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黒川検事長は「検事総長は断固固辞」の意思表明を!

もし黒川氏が検事総長に任命されたら、大騒動になるのは間違いない

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

検察庁法改正案と黒川検事長の今後の人事

 現在、新型コロナの感染が日本国民の生命と財産を危うくしているさなかに、国会においては、さほど緊急の案件とは思えない検察庁法改正案が国家公務員一般の定年延長問題の中に組み込まれて審議されている。

 さらに与党は内閣委員会における審議において、肝心の法務大臣の出席を拒否しており、改正法案担当の武田国家公務員制度担当相は、機微な質問に対して、「それは法務省に聞いてほしい」と答弁する有様である。

 この法律改正は成立したとしてもその施行は2022年なので、その時には既に65歳になっている黒川検事長の今後の人事とは直接には関係がない。

 しかし、今年の1月に、法律解釈の無理な変更に基づく閣議決定によって、黒川検事長の定年が半年間延長され、7月に在任2年となる稲田検事総長の後任に任命されることが可能となったこととの法的整合性を事後的に持たせる意図があることは疑いがない。

拡大会見で抱負を述べる黒川弘務・東京高検検事長=2019年1月21日、東京・霞が関の検察庁

法案の最大問題点は特例定年延長の基準が示されていないこと

 今回の改正法案の一つの目的は、一般の検察官の定年を63歳から65歳に引き上げることであるが、これ自体は、基本的に他の公務員の場合と同じであり、これに対しては特に反対はない。

 最大の問題点は、政治家との接触の機会も多く、特に厳正中立、公平無私が必要とされる幹部検事(検事総長、次長検事、検事長)について、「職務の遂行上の特別の事情を勘案して、公務の運営上著しい支障が生じると内閣が認めるときは、その役職定年について3年までの延長を認める」(改正法22条6項)との規定である。

 この規定は公務員法上の特例定年延長に関する規定、即ち、宮内庁の雅楽奏者の様に名人的技能を有する者が、後継者が直ちに得られない場合にならって作成されたものであるが、幹部検事の場合はそれとは全く事情が異なる。

 日本の検察制度において従来から重視されてきたのは「検察官同一体の原則」即ち、検査官の誰もが同じ職務を遂行し、同じ結果を出す、従って代わりの利かない存在ではないことである。検察官によって起訴等の結果が異なってはいけないのであり、特例延長にはなじまないのである。

 野党は国会審議において、この特例延長の基準を示すよう要求し、その部分の削除を求めているが、政府は、その基準は現在は決まってなく、改正法の発効までにそれを示すと答弁するだけである。

世論の根強い反発

 野党の主張がいつも正しいわけではないが、今回の場合は、特例定年延長の基準を示してから採決に進むのが民主主義の手順ではなかろうか。そうでなければ、この規定は、政権の裁量で誰を定年延長させるかが決められることになると解釈されてしまう。

 この様にあいまいな条文の追加は、必ず将来に禍根を残すことになる。この点に注目する国民の眼は厳しい。

 ツイッターでは文化人、芸能人を中心に既に数百万人以上に及ぶ反対が表明されている。日本弁護士連合会は既にこの法律改正に反対の意見を表明しており、また、松尾元検事総長をはじめとする、多数の有力検事OBが、同様な反対意見を法務省に提出すると報道されている。

 このように専門家の間でも、また一般国民の間でも極めて評判の悪い改正案に何故政府は固執し、それを、今日の様に国内を挙げてコロナ感染という国難に対処しなくてはならない時に国会に提出するのであろうか。

39県の非常事態宣言の解除を発表した記者会見で、安倍晋三首相は「コロナの時代の新たな日常を取り戻す」と語った。左は政府の専門家会議の尾身茂副座長=2020年5月14日、首相官邸
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