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米中貿易「第1段階の合意」から外された真の対立点

ひとまず歯止めがかかった“関税合戦”という報復の応酬。今後の日本の役割は?

浜田和幸 国際未来科学研究所代表 米ジョージ・ワシントン大学政治学博士

ホワイトハウスで第1段階の貿易合意に署名し握手するトランプ大統領(手前右)と中国の劉鶴副首相=2020年1月15日、ワシントン、ランハム裕子撮影

 1月15日に署名された米中貿易の「第一段階の合意」文書には、双方が勝利宣言できるようにするため、本質的な対立点(即ち、今後の火種)は意図的に外されていた。そのため、表向きは「“関税合戦”という報復の応酬」には、ひとまず歯止めがかかったようだ。

 IMFが警鐘を鳴らしていたように、「このまま米中貿易戦争が続けば、2020年後半には世界が深刻なリセッションに陥る」リスクもあったわけだが、両国がようやく合意文書に署名できたことで、米中のみならず世界経済が体制立て直しのチャンスを手にすることができたといえよう。

 しかし、安心はできない。なぜなら、アメリカが意図する「中国の先端技術の押さえ込み」と、中国が目論む「先端技術(AI、5G、サイバー)による世界制覇」をめぐる対立構造は、温存されたままであるからだ。21世紀後半に向けての指導権争いの行方を左右するわけで、この技術覇権争いこそが米中の真の対立点であり、今後も一層過熱するに違いない。

自画自賛するトランプ大統領。自由貿易をアピールする中国

 トランプ米大統領は「アメリカによる関税強化政策が成功し、かつてない譲歩を中国から引き出した。これは史上最大の契約署名だ」と自画自賛した。

 一方、中国の劉鶴副首相は習近平国家主席のメッセージを読み上げ、「中国がアメリカと合意したことで、世界レベルで貿易の自由化が保証された」と、中国の貢献ぶりをアピール。くわえて、「この合意の内容はアメリカ以外の貿易相手国にも適用される」と述べ、中国が日本などと進める世界最大の自由貿易協定RCEPへの波及効果にも含みを持たせた。

 昨年12月に中国の成都で開かれた日中韓首脳会議でも、李克強首相が「自由貿易の維持は中国の考え方で、世界の平和にとっても有益だ」と述べていた。「アメリカ・ファースト」に邁進(まいしん)するアメリカとの違いを強調しようとする中国の思惑が読み取れる。

中国に“宣戦布告”した初の大統領

 これまで、アメリカはことあるごとに、中国の不公正な貿易慣習や国営企業の優遇政策を問題視してきた。なにもトランプ大統領になってから始まったわけではない。実際、過去20年にわたり、アメリカの歴代政権は中国による「知的財産権保護の不十分さ」「国営企業優遇による競争排除」「補助金供与による低コスト生産とダンピング輸出」を繰り返し批判してきた。

 とはいえ、「もうこれ以上、中国に好き勝手させない」と大幅な関税をかけ、中国の姿勢を改めさせようと本気で“宣戦布告”に及んだのはトランプ大統領が初めてであった。

 確かに、中国は2001年にWTOに加盟し、世界との自由貿易の恩恵を十二分に享受するようになった。しかし、不都合な状況に直面すると、「中国はいまだ発展途上国である」との言い訳で、国際的なルールから逸脱するような対応も平気で繰り返してきた。

 そのため、トランプ大統領は昨年夏、

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