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大都市は落日するのか? コロナ後のニューヨークから問う5つの課題

コロナ19以降の大都市はどうあるべきか~「ネクスト・ノーマル」時代

パク・ヨン  東亜日報ニューヨーク特派員

 『東亜日報特派員のコラムから』は、韓国の大手紙・東亜日報の海外特派員が韓国の読者に向けて執筆したコラムを日本語に翻訳して紹介する連載です。私たちの隣国では世界各地のニュースはどのように報じられているのか、韓国メディアの特派員はどのような記者たちなのか。日本メディアが報じる海外ニュースと比較して読むのも面白いかもしれません。
 第三回はニューヨーク特派員のパク・ヨン記者。コロナ禍で揺れ動くニューヨークから、コロナ後の大都市のあり方を問います。(論座編集部)

東亜日報ニューヨーク特派員のパク・ヨン記者
 歴代のアメリカ大統領たちの御用達、202年の歴史を誇る米国スーツブランド「ブルックスブラザーズ」は、ニューヨーク・クイーンズのハンドメイドのネクタイ工場をこの8月に閉鎖することにした。マンハッタンの本店から約6km離れたロングアイランドシティの工場で一針一針ネクタイを作っていた136人の従業員は、突然仕事を失ったわけだ。

 そのうち半分以上が50歳以上の熟練職人である。新型コロナウイルス感染症(コロナ19)事態が都市経済の根幹であるサービス業を麻痺させ、かろうじて残っていた製造業までを脅かす雇用崩壊が始まったのだ。

 ニューヨークなど世界の大都市は、保護貿易主義の勢力拡大争いとコロナ19事態、人種差別反対デモなどが入り混じった「カクテル危機」に直面した。「国家代表級」の世界の大都市が国境を越えて資本と人材の誘致合戦を繰り広げる「新・中世時代」が幕を下ろし、国家間の移動と交流の通路が狭まる「障壁の時代」に入ったという診断もでている。

 狭いスペースに様々な人が集まって生きていく大都市のライフスタイルは、今や創造性を放つ競争力の源ではなく、公衆衛生の危機を呼ぶプライマー(雷管)となった。世界の大都市がコロナ19以降の「ネクスト・ノーマル」の時代で生き残るためには、この危機によって見えてきた5つの核心的課題に応えなければならない。

blurAZ/Shutterstock.com

 まず、都市経済の根幹である自営業を守ることである。

 アメリカのコンサルティング会社マッキンゼーによると、フィラデルフィアでは50日間、地域の店で5ドルを消費しようという「ファイブ4フィフティー(Five4Fifty)」キャンペーンを開始した。カリフォルニア州とシカゴ市は、連邦政府支援から排除された零細企業のための小額融資プログラムを用意した。メリーランド、ニューハンプシャー、テキサス州は、レストランのアルコール類のデリバリー規制を解いた。マレーシアは、国内旅行を活性化させるための「デジタル・バウチャー」を配布。これらはすべて、自営業者を再起させんがためのものである。

 第二に、コロナ19で最も大きな打撃を受けた低所得者層の雇用を維持しなければならない。

 ニュージャージー州はコロナ19による失業者達とコロナ19で需要が増えた食料品店など必須業種との短期雇用を繋げるコロナ時代カスタマイズ「求人サイト」を開設した。在宅勤務や非対面式商取引といったやり方は、デジタル化しづらい零細企業や低賃金労働者にとっては危機となる。オーストラリアは、技術の再教育プログラムである「マイ・スキル」をコロナ19時代に合わせて調整している。

 第三に、安全な都市を再建する必要がある。

 今後、公衆衛生危機の状況に合わせて医療スタッフ、医薬品、保護装備を迅速に配分できる機敏な行政力と非対面遠隔医療サービスなどの技術革新が必要である。カメラとセンサー、人工知能(AI)技術を利用したスマート・シティ構想の競争も熾烈さを増すだろう。中国では500以上のスマート・シティが建設されているとロイター通信は伝えている。

 第四に、新しい成長動力を確保することである。

 2001年9.11以降、ニューヨークに観光客が戻って来るまでに5年の月日がかかった。ニューヨーク市は、2008年の世界金融危機で主力産業である金融業の危機を経験した。以後コーネル大学工学部などを後押しし、スタートアップと人材の育成を行い、シリコンバレー化よろしく追撃に出た。このことにより、ニューヨーク市は技術分野の雇用だけで30万件が誕生した。

