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新型コロナ対応をツイッターで発信。熊谷千葉市長のつぶやきの本意

詰めが甘い政府の政策に自治体で決めるしかないと判断。首長同士の意見交換も

曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)

一斉休校について発表。 「1、2年生で事情があれば学校で預かる」との対応を説明する熊谷俊人・千葉市長=2020年2月28日、千葉市中央区 、寺崎省子撮影

一人の市長のツイッターが注目を集めた

 新型コロナウイルスへの対応をめぐって安倍晋三首相が全国の小中高の一斉休校を要請した2月27日夜、一人の市長のツイッターが注目を集めた。

 その人、千葉市の熊谷俊人市長(42)は次のようにつぶやいた。

衝撃の報道。全国一斉春休みまで休校……いくらなんでも……。医療関係者など社会を支えている職種の親はどうするのか。社会が崩壊しかねません。私達のこの間の悩んだ末の検討が全て吹っ飛びました。なんとか社会を維持する方策を週末に考えます(参考

 激烈な政権批判の言葉が目をひく。当然ながら、世間で話題を集めたが、彼のツイッターを続けて読んでいくと、むしろ冷静さが際立つ。

 その夜のうちに、小学校の低学年は学校で預かるという千葉市独自の方針検討の情報を発信。3月1日には、「お国が決めたんだから批判せずに今は一億総団結、こういう精神性には懐疑的です。私は特定政党に与する気もありませんし、安倍総理が辞めるべきとかそういう次元の話ではなく、みんなで前を向きながら、それぞれの立場で問題点の指摘と提言を重ねた方が難局は乗り切れると考えます」ともつぶやいている。

 この間の千葉市の取り組みと、一連のつぶやきの本意を聞きに、政府が第2次対策を発表した3月10日、千葉市役所に熊谷市長を訪れた。

総理要請より前に千葉市独自の休校の指針を準備

ーーツイッターを改めて読むと、早い段階から市長は休校のガイドライン策定を準備して来たのですね。

インタビューにこたえる熊谷俊人・千葉市長=2020年3月10日、千葉市役所、曽我豪撮影
熊谷 2月に中学校の教員の罹患(りかん)が全国で初めて発生し、学校の休校をどうするかについて議論を始めました。くわえて自分自身、1月から台湾の新型コロナ対策をずっと見ていて、「学校で1人罹患者が出たら学級閉鎖、2人出たら休校措置」という台湾方式も頭に入れながら検討していこうと話していました。

 当該校ではより厳しい原則2週間の休校措置としましたが、保護者の一部には「一斉休校を」という声もありました。先の展望が見えないから不安になるのだと思い、休校の指針をしっかり示した方がいいと考え、教職員、児童・生徒に罹患者が出たら休校、地域で罹患が広がる恐れが出たらその地域全体で休校、全市的な恐れが出たら全市で一斉休校という方針を打ち出したのです。

 その前には鈴木直道北海道知事とも意見交換しました。知事は事前に一斉休校にすると教えてくれ、理由として道全体に感染が広がっていることにくわえ、千葉市で実施した教職員、児童・生徒の健康観察が北海道では徹底出来ていないことを挙げていました。それも参考になりました。

 ところが、まさに千葉市の休校指針を発表した直後の夕方、あるラインから「総理が今夜、全国の一斉休校を要請するらしい」という情報が入って来ました。急いで会議室に関係部署を集めて緊急会議を開き、私から「一斉休校すればすむ話ではない。医療従事者をはじめ保護者が混乱しかねない。低学年の児童は学校で預かる方策を考えてほしい」と教育委員会に検討を要請しました。正直それまで考えていた案ではありませんでした。

「詰めた政策ではない」と感じて……

休校前最後の給食を楽しむ児童たち=2020年3月2日、千葉市中央区、古賀大己撮影
熊谷 我々は2週間程度の休校を想定していたのですが、テレビで安倍首相が「春休み明けまで」と言うのを聞いて、あまりに長過ぎると全員驚きました。さらに、学童保育は続けてほしいというのが政府の方針らしいとの情報も入って、「これは詰めた政策ではない」と感じ、自分たちで判断していくしかないと考えました。密度の高い学童保育は感染リスクが高く、密度の低い学校環境下で預かる方が良いと考えたからです。そこで、小学校の1、2年生は分散する形にして学校で預かろう、▽学童保育の指導員と教員が連携して欲しい、▽特別支援学校は開けよう――という基本方針を決めて解散しました。

