メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

もう官僚になりたいとは思わない?

内閣人事局を透明にし、官僚の能力と実績からのみ審査するガイドラインを策定すべきだ

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

 「先生、人生をもう一度やり直せるとすれば、どうされますか?」

 36年勤務した外務省を退官し、東京大学公共政策大学院で教鞭をとっていた2007年頃のことだ。官僚になるか、学者の道を進むか、悩んでいたある学生が最終ゼミで私に発した質問だ。

 「勿論同じ道を歩むよ。何回生まれても外交官以外の選択肢はないよ」と、私は間髪入れずに答えた。

 質問をした学生は外務省に入省し、およそ10年間勤務したが、昨年、外務省を去って行った。彼が外務省を去った理由は他にもあるのだろうが、彼にとっては官僚を続けることに明るい未来を見出だせなかったのも事実だろう。

 近年、国家公務員試験受験者は減り続け、公務員の離職者も年々増え続けている。また、大手転職サイトへの公務員の登録者は最高水準にあるという。

 私は2006年から12年間にわたり東京大学公共政策大学院で東アジアの国際関係のゼミを担当したが、この間、二十数名のゼミ生が外務省や防衛省等に入省していった。残念ながら、このうち数名は既に退職している。

cdrw/Shutterstock.com

負のイメージを払拭し働き方改革を

 このような趨勢をどう考えるべきか。少子高齢化の下、内外の情勢は厳しくなっていくし、国の将来を左右する専門家集団は引き続き人材の宝庫であり続けてほしい。そのためにはどうすれば良いのか。

 民間であれば競争原理が働き、優秀な人材を得るために企業イメージを良くし、待遇を改善し、「働き方改革」を推し進めるのだろう。だが、国家公務員の場合、競争原理は働かない。公務員の仕事が国にとって重要であり、公共政策という大きな舞台で仕事をすることの働き甲斐は大きいという精神論だけでは十分ではない。

 今日、日本において企業の給与格差は拡がり、優秀な人材は外資系を含め待遇が圧倒的に良い企業に就職を求める傾向が強くなっている。他の主要先進国と比較しても、給与を含めた総合的な待遇について日本の官僚は劣る。

 近年、国家公務員を取り巻く環境が大きく変わったことは認識しなければならない。特に「高級官僚」を見る国民の目は格段に厳しくなった。

 その背景には、過去、官僚が自分たちの所管の特殊法人へ予算を確保し「天下り」することを当然視していた事や、予算を活用して「裏金作り」を行っていたこと、更には背任罪に問われた人たちもいたことなど、数々のスキャンダルがあった。そのような負のイメージは未だ払しょくされていない。

 今日、多くの特殊法人では公募などの透明な方式で幹部が任命されている。また省が組織的に退官者を民間企業にあっせんすることもできなくなった。過去の官僚の過ちゆえに今日官僚が負のイメージを背負い続けるとすれば、それは不幸なことだ。

未だに滅私奉公の官界

 また一方で、残念なことに、昔から変わっていないのは働き方だ。

 これだけ働き方改革が叫ばれ、政党自身がその先頭に立っているのに、官僚は、例えば議員の国会質問の事前提出を延々長時間待ち、答弁書を用意し、大臣に早朝説明をすることを続けている。睡眠時間を削る日々だ。

 与党や野党への説明に際しては、頭ごなしに激しくバッシイングをうける。政治家は官僚を叩くことに何の痛痒も感じないのか。官僚幹部が人格を否定されるような扱いを受けた時、若手官僚は官僚を続けたいと思うのだろうか。

yoshi0511/Shutterstock.com

・・・ログインして読む
(残り:約2371文字/本文:約3784文字)