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それでも中国が今年も高成長を続けるワケ

米中戦争などの悲観要素で見誤ってはいけない中国の政治・経済力

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

中国の経済成長率を発表する寧吉喆・国家統計局長=2020年1月17日、北京市、福田直之撮影

 1月17日、中国の2019年中の年間GDPの成長率が+6.1%と発表された。天安門事件で成長率が急低下した1990年(+3.9%)以来の低成長である。その一方で、一昨年から低下し続けてきた四半期成長率をみると、昨年の第4四半期は前期と同じ+6.0%と下げ止まっている。

 主たる理由は、2016年12月の「不動産は投機ではなく住むためのもの」という政策にあり、不動産価格は下がっているが、論座の拙稿「日本からは見えにくい経済の本質」2019年3月7日「日本からは見えにくい中国経済のもう一つの本質」2019年11月10日等で指摘してきたように、中国固有の構造問題の影響も大きい。

 同日、中国は、総人口が14億人を超えたのと同時に、2019年の新生児数が前年と比べて3.8%少ない1465万人と、1961年以来の低水準となったことも発表した。日本を追いかけるかのような少子高齢化の問題が、いよいよ厳しくなっていることが示されたかたちだ。(詳細は「米中貿易戦争より深刻な中国の高齢化問題の本質」2019年12月3日をお読みください)。

中国の景気は後退?それとも?

 この日、習近平国家主席は王毅外相ら閣僚級4人を含む訪問団を連れてミャンマーを公式訪問し、この1年間に同国と深めてきた関係の仕上げを行った。「一帯一路」に参加している同国と、より緊密な経済関係を結び、運命共同体となったのである。習主席の乗った特別機はミャンマー空軍の戦闘機が同国領空に入ると同時に出迎えてエスコートし、帰りも領空を出るまで見送るほどの歓迎ぶりだった。

 同日、北京では李克強首相が、2011年のノーベル化学賞受賞者のシェヒトマン、2018年のノーベル物理学賞受賞者のムールーなど、中国で働く著名な学者を人民大会堂に集めてシンポジウムを行い、中国経済が安定成長を続けていることをアピールした。

 日米の中国専門家や一部の海外エコノミスト等は、米中貿易摩擦の影響や豚コレラ等を踏まえ、マクロ・データを使いながら、中国の景気が後退する懸念を言い募るだろう。とりわけ日本人は、悲観論好きな国民性に加えて反中感情の強さもあって、ネガティブな方にバイアスがかかっているようだ。

 これに対し、中国首脳部は強気の経済戦略を続け、+6.1%もG7諸国と比べると十分高い成長だと主張する。

 どちらが正しいのだろうか。

「10年でGDP2倍」の公約達成は容易ではないが

 中国共産党・政府は、2020年のGDPを2010年比で実質2倍にすることを国民への公約としており、この達成のため、今年は+6.2%の実質成長が必要である。今年、これを達成して、来年の中国共産党結党100周年につなげたいところだろう。

 しかし、直近の第2四半期が+6.0%で、その主たる原因である米中貿易摩擦等が継続していることを考えると、公約の達成は容易ではない。一人っ子政策を廃止しても、少子化の流れは変わらず、高齢化ビジネスの拡大はあっても、経済全体の活性化エネルギーが低下することは否めない。不動産価格の低下は投機熱を冷ますものの、経済成長にはマイナスである。

 地方都市や農村部のインフラ整備、全国へと広げる新幹線の建設と運行などによる国家が負担する債務も大きく、様々な措置が打たれ始めたとはいえ、日本の経験に鑑みれば、将来は必ずしも明るくない。

 とはいえ、そこは中国の強(したた)かなところで、日本経済の平成の失敗をしっかり研究しており、そのレベルは、かつてアメリカのシンクタンクが世界各国について行っていた分析に、まったくひけを取らない(ちなみに、アメリカは第2次世界大戦前に、対日研究の「War Plan Orange」というレポートをつくっているが、それにもひけを取らないと筆者は感じている)。

 よって、バブル退治と貿易面での対米譲歩等を理由に「失われた20年」に向かった日本の二の舞いを単純に踏むとは思えない。

 実際、中国は2000年代、

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