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役に立たないマイナンバーと手際よい香港IDの差は何か

「情報の一元管理」を否定した香港で正確迅速な給付が可能だった理由

富柏村 ブロガー

 香港で6月21日、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の一環として成人(18歳以上)市民対象に、日本の特別定額給付金(以下、給付金)にあたる1万香港ドル(約138,000円)の申請が始まった。日本の給付金では申請手続きでシステムや行政対応の煩雑さ、ネット申請の不便さなど多くの問題が生じた。ここでは、香港でこの給付申請がどれだけ手際よく行われているか、を紹介したい。

香港の給付金サイト

オンラインで10秒で申請完了

 香港では、これまでも政府財政黒字の還元や景気刺激政策で市民に対して一定額還付が何度か行われてきた。所得税還付は次年度の納税額との相殺や納税者への小切手送付などの方法がとられ、一定額の市民への給付では政府機関や郵便局で受け取った申請書を記入して提出という方法がとられてきた。今回の給付金では、そうした経験とノウハウを活かし、オンライン申請をメインに、さらに手際よいスムーズな申請と支給が可能になった。

 武漢で新型コロナウイルス感染が深刻になり、中国政府も習近平国家主席が感染対策を国家規模で取り組むことを表明したのが今年1月20日。同月25日からが春節(旧正月)で、香港政府は28日までの四連休明けも、感染防止のため政府系機関や公共施設・学校等の閉鎖を即刻決定した(政府系機関の再開は5月4日)。香港政府は2月末に、新年度(4月~)の予算策定で、この給付金を予算計上した。

 多くの公務員が自宅待機で政府が休眠状況のなか、具体的な給付は感染が鎮まり行政が正常化してからの対応となるため「支給は7月を見込む」としたことで「遅い」という市民の不満の声もあったが、いざ実行に移されると迅速なもの。今回この給付が、どのようなシステムか具体的に見てみよう。

 香港政府の特別定額給付専用サイトを見ると概要や対象者規定、給付スケジュールやQ&Aなど項目が並んでいるが「善は急げ」で “Registration & Payment” を開けてみる。そこで電子申請と申請書の選択があるが、日本の特定給付金では評判の悪かった電子申請へ。いろいろ書いてあるが、そこから “Click here to register electronically through banks”を選ぶ。

 出てくる画面は銀行一覧。そこで自分の口座がある銀行をクリックする。すると、その銀行のオンラインバンキングのトップページに飛ぶ。つまり、この給付の要領を得ていれば、あるいは給付の申請は知らずとも、自分の銀行のオンラインバンキングで申請ができるのだ。

銀行リストから自分の銀行を選ぶ香港の給付金サイトの画面

 そこでログインしてみると、すぐ冒頭に、この給付金の案内の図案があり、そこをクリック。そこからが具体的な申請登録なのだが、実際には、申請をする前提で、画面では連絡先の電話番号が問われているだけで、それも「銀行に登録済みの電話番号」を ✔(チェック)するか、他の電話番号を入力するだけ。これで送信すると、画面にはすぐに申請のリファレンス番号が出て……これでおしまい。ログインしてから10秒足らずで済んでしまった(誇張ではない)。

 オンラインでなければ紙ベースの申請となるが、これも銀行が対応。その銀行にある口座を指定するだけなので、日本の給付金申請のような預金通帳かATMカードのコピー添付など必要もない。なぜ、ここまで簡便なのか。

政府内でも情報共有はされない香港ID

 まずいえることは〈香港IDの番号制度〉がある。香港市民は香港IDの登記とIDカード携帯が義務付けられている。中国などからの不法移民が多く、犯罪や就労、納税や不法蓄財防止など制度化するうえで、このID制度徹底が必要だった。香港政府の入境事務處(Immigration Department)が、この番号とIDカードを発給する。

 日本では、こうした個人コード導入が「国民総背番号制」につながるとして

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