メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

東洋の真珠・スリランカでいま起きている事(下)

シーレーンの要衝に食指を伸ばす中国。世界が注視する新大統領の外交政策

海野麻実 記者、映像ディレクター

 昨年(2019年)11月に行われたスリランカ大統領選で、内戦を終結に導いたとして主に多数派仏教徒を中心に人気を誇るラジャパクサ兄弟が国政の場に返り咲いた経緯と背景を、「東洋の真珠・スリランカでいま起きている事(上)」で紹介した。引き続き本稿では、ゴタバヤ・ラジャパクサ新大統領の外交政策について考えたい。兄のマヒンダ・ラジャパクサ元大統領は、かつてその中国寄りの姿勢が批判を浴びた。中国やインドなどの大国が覇権を競うシーレーン(海上交通路)の要衝にあるスリランカだけに、今後の外交の方向から目が離せないからだ。

風光明媚だけではないスリランカの魅力

スリランカ、ウナワトナのビーチの美しい夕日 Volodymyr Goinyk/shutterstock.com

 「インド洋の真珠」とも称えられるその魅力に取り憑かれた観光客たちで賑わいをみせるスリランカ。しかし、この島の魅力はその風光明媚な光景だけではない。その一挙手一投足が世界から注視されるあの大国、中国が“赤い食指”を伸ばすのは、この島が持つ別の魅力のためだ。それは何か?

 スリランカは、中東とアジアを結ぶ海上交通路の要衝に位置する。インド太平洋地域で海洋覇権を握ろうとすれば、無視できない地理的特性を持つといえる。巨大経済圏構想「一帯一路」や、シーレーン防衛に向けてインドを囲むようにして港湾拠点を築く「真珠の首飾り」戦略をみると、中国がそうした面からスリランカを重要視しているのは明らかだ。

 ゴタバヤ・ラジャパクサ新大統領の兄・マヒンダ元大統領は、在任した2005年から10年の間、中国に大きく依存した外交戦略を進めた。中国もまた、急速にスリランカに接近。スリランカの対外債務残高は右肩上がりで拡大した。こうした中国との度を超した“蜜月ぶり”と、ラジャパクサ一族による権力支配や汚職に国民は離反。2015年の大統領選でマヒンダ氏は敗北する。

 今回、ゴタバヤ新大統領は当選前から中国との「関係を回復する」と明言。マヒンダ氏が首相に就任したことで、前政権でいったん弱まった“親中路線”に、再び傾いていくのではないかという懸念が広まりつつある。

内戦末期に影響力を強めた中国

 長年続いた内戦の末期、スリランカでは反政府勢力・タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)への軍事作戦で数万人(4万人)の民間人が殺害されたほか、少数派タミル系の民間人など数千人が行方不明となったり、拷問の被害を受けたりしたとされる。

 こうした状況を、国連は「国際法秩序への重大な攻撃」と指摘。日本をはじめとする先進諸国も企業進出や投資を控えた。国際社会の支援が減ったスリランカに対し、その空白を埋めるかのごとく、影響力を急速に強めていったのが中国だった。

 実際、過去数十年間にわたり、低金利で融資をしてきた日本とは異なり、中国からの融資はここ10年ほどで急激に伸びている。

・・・ログインして読む
(残り:約3231文字/本文:約4464文字)