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菅首相と枝野代表が国会で示した国家方針を比較する

私たちはどのような社会に生きたいのか、身近な人と議論することから始めよう

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

 2020年10月26日に開会した第203回国会では、大きく異なる二つの国家方針が示された。第一の国家方針で、現実に実施される国家方針は、同日の菅義偉首相による所信表明演説である。第二の国家方針で、代替案としての国家方針は、28日の立憲民主党の枝野幸男代表による代表質問である。前者は、自由民主党・公明党を中心とする与党ブロックの国家方針であり、後者は、実質的に立憲民主党と日本共産党を中心とする野党ブロックの国家方針である。

二つの国家方針

菅義偉首相(左)と枝野幸男・立憲民主党代表

 首相と野党第一党党首による演説のすべてが、国家方針を示すものとは限らない。例えば、通常国会の冒頭に行われる首相の施政方針演説は、予め示された国家方針に基づく、翌年度の政権運営方針である。野党党首による施政方針演説に対する代表質問も、それに合わせた視点でなされる。

 国家方針を示す演説となるのは、新たに選出された直後の首相による所信表明演説と、同様の野党第一党党首による代表質問である。前任の首相が同じ政党の所属であっても、後任の首相が前任内閣の閣僚であっても、議院内閣制では、国家方針における属人的な変化を許容しているため、新たな首相による新たな国家方針を示す必要があるからだ。同じく、野党党首においても、政党としての国家方針が変化する可能性を政治システムとして許容しているため、それを示すことが有権者への責任となる。

 奇しくもこの国会の直前、首相と野党第一党党首がほぼ同じくして選出され、与党ブロックと野党ブロックの国家方針が同時に示される機会となった。菅首相は、9月に新たな自民党総裁に選出され、首相に就任した。枝野代表も9月、立憲民主党と国民民主党等の合流によって結成された新・立憲民主党の代表に選出された。どちらも、就任後に初めて迎える国会となり、国家方針を示す機会となったのである。

 衆議院議員の任期は残り一年であり、与党ブロックと野党ブロックそれぞれの国家方針が国会で示されたことは、来たる総選挙に向けて、有権者のもっとも重要な判断材料となる。そこで本稿では、菅首相の所信表明演説と枝野代表の代表質問を基に、与党ブロックと野党ブロックの国家方針を抽出し、比較する。どちらが正しいかということよりも、有権者が与党ブロックと野党ブロックの国家方針の違いを理解し、自らの考えに近いブロックに投票することが大切である。

 なお、菅首相の所信表明演説の全文は首相官邸ホームページにて、枝野代表の代表質問の全文は立憲民主党ホームページにて公開されている。

菅首相が目指す自己責任重視の国内社会

 国家方針は、大きく内政と外政に分かれる。前者は、どのような国内社会を形成するのか、後者は、どのような国際社会を形成するのか、目指す社会像をめぐる方針である。現代は国内外が複雑に絡み合う社会であり、内政と外政を単純に切り分けることはできない一方、日本を統治する政府の長としての方針であることから、政府の領域内と領域外について分けて整理することも合理的である。

 菅首相が目指すのは、自助を優先し、自己責任を重視する国内社会だ。〈私が目指す社会像は、「自助・共助・公助」そして「絆」です。自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティネットでお守りする。〉と演説している。これは、生きるために必要な公共サービスを使うのは、個人として万策尽きた時

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