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スペインが問う「政治の劣化」という問題

花田吉隆 元防衛大学校教授

Marcos del Mazo Valentin/Shutterstock.com
 この4年に4回行った選挙も、結局、局面打開に至ることなく終わった。さすがに5回目はもう嫌だろう。スペイン国民の困惑は想像するに余りある。

 4月総選挙の後、社会労働党のペドロ・サンチェス首相は半年に及ぶ連立交渉の果て再度の総選挙実施を選んだ。11月10日の選挙に、サンチェス首相は自らの党が20議席ほど上積みすることを期待して臨んだ。しかし、結果は逆に3議席減の120議席。再び、350議席の過半数に遠く及ばない。改めて連立交渉が始められるのだろうが、代わり映えしない結果では明確な展望が描けるはずもない。ただ一つはっきりしているのは、いかなる政権が発足しようと強力な政権は見込めないということだ。しかし、そうこうしている間に、好調な経済に影が差しつつある。失業率は14%と高止まりの様相で、人々の景況感は悪化、成長も鈍化の見通しだ。

中道右派に手痛い打撃

 今回の総選挙で最も手痛い打撃を被ったのが中道右派の「シウダダノス」だ。実に4月の選挙時に比べ47議席減の10議席という散々たる有り様。有権者は連立交渉失敗の原因はシウダダノスにあると見た。

 4月の総選挙が終わった段階で、社会労働党123議席、シウダダノス57議席。もし、シウダダノスのアルベルト・リベラ党首が、サンチェス首相の求めを入れ連立に応じていたら過半数を占める政権が発足していた。中道左派と中道右派の組み合わせは改革志向の政権としてうってつけだ。労働市場の活性化、福祉の見直し等、スペインが直面する多くの課題に取り組む絶好の政権が出来上がっていたはずだ。しかし、リベラ氏はサンチェス首相の求めを拒絶。理想の組み合わせはあえなく水泡に帰した。

 リベラ氏は有権者の関心は「右」にあると見ていた。従って、シウダダノスの「中道右派」のポジションは「左」ではなく「右寄り」にシフトさせる必要がある。社会労働党と連立するのではなく、むしろカタルーニャ問題に強硬な姿勢をこそ示さなければならない。しかし、シウダダノスの右にはれっきとした右派政党が、国民党に「ボックス」と二つもある。右に寄ったシウダダノスの位置づけは俄然あいまいになり、有権者に対するアピール力を失ってしまった。

 他方、リベラ氏に拒絶されたサンチェス首相は、やむなく次善の策として急進左派ポデモスとの連立を模索する。しかし、もともと交渉に乗り気だったわけではない。案の定、話し合いは何の成果も生むことなく連立に向けたすべての試みが幕を閉じた。有権者はこの事態を見て、今回の混迷の主犯はシウダダノスだとしてその議席を大幅に減らしたのだ。

極右政党が躍進

 今回の総選挙のもう一つのポイントが極右政党ボックスの躍進だ。実に、4月の24議席から倍増の52議席となった。背景に、カタルーニャ問題がある。10月、スペイン最高裁は2017年のカタルーニャ独立宣言の責任を問い関係者9名に有罪判決を下した。独立志向派はこれに反発、大きな騒動となったが、これを見て、スペイン国民のカタルーニャ独立に対する危機意識が急速に高まっていく。ボックスはこれに呼応した。ボックスはカタルーニャ独立反対、スペインの一体性強化の立場だ。4月の総選挙では前評判に反し思ったほど得票を上げられなかったボックスが、今回、最高裁判決という願ってもない追い風を受けることとなった。

 スペインは40年に及ぶフランコ独裁の経験を持つ。従って極右政党は生まれまいと見られていたが、昨今の欧州のポピュリズム旋風は、結局、スペインにも及ぶこととなった。ボックスはポーランドの「法と正義」に近いとされ、今回、不法移民が国の福祉予算を食い物にする、との主張を繰り返した。その過激な主張は他欧州諸国のポピュリスト政党に引けを取らない。

 ボックスの躍進はスペイン政治にとり見過ごすことのできない意味を持つ。サンチェス政権以前、政権の座にあった中道右派、国民党は今回、66議席から22議席上積みし88議席とした。しかし、右派で連立を組もうとすればもう一つの中道右派シウダダノスの10議席では足りない。不足を補おうとすれば極右ボックスしかない。つまり、右派の政党が連立を考える時、もはやボックス抜きの連立はありえない。今や、ボックスはスペイン政治の右翼に確固たる基盤を築いたといっていい。ついにこのスペインでも、他の欧州諸国同様、極右が政治の重要な一翼を担うことになってしまった。

 選挙が終わり2日後の12日、社会労働党は急遽ポデモスとの連立を発表した。連立形成への大きな一歩だ。選挙前、合意の機運はなかった。選挙で、右派が躍進し左派の両党としては危機感を高めざるを得なかった。社会労働党とポデモスがともに得票を減らしたからだ。

 しかし、問題は、この二党だけでは過半数に至らないことだ。更に他の政党を加えなければならない。左派系の少数政党はいいとして、

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