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「オリーブの木」政権が野党の現実的な選択か

新しい政権への渇望は高いのに盛り上がらない立憲、国民の合流・新党。どうすれば……

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 立憲民主党と国民民主党の合流・新党結成は、「9月上旬から中旬」(福山哲朗・立憲幹事長)を目指して進められている。8月24日には、立憲、国民の幹事長、衆議院の無所属議員2グループ(「無所属フォーラム」「社会保障を立て直す国民会議」)の代表が会って合流に関する署名式を開き、新党の綱領、規約、代表選規定を決めた。

期待感が小さい立憲・国民の合流・新党結成

 だが、直近の世論調査(毎日8月23日付朝刊)によると、この新党に「期待は持てない」が68%、「期待が持てる」は17%と、盛り上がりに乏しい。

 安倍晋三政権の不支持率は59%だから、世論は新しい政権の出現を渇望しているはずだ。それなのに、新党への期待感が小さいのは、世論が現在の野党再編の道筋に反発し、根本的な出直しを命じているからであろう。

 この調査では、新党の主軸を任じている立憲の支持率は一ケタの9%。「次の首相にふさわしいと思う人」という質問に、立憲の枝野幸男代表を挙げた人は2%しかない。新党を結成すれば“大化け”するという気配はほとんど感じない。

 大半の有権者は、今回の野党の合同話を旧民主党の再結集に過ぎないと思っている。同じ役者たちが同じ衣装を着て、違う芝居をしているとしか見ていないので、期待が盛り上がらない。それほどまでに、最初の芝居がお粗末だったということだ。だから、安倍首相が「あの悪夢のような民主党政権」と言えば、世論は黙り、結果的に長期政権化を許してきた。

立憲民主党の執行役員会であいさつする枝野幸男代表=2020年8月19日、国会内、

世論の支持を得るため超えるべき四つのハードル

 立憲と国民の合流・新党が世論に支持されるためには、超えなければならない幾つかのハードルがある。いずれも厳しいものだが、コロナ禍による未曽有の危機、大きな転換期を迎えている政治の現況を前にすれば、これらは最小限の条件であろう。

 第一に、単なる合流新党の結成は、民主党政権時代の幹部の救済策、生き残り策にしか見えないことだ。中堅、若手、新人がまたもや踏み台にされることにならないかという懸念も強い。こうした印象をどう払拭(ふっしょく)するか。

 第二に、今回の動きが、立憲民主党の資金不足を補う、資金目当ての新党工作に見られがちということだ。この点では、すでに新党への不参加を表明している玉木雄一郎代表の、カネ目当てなら「全額国庫に返したほうがいい」(日経8月21日付朝刊)が妥当であろう。

 第三に、新党を結成して何を目指すのか、明確にしなければならない。民主党が政権をとった際の切り札だった「マニフェスト」に懲りたのか、その後、マニフェストという言葉をすっかり聞かなくなった。ただ、どういう言葉を使うかはともかく、①コロナ対策、に加えて、②消費税減税、③対中政策、④脱原発・脱炭素――といった争点について、明確な主張を掲げられなければ、新党の意味はない。さらに、コロナ後の新しい経済社会、生活のあり方も提案してもらいたい。

 第四に、合流新党は、かつての民主党のように「受け皿」政党を狙っているとみられることである。政権交代前の民主党は、自民、公明、共産の三党を嫌う有権者の「受け皿」になるという戦略によって、政権交代を実現した。「その夢よ、もう一度」とこの策を採るのではと強く危惧するが、こうしたあざとい戦略はもう通用しないことを肝に銘じるべきだ。

立憲民主党の福山哲郎幹事長(左)と国民民主党の平野博文幹事長(右)=2020年7月29日、国会内

政党の個性を残すかたちの「連立政権」を

 もちろん、野党が自然の流れで一つにまとまり、結集して新党ができれば、それは望ましいことだろう。しかし、「大きなかたまり」をつくることだけを目的に、無理な妥協をしてひとつにまとめても、世論の支持はとうてい得られまい。では、どうすればいいか。

 この際は、かつて小沢一郎氏が提唱した「オリーブの木政権」を目指すのがもっとも有効かもしれない。

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