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山口県で伊藤詩織さん判決を知る

[169]山口県阿武町、イージス・アショア配備候補地、『憲法くん』……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

12月17日(火) 朝、7時20分発の便で山口宇部空港へ。こころの中で葛藤を抱えたまま、猿回しの猿が、馬車馬の馬のように猛烈に働いている。Kディレクターとの道行き。彼に迷惑はかけたくない。今日の「国境なき医師団」集会や、あしたの伊藤詩織判決公判はカバーできない。

 空港から山口県庁へ。県庁に防衛省幹部らがイージス・アショア配備についての再説明に来る。それを取材するためだ。県庁前に着くと、市民団体のメンバー20人ほどが集まって抗議活動をしていた。今日の防衛省再説明は、報道陣にはフルオープンなので、県庁の中に入っていくと、いきなり正面玄関に「祝 安倍晋三内閣総理大臣 総理在職歴代最長達成」という大きな横断幕が掲げられていた。さらにロビーで「山口県の総理大臣展」という特別展示が絶賛開催中というありさま。

 山本朋広防衛副大臣以下、防衛省幹部らが続々と知事応接室に入っていく。知事の他、萩市長や阿武町長らが説明を受ける側に坐っている。考えてみるまでもなく、これがセレモニーであることは見え見えだ。それでも藤道健二萩市長は「秋田県の新屋(あらや)演習場変更の可能性がある限り、(配備可否の)判断をすることはできない」と述べ、花田憲彦阿武町長は「(むつみ演習場を、配備地候補から)除外することに大きな期待を抱いている」と言い切っていた。

陸上自衛隊むつみ演習場付近での再調査の結果を説明する山本朋広・防衛副大臣(左端)=2019年12月17日、山口県庁陸上自衛隊むつみ演習場付近での再調査の結果を説明する山本朋広・防衛副大臣(左端)=2019年12月17日、山口県庁

 その後、山本副大臣、萩市長、阿武町長の共同ぶら下がり会見が設定されていた。山本副大臣は、秋田の新屋演習場への配備計画について「断念したとの事実はない」と言った。ゼロベースでの見直しの意味を訊いたが要領を得ない回答だった。

 例の件で、東京ときわめて不愉快な電話のやりとり。看過できない。その後、明日の阿武町取材の仕込みなど。夜、宿舎のホテル近くの居酒屋でかなり飲んでしまった。

こんな場所にイージス・アショアを配備するのか……

12月18日(水) 今日で66歳になった。朝早く山口市内のホテルをチェックアウトしたが、飲み過ぎて頭が痛い。何をやっているんだか。地元紙の山口新聞を見たら、何とこの新聞は第一面に「首相動静」を載せているのだった。

 今日は時間をかけて、阿武町のイージス・アショア配備場近くの農民に話を聞くことに。その農家の白菜畑はイージス・アショアの配備場から2百数十メートルの距離しかないという。初めてお会いする方で少し緊張した。農家民宿もやっておられるという。午前10時前にお宅を尋ねるとその人、白松博之さんがおられた。全く知らなかったのだが、以前、木から転落して車椅子を使用していらっしゃった。このあたりは土壌がとてもよいうえ、地下水が豊かで湧水も各所にある。何と地下水から水道をまかなっているとのことだった。

 イージス・アショアが配備された場合の環境の激変をこころから憂慮されていた。防衛省側の説明は、電磁波にせよ、水環境への影響にせよ、とにかく「影響はございません」の一点張りで結論ありきだと。とても怒っていた。

 畑を案内してもらった。山あいの土地をうまく利用して良質の白菜などの野菜をつくってきた。白松さんは山道を自分で車を運転して移動し、ひとりで車から降りて車椅子でがたがたの道を移動するのだった。相当な体力が必要だ。こんな場所にイージス・アショアを配備するのか。来てみなければわからないなあ、これは。

 このあたりは全く携帯電話もインターネットも通じない。本当に申しわけないのだったが、心のどこかに伊藤詩織さんの判決が気にかかっていた所があったのだが、ここはそういうものと隔絶した場所なのだった。だからかえって気が楽になった。白松さんはとても丁寧にご自分で説明してくださった。それに応えるべく僕らも丁寧に取材をしたつもりだ。このあたりは人工的な音がほとんどない。壮大な森林浴をしているような錯覚に陥る。

陸上自衛隊むつみ演習場=2019年7月12日、山口県萩市、朝日新聞社ヘリから201907山口県萩市の陸上自衛隊むつみ演習場=2019年7月、朝日新聞社ヘリから

 最後にむつみ演習場と畑との位置関係がわかる地点に移った。するとそこは電話やネットがなぜかつながっているのだった。もう時刻は11時半をとっくに過ぎていたが、10時36分に東京からメールで「詩織さん完全勝訴!」と履歴があった。さらにその後、東京の仲間が民放とNHKの昼のニュースでの報道ぶりを動画で送ってきてくれた。本当にありがたい。

 判決要旨を読んだ限り、本当に全面勝訴で、山口敬之氏の反訴は棄却されていた。画期的な内容だ。詩織さんの出版や集会参加活動の公益性も認めている。フランスの知人から電話がかかってきて、判決について感想を求められた。僕は

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