本料理の店だった。地元のお客さんたちが結構訪れていた。衣食住は基本だ。

 夕方、平河町でアメリカからのゲスト(アメリカ人の2組の夫婦及び婚約中のカップルら)と会食。アメリカ大統領選挙の話題に少しだけ触れる。というのも、一人はホワイトハウスで働いているので。本当に今回は激しく動き回って少々くたびれた。

11月9日(土) 朝、NHK「おはよう日本」をみていたら、例の「しんゆり映画祭」の件を伝えていた。しっかりとこれまでの経緯を取材していた。

 「報道特集」のオンエア。前半は台風水害禍その後。後半は「人生100年時代の高齢者と年金」。高齢者の第二の人生の生き方。身につまされる内容だった。

 冒頭の挨拶に迷った。今日はベルリンの壁崩壊からちょうど30年の日。それに触れたのだが、実は別バージョンも用意していた。放送前に若いスタッフに聞いたら「ベルリンの壁よりも、こっちの方がわかりやすい」と言われたので、僕は意地になってベルリンの壁バージョンを喋ったが、別バージョンの方がよかったのかなあ。ちなみに別バージョンはこれ。<今の内閣で、相次いで2人の大臣が辞任した際に、「任命責任は私にあります」と神妙に語っていた安倍首相が、国会の質疑の場で何度か野次を飛ばして注意を受けていました。千葉県の森田健作知事といい、行政のトップの資質の劣化に呆れ果ててしまいます。特集は、台風被災地のその後、そして老後の生き方です>。ベルリンの壁崩壊という歴史的出来事は、もはや遠のいたか。

 今日は民間の「天皇陛下御即位奉祝委員会」が開催する「国民祭典」が午後6時過ぎから7時近くまでNHKが生中継している。今日、局に来る時に東京駅から皇居前を車で通ったが、すでにたくさんの人々が何となく皇居周辺に集まっていた。

 「報道特集」の本番が終わってから、録画でこの「国民祭典」をみた。

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