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パンデミックで流行するeスポーツに「電通・経産省」の影

貴重な税金をカネ儲けのために使ってはならない

塩原俊彦 高知大学准教授

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)のなかで、家庭でできるゲームやeスポーツが世界的規模で流行しているらしい。ここでは、とくにeスポーツと呼ばれるものについて論じるなかで、税金の正しい使い方について考えてみたい。

eスポーツとは何か

 まず、eスポーツについて説明しなければならない。

 エレクトリック・スポーツの略であるeスポーツはPC、家庭用ゲーム機、スマートフォンなどを使って対戦する競技で、主に青少年に人気を博している。こう書いても、実は、筆者自身、eスポーツをやったことはない。それでも、なぜ関心があるかというと、ビジネスの世界では、この分野の成長をねらってあの手この手で利益を得ようとする動きがあるからである。

 なかには、国民の税金を投入して国家ぐるみでeスポーツの成長戦略をたてて、「国民総白痴化」に向けて突っ走っている国もある。中国や韓国がその例だが、いま日本もこのなかに加わろうとしている。

OHishiapply / Shutterstock.com

報告書「日本のeスポーツの発展に向けて」

 経済産業者は一般社団法人・日本eスポーツ連合(JeSU)に委託して「eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会」を設置、同検討会は2020年3月、「日本のeスポーツの発展に向けて~更なる市場成長、社会的意義の観点から~」という報告書を公表した。

 そのなかで、eスポーツの直接市場が2018年の44億円(推定値)から2025年に600億から700億円になると予想している。競技大会の実施などの波及効果を含めた市場規模は2018年の338億円から2025年の2850億~3250億円にのぼるとみている。そのうえで、経産省は官民が協力して法制度などの環境整備をはかるのだという。

 簡単に言えば、依存症になったり、賭博の対象になったりしかねないeスポーツに税金を投じて保護・育成してゆくということになる。そんなことが許されるのだろうか。むしろ、eスポーツに代わる健全なスポーツ振興にこそ税金を投入すべきではないのか。

海外の状況

 日本のとんでもない状況を明らかにする前に、海外の状況について説明しよう。Statiscaのサイトによると、2019年の世界全体のeスポーツの市場規模は9575億ドルで、2023年には1.6兆ドルにまで拡大するという。eスポーツの世界のリーダーでありつづけているのは韓国だ。それに中国が迫っているとThe Economist(2020年6月27日号)の記事は指摘している。

 紹介した前記の報告書と同時に明らかにされた「海外調査報告」によると、韓国政府は2004年にeスポーツ発展中長期ビジョンを発表し、市場支援に着手、サムスン、SKテレコム、KT(通信企業)などの大手企業が大口スポンサーになるなどしてプロチームを育成・支援した結果、eスポーツが発展した。政府は文化観光部によるeスポーツの認可、推進機関(KeSPA)を設立し、国際的なeスポーツイベント・ショーの推進・支援を行っている。

 中国の場合、メッセージのやり取りをするメッセンジャー機能をもつウィチャット(WeChat)を運営するテンセントが2013年にLeague of Legends Pro League(LPL)を初開催して以降、電子商取引の雄、アリババグループも参入するなどして急成長している。中国政府は国家体育総局によるeスポーツの認可制を導入し、政府規制による国内資本企業の保護、eスポーツ関連法案整備や特区構想の推進などを行っている。たとえば、「杭州eスポーツデジタルエンターテインメント特区」が2018年11月に設置され、2022年のアジア競技大会を見据えて収容可能人数2万人の大型スタジアム(e-Sports ARENA)を建設中だ。

米国のビジネス優先に巻き込まれる大学

 米国では、eスポーツがビジネスとして注目されてきた。2009年の大ヒット、「リーグ・オブ・レジェンド」(League of Legend, 略称LoL)や2013年の「ドータ・ツー」(Dota 2)の成功で多人数対戦型ゲームが広がり、これがeスポーツの裾野を広げた。なお、LoLを開発したライオットゲームズ(Riot Games)はいまやテンセントが所有している。2019年のLoL世界選手権の決勝戦は4400万人がライブ視聴していたというからすごい。

 Dota 2の公式世界大会の賞金額が大きく、それがまたeスポーツへの注目を集めた。複数の大学でeスポーツ奨励プログラムが実施されるようになっており、大学もeスポーツビジネスに巻き込まれ

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