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外出自粛「要請」はどこまで効果的か

花田吉隆 元防衛大学校教授

外出自粛を呼びかけ夜の繁華街を巡回する県職員ら=2020年4月24日、佐賀市大財1丁目

 日本の外出自粛、休業の要請はどれだけ効果があるのか。

 日本はあくまで要請ベースだ。罰則を伴った強制措置ではない。専門家は、人の接触を8割減らせという。政府や地方自治体は、毎日のように外出するな、人との接触を控えよと「要請」する。それでも、なかなか人出が減らない。朝の通勤時間帯はそれなりの人混みだ。

 要請されても休むわけにいかない事情がある。スーパーや交通機関で働く人々、医療従事者たちは自宅にこもってはいられない。我々が自宅にこもっていられるのは、これらの人々が危険と隣り合わせで働いてくれているからだ。

 いったい、どれだけの仕事が、在宅勤務というわけにいかないのか、どれだけの人が小売りや交通機関、医療従事者として働いているのか、その割合が大きければ大きいほど、自粛要請効果は限定的でしかない。

 欧米は強制措置による都市封鎖で、有無を言わさず、人に外出させず仕事に行かせない。仕事をしないから経済は大幅ダウンだ。それでも、期限を区切って我慢しないとこの危機は収まらない。そうやって耐えている。経済は、危機が収束してからやり直すしかない。もっともな考え方だ。仕事はテレワークを通じできるものだけに絞る。では、その結果、経済はどれほど落ち込むのか。

 4月16日付エコノミスト誌(21日付日経、和訳掲載)は、各国の「都市封鎖による影響」がどれほどになるかを特集する。期せずして20日付日経は、緊急事態宣言によりどれだけ人出が減ったか報じる。双方併せ読むと、外出自粛要請の限界が浮かび上がってくる。

都市封鎖の影響を3つの基準で分析

 エコノミスト誌は、都市封鎖の影響を3つの基準で分析する。「在宅勤務でできない仕事の割合」「小売り、輸送、サービス業のGDPに占める割合」「景気刺激策の対GDP比」だ。

 前二者は、外出自粛を求められても仕事場に行かなければならない人がどれだけいるか、三点目は、政府支援で自粛要請をどれだけ受け入れてもらえるか、を調べる。

 世界33カ国を数値化し、都市封鎖で最も影響を受けやすい(したがって、経済が最もダウンしやすい)1位のギリシャから、封鎖しても比較的影響が少ない33位の米国まで順位づけた。

 影響を受けやすいほうにギリシャ、スペイン(3位)、イタリア(5位)、フランス(15位)等、南欧諸国が並び、中位に日本(23位)やスウェーデン(28位)、ドイツ(29位)等、中北欧諸国が、最も影響が少ないところに英国(31位)、米国のアングロサクソンが並ぶ。

「人を介しての仕事」が多い南欧や日本

 より詳細にみれば、「在宅勤務でできない仕事の割合」で、日本(67%)は、上位のギリシャ(68%)やスペイン(同)と並び、英国(56%)米国(58%)を大きく上回る。

 「小売り、輸送、サービス業の割合」でも日本(22%)はギリシャ(23%)、スペイン(24%)と肩を並べ、英国(17%)米国(16%)を引き離す。

 つまり、南欧や日本は、「人を介しての仕事」が多い。

 南欧は非金融機関の雇用者の1/8が観光業だ。建設業も人が多く介在するといえる。これらの業種が多いと「人を介しての仕事が多い」経済構造ということだ。

 テレワークは企業規模と関係する。大企業ほどテレワークが進みやすく、逆に中小はテレワーク導入が進まない。日本の報道では、従業員2万人以上のテレワーク実施率が6割、1~10人規模では1割となっている。

