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イージス・アショア中止は“予算削減屋”河野防衛相の本領発揮

河野氏が強調する「ブースターの落下問題」は本当の理由ではない?

高橋 浩祐 国際ジャーナリスト

 河野太郎防衛相が、秋田、山口両県で進めてきた陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」に引導を渡した。自民党の国防族の議員たちを驚かせる急転直下の計画中止の発表だった。

衆院安全保障委で、「イージス・アショア」配備プロセス停止に関する質問に答弁する河野太郎防衛相=2020年6月16日

理由は「ブースターの落下問題」

 大臣はその理由として、一貫して迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」の発射後に切り離される推進補助装置の「ブースターの落下問題」を述べてきた。

 防衛省は配備予定地の一つ、陸上自衛隊むつみ演習場がある山口県など地元自治体や地域住民に「演習場内にブースターを確実に落下させる」と説明し、安全性を強調してきた。しかし、その後、迎撃ミサイル本体の大幅な改修なしに実現できないことが分かり、配備を断念せざるを得なくなったというのだ。

 河野防衛相は6月25日に日本外国特派員協会(FCCJ)で開かれた記者会見でも、筆者の質問に対し、「イージス・アショアの中止を決めた唯一の理由は、ブースターの落下をコントロールできないからだ。それは地域住民と約束してきた」と言い切った。

 さらに、翌26日に出演したBS日テレの番組「深層NEWS」で「ブースターの落下の危険性がなければ、予定通り、配備は進められていたのか」と問われると、「はい、もちろんです」とも答えた。

 しかし、本当にブースターが同演習場内に落下できないという理由だけで、イージス・アショア配備計画の中止を決めたのか。本当の理由は他にはないのか。

イージス・アショアの配備候補地となっていた陸上自衛隊むつみ演習場=2019年7月12日、山口県萩市、朝日新聞社ヘリから

内外の軍事専門家が疑いの目

 そもそも、いざ北朝鮮から核ミサイル攻撃があったら、落下物を気にするより、まず迎撃すること自体が何より大事なはずだ。確実に迎撃しないと、それこそ東京や大阪といった日本の大都市で「第二の広島」や「第二の長崎」が生じてしまい、何百万人が死ぬ事態が発生するかもしれない。それは日本という国の国家存亡の危機になるかもしれない。

 北朝鮮はすでに原子爆弾よりはるかに強力な水素爆弾を保有しているとみられている。

 小野寺五典・元防衛相も6月22日付の毎日新聞への寄稿の中で、「飛んでくるミサイルを打ち落とす際、ブースターや破片などがどこに落下するかは通常、考慮されない。ミサイルや爆撃機が落とす爆弾と、打ち落とした後の破片などとどちらが怖いのかといえば、当然、前者だろう」と指摘している。

 また、いざ情勢緊迫の有事の際は、ブースター落下の危険性のある地域住民に対し、避難用シェルターを準備し、事前に避難してもらうというオーソドックスな代替策は考えなかったのか。

 筆者が東京特派員を務める英軍事週刊誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』のロンドン在住のベテラン編集長やデスクは河野防衛相の説明を聞き、「ブースターの落下問題が中止の理由とは信じられない」と一様に声を上げた。他に、元米海兵隊出身の知人も「イージス・アショア中止の決断の理由は他にあるはず」と今も疑っている。

イージス・アショアの配備候補地となっていた秋田市の陸上自衛隊新屋演習場付近=2020年5月15日、朝日新聞社機から

PAC3との整合性は?

 仮に迎撃ミサイルからの落下物を心配するならば、首都圏や沖縄など全国17の部隊に計34基が配備されている地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)は大丈夫なのか。PAC3は東京のど真ん中の市ヶ谷にある防衛省内のグランドにも今も配備されている。

 PAC3は一つの目標に対し、2発を発射する。PAC3は射程が数十キロで、迎撃に成功した場合、相手のミサイルと自らのPAC3の破片が落下する。そして、外した方のもう1発のPAC3も必ず地上に落ちる。イージス・アショアのブースターの落下を心配するなら、PAC3の破片などの落下は心配しなくていいのか。

 筆者はこの点について、前述の日本外国特派員協会の記者会見で、河野防衛相に直接ただした。

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