 最後に、地域化と債務危機を管理することである。

 米中貿易戦争とコロナ19事態は、生産と消費が近い所で起こる「地域化現象」を進めた。これにより、都市の企業誘致競争が激しくなるだろう。景気低迷と住民離れで都市の財政が悪化する可能性は大きい。危機が落ち着き金融政策が正常化されると、借金の多い家計、企業、都市はその対価をやむなしに支払うことになる。

 韓国はコロナ19危機を成功裏に克服した国に挙げられている。「K防疫」の成果に安住せず、この危機を都市と国家の競争力を固める機会とする政策的想像力を発揮する時ととらえるべきだ。(2020年6月27日 翻訳・藏重優姫)


《訳者の解説》

 東亜日報ニューヨーク特派員はコロナ後の社会を模索する米国の姿を紹介したうえ、国際社会でコロナ対策に成功したと高く評価されている自国に向かって「K防疫の成果に安住せず……」と警鐘を鳴らしている。

 確かにソウル近郊で暮らす私も「コロナを克服した」というこの国の人々の自負心を感じることは少なくない。

 日本通の韓国人は「日本の防疫はなぜあんなに大げさなのか」という質問を投げかけてくる。テレビでのリモートゲストやフェイスシールド、そして観劇やコンサートなどが未だ行われていない日本の状況を指しているのである。

 もちろん、こう指摘してくる背景には、韓国はそうでないという前提がある訳で。つまり、韓国では有名ミュージカルなどは再開しており(行った人の情報では、マスク着用、席の間隔は空けないらしい)、コロナ禍でもテレビではマスクやリモート参加、フェイスシールドなども見かけなかったからだ。

 またその韓国人はこのようにも言った。ある世界的に行った調査では、「コロナ感染は個人の責任だと思うか?」の質問に、Yesと答えた人は、ほとんどの国で10%台、それに対し日本は40%台だったというのだ。つまり、個人責任追及に伴う「個人攻撃」(特定の団体攻撃)を避けるためのリモートゲストやフェイスシールド、公演自粛ではないのか、と分析しているのである。

 コロナ禍が勢いを増そうとしている時期、日本のある報道番組が釣りをしている男性の後ろ姿だけを遠めから映し「釣りをしている男性がいます!」と言っていたのに、私は衝撃を受けた。

 その報道の意図、そしてその意図の背景には何が潜んでいるのか。その男性の周りには誰もおらず、彼の素性や状況は全く分からない。この間、外出禁止令みたいなお達しが出されたのはどの国でも共通していることだろう。にしてもだ。遠巻きから、後ろ指さして、何も知らない人を突然罪人のように作り出す雰囲気。逸脱している人を公衆の面前で血祭りにするようだ。

 このような報道番組を私は何回も見かけ、日本のそんな雰囲気にそら恐ろしく感じたものだ。

 もし韓国で、釣りをしている人が目についたとしたら、管轄局に届け出て、被害があった場合(釣り人が感染していた場合)は、釣り人が賠償金請求される。韓国では、隔離逸脱した人に高額な賠償金が請求されるという報道はよく見かけた。「人を、外に出さないようにする」装置としての報道番組、その役割とそしてやり方の違いも見えてくる。

 やはり、人間や集団の行動パターンというのは「恐怖」を前にすると明確に現れる。国家による「恐怖」への対策の差も歴然と見えた。

 韓国での私のご近所話ではあるが、コロナ対策で異色を放つスウェーデンや各国の対応を比較する話題も多かった。実例と数字を根拠に感染症にどう対応するかという行動様式が韓国社会にしっかり根付き、人々が問題意識を共有して相互信頼を築いていることへの自信の表われであろう。

 真実が見えないなかでは、実態の無い雰囲気にただただ怯えることになってしまう。

 コロナ後の世界。青空のように透き通った国と雲に覆われ視野を奪われた国とに分かれはしないかと心配である。

藏重優姫(くらしげ・うひ) 韓国舞踊講師、日本語講師。日本人の父と在日コリアン2世の間に生まれる。大阪教育大在学中、韓国舞踊に没頭し韓国留学を決意。政府招請奨学生としてソウル大で教育人類学を専攻し舞台活動を行う。現在はソウル近郊で多文化家庭の子どもらに韓国舞踊を教えている。「論座」で『日韓境界人のつぶやき』連載中。