 基本的に休校は2週間とするなどの正式決定と発表は翌朝でしたが、その夜の段階で検討方針をツイッターで発信したのは二つの狙いからです。保護者の動揺を抑えたかったのと、全国に呼び掛けたかったからです。学童保育がすし詰め状態で全国に広がるリスクを認識しているのか、という問題提起でした。

現場の声を政府の意思決定にいかしてほしい

ーー休校に絡む休業補償については国と自治体の役割分担の大事さを指摘していますね。

熊谷 一斉休校の要請時に休業補償の具体的な話は出ませんでした。保育所を開けておけば、本格的な補償は必要ないと当初は考えていたのかもしれません。首相はその後、補償の方針を表明しましたが、あまりにざっくりし過ぎていました。

 このままだと案を出すたび、あれも足りないこれも足りないという声が各方面から出て、結局、朝三暮四で混乱しかねないと予想が出来ました。それに、政府の補償は企業から回る形なので時間がかかります。それまでのつなぎ融資は自治体の仕事であり、我々にはこれまでの災害でその経験もあります。検討を指示し、これもツイッターで発信しました。

ーー中央の政府と地方の自治体や現場をつなぐ回路が途絶している実感はありませんか。これは官邸主導の結果なのでしょうか。

熊谷 政府が省庁を含めて組織的に動いていれば、我々現場の声も吸い上げることが出来るはずです。最終の意思決定を官邸がするのは当然ですが、それはあくまで各省庁から情報と課題が十分に集まった結果でなければなりません。その吸い上げが不十分だと情報のないまま判断することになり、官邸主導の良さが生かされません。今後も新たな課題が次々と生じるでしょうが、現場の声を政府の意思決定にいかしてほしいと願います。

自治体で決めるしかない学校再開の時期

熊谷 今後の課題は、休校やイベント自粛をいつどのような形でやめて日常活動を再開するか、です。科学的根拠なり、今どの段階だから何を行うかといったステージ論なりが整理されないまま止めてしまった結果、再開する理屈が見出しにくい。政府も一律の再開方針をつくるのは難しいかもしれません。

 僕らは国に頼らず、自治体の責任で再開時期を決めていくしかないと考えています。教育委員会には、再開するにしても具体的な対策と再び休校措置をとる場合の条件を整理するよう指示しています。

新型コロナウイルスへの市の取り組みを語る熊谷俊人・千葉市長=2020年3月10日、千葉市役所、曽我豪撮影

リーダーに必要な「準備は出来ている」という言葉

ーー経過報告を含めリーダーが情報を発信するのは、人々の不安の解消に役立つと思います。安倍首相がツイッターでつぶやいたら随分違いますか。

熊谷 首相の次の全権委任者が国民に情報を力強く発信するのがいいかもしれませんね。何かあった時に、もう一人カードが残っていた方がいい。

 いつも言うのですが、リーダーに必要なのは、海外の政治家がよく発信で使うプリペアード、「準備は出来ている」という言葉です。国民の不安に対し、政府は準備に基づいて実行する。あらかじめこの事態は予測していたと感じさせないと、リーダーと政策への信頼は生まれて来ません。

 今回、保健福祉局と保健所に強くお願いしてきたのは、「専門的な考え方でいくけれど、決して専門家と同じことを対外的に発信してはいけない」ということです。大枠は専門家の言う通りだとしても、市民と専門家では意識に乖離(かいり)が生じる場合がある。そこまでやるのかと専門家が思うことでも、我々はやはりある程度、不安を持つ市民の方を向いて施策を進めないと、一番大事な信頼を失ってしまう。

首長仲間とLINEで悩みを共有

ーーツイッターの反応を見ると、国政への転進を求める声もありますが。

熊谷 私が一国会議員だったら、ここまでの仕事は出来ていないかもしれません。それなりの規模の自治体をあずかり、職員と一緒に専門家の知見を得ながら理想を求める。それが他の自治体への参考になるならば、やりがいのある仕事です。

 信頼する3、4人の首長とLINEをやっています。実は、首相の一斉休校要請の時も、私が情報提供すると、「こちらも少し前に聞いた」と反応があり、やはり確かなのだと分かりました。「それはしびれるね」という話になり、その夜に「千葉市は低学年の学校預かりでいくことにした」と報告すると、「短時間ですごいね。参考にさせてもらうよ」と反応がありました。

 逆に、教員が罹患して休校方針をどうするか検討していた時は、背中を押してくれました。皆、初めてのことばかりで悩みながら決断してゆく。悩みを共有しながら互いの決断を批評し合い、その結果の蓄積が我々の道標になると信じます。

(※ 千葉市は3月12日、2週間=3月16日まで=としていた休校期間を24日まで延長すると発表しました)

No-Mad/shutterstock.com