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新型コロナ感染は終息?「その後」に向けて動き始めた中国の実情

中国共産党建党100周年を祝いたい習近平政権。対米国で立場を逆転するという見方も

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

中国から神奈川県に届いたマスク入りの段ボール箱=2020年3月23日、横浜市中区

 イタリアやスペインなど欧州で感染者と死者が増加し、米国でも感染者数が急増、日本でも東京都が「首都封鎖」をするかどうかという局面で、中国は新型コロナウィルスの終息を前提とした次のステップに進もうとしている。

武漢市の都市封鎖は4月8日に解除か

 武漢市が都市封鎖を行ったのは、12月8日に初の感染者が出てから47日目の1月23日。そこから37日後の2月末には、各省の衛生部が、感染は終息に向かうとの発表をした。3月10日には、習近平主席が武漢を訪問し、武漢市での感染症コントロールがうまくいったことを印象付けてみせた。しかも、30日に浙江省を訪問した際には、一時的ではあるがマスクを取ってあいさつもしていた。

 そして、終息見込み宣言をした2月末から39日目となる4月8日の午後零時に、武漢市の都市封鎖を解除する予定である。

 つまり中国は、トランプ大統領の記者会見に同席している米国疾病予防管理センターのファウチ医師が説明した理想的な「初感染→ピークを小さくして(都市封鎖)→終息見込み宣言→封鎖解除」のかたちで、それぞれの期間が40~50日という均等の取れたなだらかな曲線を描いて、感染の「山」を各国に先駆けて降りるつもりなのだ。

 中国の現有感染者数の山は、武漢市の都市封鎖直後の1月26日の2630人から1カ月後の2月17日の58097人をピークに、3199人まで減少しているという。各省の病院から武漢市に応援に行っていた医療支援団が、相次いで地元に戻り始めている。

 これについては、中国内の医師やメディアからも疑問視する声が上がっているなど、中国の情報は信用できないとの声も少なくはない。だがそれでも、中国が国家として、新型コロナ対策で必死の他の国々を尻目に、「その後」に向かって動き始めたのは事実のようだ。本稿では、こうした中国の現状をどうみるべきか、論じてみたい。

「新型コロナウィルス感染予防ハンドブック」日本語版の完成

 筆者のところに、「新型コロナウィルス感染予防ハンドブック」の日本語版が届いたのは、習近平主席が武漢市を訪問した翌日の3月11日だった。

 これは、新型コロナがどういうものか、過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)やMARS(中東呼吸器症候群)とどう違うのか、予防のためにどうすればいいか、マスクのつけ方、体調の自主チェックをする際の項目など、全体で80ページに及ぶ詳しいマニュアルだ。

 中身を読むと、筆者が1月に見た原本(中国語版)をさらに詳しくしたもので、日本も新型コロナ感染を予防してパンデミックを乗り切るようにとの発想で編集されていることがわかる。

小山町の友好都市である中国・海寧から届いた2万枚マスク=2020年3月30日、静岡県小山町役場
 本稿執筆時(3月29日)現在、中国は、イタリア、イラン、ミャンマー、セネガルなどのアフリカ諸国などの友好国に医師団を派遣するだけでなく、日本や米国にもマスクを送るなど、世界が新型コロナとの戦いに勝つための支援を始めている。

 今回の感染予防ハンドブック日本語版の作成もその一貫で、中国が世界を襲う新型コロナ・パンデミック対策でリーダーシップを発揮しようという気負いが感じられる。もちろん、「自分で種を蒔いておいて……」との批判もあるが、中国がそれを承知でやっているのは間違いない。

早い段階から万が一に対応?

 トランプ米大統領は毎日の記者会見で、新型コロナウィルスのパンデミックを「中国ウィルス」、「中国からの攻撃」と呼び、「対中戦争」を意味するような言葉まで使うほどに怒っている。背景には、

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