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安倍首相が辞任 「普天間・辺野古」問題にかかわる11人目の宰相への提案

「縮小案」に沿って埋め立てを停止し数年以内の普天間返還の道筋を整える選択も

渡辺豪 ジャーナリスト

米軍基地の建設が進む辺野古沖。右側は軟弱地盤がある海域=2020年4月28日、沖縄県名護市、朝日新聞社機から

 安倍晋三首相が辞意を表明した。

 安倍政権の検証やポスト安倍をめぐる議論や報道も大切だが、そうした記事に埋没しない形で、今、できるだけ多くの人に関心をもってもらいたいのが沖縄の「普天間・辺野古」の問題だ。11月に米大統領選を控え、日米の首脳や政権が交代する可能性のあるこのタイミングは政策を見直す好機と考えるからだ。

 沖縄以外に住んでいると、なかなかこの問題を「リアリティーのある関心事」と捉え難いのもわかる。普天間飛行場が置かれている場所(沖縄県宜野湾市)も、その返還条件として代替施設の建設が進む辺野古(同県名護市)も、いずれも沖縄県内ということになれば、たまにニュースで取り上げられても「沖縄の問題」としか映らないのも無理はない。

普天間返還合意から24年過ぎても……

 だが、そう受け止めている人も、「まだ続いているのか」といった感慨を抱くのではないか。そう、まだ続いているのだ。1996年4月の日米の普天間返還合意から24年が過ぎてもなお、市街地の真ん中にある米軍普天間飛行場は閉鎖・返還のめどが立っていない。

 国は昨年末、2014年時点で「少なくとも3500億円以上」としていた総工費を約2.7倍の9300億円に修正。工期は最低でもさらに12年かかることを認めた。工期や工費が大幅に膨らんだ主な要因は、埋め立て面積全体の4分の3を占める「マヨネーズ並み」の軟弱地盤対策だ。

 国は16年までのボーリング調査で判明していた軟弱地盤を公表せず、18年3月に県民らの情報公開請求で明らかになった。国は設計変更を知事に申請する必要に迫られ、工期と工費の見積もりの見直しを公表せざるを得なくなったのだ。

 民間の事業ならとっくに、もっと合理的な代替策が講じられているだろうし、公共工事であればなおさら、税金の使途の観点から費用対効果が問題視されてしかるべきだ。さすがに政府も過去に「見直し」たり、別の手立てを「検討」したりした。しかし、いずれも小手先であったり、結局辺野古に回帰したりで、沖縄の人たちの理解や納得を得ることはできなかった。沖縄県知事は明確に「辺野古ノー」の姿勢を示し、国との間で不毛な裁判闘争が続いている。

辺野古問題に「変化の兆し」か

 しかし、「ポスト安倍」がささやかれ始めた今年6月以降、自民党の中からもこんな声が聞かれるようになった。

 「設計変更が沖縄県に提出されていますが、今の県政はあらゆる手段をもって反対すると言っています。おそらく裁判になって国と沖縄が対立することが予測されます。しかも設計変更が認められたとしても、完成までにはさらに10年以上もかかる。巨額の予算と労力を投じて、今のように沖縄県と政府が対立したまま強引に造ってしまう形で本当にいいのか」(中谷元衆院議員)

 「問題は、軟弱地盤が判明し、約7万1千本もの杭を深い海底に打ちこむ必要がある大浦湾の埋め立てです。とてつもない時間と青天井のコストがかかる作業をこのまま進めていいものか」(長島昭久衆院議員)

 中谷氏は元防衛相、長島氏は民主党政権で防衛副大臣を務めた、いずれも安全保障政策通の政治家だ。両議員は6月に河野太郎防衛相がイージス・アショアの配備計画中止を発表したことをきっかけに「辺野古見直し」に言及したことから、筆者が「週刊AERA」誌上でインタビューや対談の司会を務めて本意を尋ねた。

 ここでは詳細は控えるが、両議員は予算や工期、県民感情を考慮に入れ、現状のまま辺野古で基地建設を進めることには懐疑的であるものの、「辺野古断念」にまでは踏み込んでいない。

 とはいえ、これは「変化の兆し」と取れなくもない。実際のところ、普天間・辺野古の問題が、これほど長期にわたって深刻な政治・社会的コストを払うはめになると予測した政治家や官僚は日米にいただろうか。

沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場=2019年9月10日、朝日新聞社機から

解決の道筋を描けなかった10人の宰相

 関与した歴代政権は、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦、安倍晋三の各首相に及び、2度政権を担った安倍首相を差し引いても、じつに10人の宰相が政権交代をはさんでこの問題にかかわってきたが、解決の道筋を描けていない。米側も同様だ。

 日米の政策決定に携わる政治家や官僚が目まぐるしく変わる中、沖縄県民は20年余にわたって「普天間・辺野古」という政治課題に常に当事者として向き合ってきた。県民にとって切実なのは、基地問題をめぐって分断される理不尽の解消だ。その根本原因に目を向けようとする動きは、世代やイデオロギーを超えて深化している。

 そんな中、安倍政権は辺野古移設を普天間返還の「唯一の選択肢」と繰り返して工事を強行し、埋め立てにも着手した。

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