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関潤副COO退任で日産が犯したミスとは

人材の社外流出防止に必要な「新役員への心理面での配慮」と「契約上の縛り」

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

就任会見に臨んだ日産の関潤副COOだったが……=2019年12月2日、横浜市西区

 2019年暮れ、船出したばかりの日産トロイカ経営陣の要であった副最高執行責任者(副COO)の関潤氏が退任した。

 朝日新聞デジタル12月24日付「日産のナンバー3が辞任の意向 今月発足の新体制崩れる」、同26日付「日産『3頭体制』1カ月で崩壊 ナンバー3扱い、不満か 関氏辞任」、同31日「日産ナンバー3辞任、背景にカリスマ会長の熱烈オファー」を読むと、現状に不服だった関氏の本音が浮かび、その間隙を縫った永守重信・日本電産会長に一本釣りされたことから、日産の社内にも動揺が走ったようだ。一方で、「敵前逃亡」と非難する社外取締役の発言もあり、日産としてこの突然の事態を解決するのは非常に難しいことを感じさせる。

 12月27日には、執行役副社長の坂本秀行氏を新取締役候補に決めたが、副COOだった関氏の役割は残された2人、内田誠CEOとアシュワニ・グプタCOOが分担するとのことなので、取締役会が想定した「3人体制」はもはや存在しないことになる。

新役員の流出リスクに備えるべきだったのに……

 日産の取締役会が「3人体制」を決定したのは10月8日なので、新体制スタートまで約2カ月。そこから関氏の退任まで約20日、表向き取締役会の意志が続いたと思われる期間は、わずか3カ月弱だった。

 3人のうちグプタCOOは三菱自動車からの転身。内田CEO、関副COOは内部昇格とはいえ、取締役会が打ち出した「若返り」の旗印のもと、副社長を抜き去っての“飛び級人事”だったので、発表直後からその布陣をめぐり、日産社内がぎくしゃくしたであろうことは想像に難くない。

 まして、この人事が発表されたのは、ゴーン前会長の逮捕から約1年で、難航が予想される裁判はこれからという状況。西川廣人・社長兼CEO(最高経営責任者)が就任から3カ月という短期間で辞任し、日産全体が異常な興奮状態にあったことも間違いないだろう。

 このような状況で、取締役会、および人事部が気を配るべきは、せっかく選んだ新役員が社外に流出してしまうリスクである。そのために必要な手立ては、①新役員への心理面での配慮②契約上の縛り、の二つである。

関氏に代表権を与えなかった取締役会

 日産には、日本型と欧米型の経営ヒエラルキーが混合している(拙稿「ルノーの子会社化が色濃くなった日産の新たな布陣」参照)。にもかかわらず、取締役会が強調した「トロイカ(3頭)体制」や「コンセンサス経営」の形式をとらず、代表権を関氏には与えず、3人を対等に話せる立場にはしなかったのは、なぜだろうか。

 おそらくその理由は、7月にスタートした「西川体制」の代表取締役が、西川CEOと山内COOの2人だったため、それぞれの後任である内田、グプタの両氏が代表権を継承したというぐらいの考えだったのだろう。

 ゴーン時代の反面教師として、ワンマン化を避けるために「トロイカ体制」を選択し、西川CEOのもとで始まったばかりのリカバリー・プランを「西川プラン」と呼ぶのに違和感を覚えるとまで言った木村会議長(社外取締役)も、こうした措置が与える影響まで考えていなかったと思われる。

 ポスト西川へのリサーチの一環として、関氏からヒアリングした際、彼が辞意表明後のインタビューで吐露した「社長になりたい」「今の年齢を考えれば最後のチャンス」という思いをどうして汲み取れなかったのか。あるいは、そんな希望を持つ彼に日産で活躍してもらうにはどうすればいいのかという発想に到らなかったのか。不思議でならない。

足りなかった心理面での配慮

日産自動車グローバル本社=横浜市西区
 大事なのは、関氏にとって現在の日産は、彼が入社して頑張ってきた会社ではなく、ゴーン氏と改革成功のために働いてきた会社でもないという事実を、日産の取締役会が忘れていた点である。いまの日産は、ルノー支配の色彩が強まるなか、ゴーン前会長を強引な手法で追い出した後、新たなCEOまでもが短期間で辞任するという混乱の極みにある会社なのである。

 3人体制の各人が考えたのは、ルノーと交渉しつつ、従来からの社員を抱えるという難しい立場にあって、両者をうまくマネージするためには、自身の能力と努力だけでなく、他の2人との協調が必要だということだろう。しかも、取締役会は日産だけの業績にかかわるのか、ルノーとの協調にも重きを置くのかが明確ではない。

 こうした現在の日産の目的や課題は、一般的な日本の会社の課題とは大きく異なる。日産の生え抜きで生きてきた関氏にとっては、それまで培ってきた能力以外のものが求められるというリスクを意味する。

 だからこそ、彼を登用するにあたって取締役会が考えるべきは、

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