 日本では、テレワークと地域との関連も指摘される。東京のテレワーク実施率は49%だが、これを全国平均にならすと27%まで落ちるという。

 つまり、大企業や大都市はともかく、中小や地方は、テレワークといってもなかなか進まない。「人を介しての仕事」が中心だからだ。

 企業慣行も関係する。この関連で指摘されるのが「ハンコや対面」だ。わざわざ印鑑を押すだけのために出勤が求められるとすれば改善の余地がある。対面でなくとも行政手続きはできるのではないか。政府もようやく見直しに乗り出した。

 さらには、完成品メーカーが働いていれば部品メーカーが生産を止めることはできない、との事情も指摘される。

 日本には、こういった「人を介しての仕事」が多い。つまり、日本には、自粛を要請してもなかなか浸透しない構造的要因がある。

 それにもかかわらず、エコノミスト誌が日本を中位にランク付けられるのは、三点目の「景気刺激策のGDP比」で、他を圧倒して比率が高いからだ。日本(10%)米国(6.9%)英国(3.1%)であるのに対し、上位のギリシャ(1.0%)やスペイン(1.2%)はごく低い数値に留まっている。

休日と平日の人出に大きな差、一番の問題は仕事場

 これに対し、4月20日付日経は、緊急事態宣言の全国拡大後初の週末、週明けに、実際どれだけ人出が減ったか、を調べた。

 結果は、「週末,ほぼ8割減を達成、これに対し、週明け(平日,4月20日)は4~5割減にとどまった」。

 (東京駅(週末:-87%、平日:-57%)名古屋駅(-83%、-42%)博多駅(-81%、-45%))。ただし、地方都市や下請け工場が集まる所では、削減幅はずっと下がる。

 休日、平日の人出に大きな開きがあることは、在宅勤務が言うほど簡単でないことを表す。専門家会議も22日、緊急事態宣言後の2週間を総括し「テレワークや時差通勤は必ずしも進捗していない」とする。一言で言えば、在宅勤務さえクリアすれば見通しは明るくなるかのようでもある。一番の問題は仕事場だ。

 二つの記事は、「日本では、仕事場が変わらない限り政府がいう8割削減は難しい」ことを示唆する。それは、人の意識の問題もあるが、より根本的には構造的問題だ。経済の構造に手を入れない限り実現は難しい。そうだとすれば、日本もやはり強制措置の是非を真剣に検討すべき時期に来ているのだろうか。そしてもう一つ、それは何より休業補償の問題だ。補償があれば自粛要請はもっと浸透する。ただし財源がなければ補償は望めない。

 では、自粛要請しても所詮限界があるのか。しかし、我々は諦めるわけにはいかない。できる限りの努力をする。

 営業は対面が不可欠とされるが、そういうところでも「ネット接客」ができないか、試行の動きがある。不動産業界やアパレルで、ネットをつかい物件説明や商品選択をするという。

住宅地には改善の余地

 専門家会議は、22日、接触削減10ポイントをまとめた。在宅勤務、遠隔診療等に加え、オンライン帰省、オンライン飲み会、オンライン筋トレ等、オンライン活用を強く推奨する。オンライン飲み会や筋トレは既に馴染みだが、オンライン帰省は初めて聞いた。要するに国に帰るな、画面のやり取りで我慢しろ、という。総理も「この行動指針には様々な工夫が詰まっている。いま一度行動を見直していただきたい」と述べた。

 ところで、20日付日経は、東京駅、名古屋駅等に関し述べているが、「同じ東京でも渋谷、丸の内、新宿等の都心は人出が減っても、住宅街は逆に人出が増えているではないか」との点を考慮していない。つまり、住宅地でまだ改善の余地がある。都知事は、買い物を3日に一度に、と呼び掛けた。

 日本経済には仕事場に行かなければならない構造的要因がある。それをそのままにして、いくら自粛を言っても限界がある。それはそうだが、我々は、まだまだしなければならないことがある。ここは自粛に不満をいってはなるまい。我々が直面しているウイルスは手ごわい。一人一人の命がかかっているとすれば、ここは専門家の言うことに素直に従うしかあるまい。