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人間くさい最高裁判決を生んだ「泉佐野市vs国」ふるさと納税紛争

「振る舞い問題だが、後出しジャンケンはもっと卑怯」/制度の根本解決は遠く

市川速水 朝日新聞編集委員

不可思議だった大阪高裁判決

 大阪市泉佐野市がふるさと納税で高額の返礼品を続けたため、国が納税制度自体から外した問題で、泉佐野市が2020年6月30日、国に勝訴した。

 泉佐野市が除外決定の取り消しを求めた訴訟の上告審で、最高裁第三小法廷が、市側が敗訴した大阪高裁判決を破棄した。今後、泉佐野市は納税対象自治体に復帰することになる。

 大きなニュースとなったが、筆者にはむしろ、泉佐野市が負けた高裁判決の方が不可思議で、これで最高裁も負ければ日本の法治システムはおしまいだと思っていた。

 逆転判決の理由は単純なものだった。「後出しジャンケン」という言葉が定着するほど、総務省の法を無視した「泉佐野市いじめ」が露骨だったからだ。

最高裁第三小法廷で開廷を待つ宮崎裕子裁判長=2020年6月30日、東京都千代田区

 激しい返礼品競争のなか、2019年の法改正で国はふるさと納税に「国が対象自治体を指定する制度」を導入。返礼品を「寄付額の3割以下の地場産品」として、泉佐野が堂々とやっていた「3割以上の域外産品」を牽制。さらに告示で「2018年11月から半年間に趣旨をゆがめるような募集をしてこなかったかどうかも考慮する」と過去にさかのぼって審査対象にすると宣言した。この「告示」の妥当性が問われた。

 この、過去の姿勢を問われて未来の資格を失った理不尽な経緯を見れば、国の行為は「刃向かうヤツは懲らしめる」という感情論にしか映らない。例えは極端だが、偶然同じ6月30日に始まった「あおり運転厳罰化」や「香港国家安全法」で、過去不問だった行為を新たな法律で罰するようなものだ。

 大阪高裁判決は、「告示」の妥当性解釈以前に国の裁量権を全面的に認め、「制度の悪循環や弊害に照らせば、(国が新制度によって)付与された裁量権の行使に逸脱・乱用はない」と「懲らしめる側」の論理に立ったが、さすがに最高裁は双方の言い分を吟味した。

ごく普通の論理で「国の告示は違法」

 最高裁判決の要旨(共同通信配信記事を参照した)を読むと、「ごく普通の論理構成」であることがわかる。

 法改正前は返礼品提供について定める法令上の規制は存在しなかった。総務相からの(過度な返礼品を自粛するようにという)通知は技術的な助言にとどまっていた。だから「告示」は助言に従わなかったことを理由とする不利益な扱いを定める側面があることは否定しがたい。改正法施行前の募集実績で指定を受ける適格性を欠くことを予定していると解するのは困難だ。改正法案が、過去に制度をゆがめるような返礼品の提供をした自治体を対象外とするものとして提出されたとはうかがえず、総務相の国会答弁でも明示的に説明されたとはいえない。よって告示は違法で無効。泉佐野市の返礼品提供の態様は社会通念上、節度を欠いていたと評価されてもやむを得ないが、告示を理由とした不指定は違法だ――。

 この判決内容は、5人の裁判長・裁判官全員一致の意見だった。

 判決後、泉佐野市側は「主張が全面的に認められた」と喜んだが、あくまでも国の「やり過ぎ」が逆転判決を招いたわけで、市の行いは「節度を欠いた」と批判されている。

「居心地の悪さ」「眉をひそめる」

 興味深かったのは、判決の補足意見として、林景一裁判官がこんなふうに述べていることだ。

 法廷意見に同調するが、結論にはいささか居心地の悪さを覚える。泉佐野市が改正法成立後も返礼割合を高めて募集を加速したことには眉をひそめざるを得ない。通常期待される水準を大きく上回る税収を得て、ある意味で、制度の目的を過剰に達成してしまっている。

林景一裁判官
 林裁判官は外交官出身で、駐英大使のほか、条約局が長く国際法に通じているとの評判が高い。
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