メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

米国民の良心と責任感を信じたい~トランプの説得に必要なこと

大統領選挙開票の混乱は全世界に影響

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

米国の政治空白の長期化は世界にとって危険な状態

 米大統領選挙の開票が開始されてから4日後の11月7日(米国東部時間、以下同じ)に至っても6州が開票結果の確定発表を行っておらず、まだ選挙結果は決まっていない。特にペンシルべニアでバイデン候補がそれまであった70万票近い差を追いついて逆転した後は、ほぼ丸1日の間、この6州の開票状況の発表が滞っている。

 この背景にあるのは、選挙が大激戦であった上に、次第に追い詰められつつあるトランプ大統領支持派の過激なデモ行動などにより、各州の選挙管理委員会が開票作業と発表のタイミングについて、著しく慎重になったためと思われる。

開票作業が続くジョージア州でのバイデン氏の逆転を伝える米CNNの番組

 今回の大統領選挙の本質を一言で表現すると、それは共和党対民主党の戦いではなく、また保守対リベラルの戦いでもなく、実際は「トランプ対反トランプ」の戦いと言えよう。それを反映して繰り広げられた選挙戦を通じて一層激化した党派間の対立は、開票結果の判明時期が近づくにつれてますます深刻となり、今や米国社会の分断は、秩序を著しく欠く状態を生みだし、政治は全く機能していない。

 このような状況において、万が一、その機会を利用して、米国内或は世界の安全保障上機微な地域において、いずれかの国あるいは武装集団が攻撃を仕掛けたり、威嚇したりしてきたら、平和と安定は適切に守れるのであろうか。

 このような緊急事態を想定するまでもなく、次の大統領の早期決定により、現在の政治空白を一日も早く終了させることが、米国だけでななく、全世界の利益であると確信する。

想定されるトランプ陣営の戦術

 トランプ大統領は、形勢が悪くなり始めた11月5日夕方に、臨時の記者会見を開いて、根拠や証拠を全く示さずに、選挙の不正を主張して、多くの州で選挙の無効や開票の差し止めを求めて州の裁判所に提訴を行っている旨を明言した。その狙いの一つは、接戦州における開票に郵便投票による票が含まれる以前に、即ち自分が有利なうちに開票を中止させようとするものである。

ホワイトハウスで会見するトランプ大統領=2020年11月5日、ワシントン

 この会見の内容は余りにも一方的、かつ根拠のないものであったため、米国の多くのテレビは中継を途中で打ち切り、また共和党の重鎮からも非難が寄せられたほどであった。

 その後も開票は続けられ、ウィスコンシンとミシガン、更にはジョージアとペンシルべニアでも票が逆転して、状況が一層不利になった6日夕方には、トランプ大統領は「絶対にあきらめず、あらゆる法的観点から追及する」との趣旨の声明を発表した。

 この法廷闘争は、まだ最終結果が出ていないミシガン、ジョージア、ペンシルべニア、ネバダが中心だが、それ以外にも種々の理由を付けて、40近い州で訴訟を提起していると伝えられる。このような大規模の法廷闘争の動きは、選挙前から予測はされていたが、その戦術はいかなるものであり、また勝算はあるのであろうか。

「12月8日までの各州選挙人の確定」を阻止する狙い

 有権者が記入する投票用紙には、表に各党の大統領及び副大統領候補者(並びに上・下院議員、知事その他の選挙の候補者)の名前が印刷されていて、そこにマークするのであるが、裏面には各大統領候補者の選挙人のリスト(選挙人団)が記載されている。その投票で選ばれた大統領候補者の選挙人が、12月14日に正式の投票を行うのであるが、その選挙の正統性について訴訟が行われた場合には、その判決が出ないと選挙人団が確定しない可能性が強い。

 その期限が12月8日であるが、もし判決が遅れるなどして、選挙人団が決まらない場合には、19世紀後半に制定された大統領選挙人団の決定に関する法律に基づいてその州の議会が選挙人団を決めることになっている。

 2000年のブッシュ対ゴアの選挙戦において、フロリダ州の当選者の判断が連邦最高裁判所まで持ち込まれて、選挙人確定期限に間に合わない惧れが出たので、共和党優位のフロリダ州議会は、念のためにとして共和党の選挙人団を選出していた。結果的には、票の数え直しは違憲であるとの最高裁の判断がぎりぎりに出て、ゴアがそれに従って敗北を認めたため、結果は同じであった。しかし、もし最高裁の判断が遅れたり、フロリダ州議会が民主党優位であったならば、29名の選挙人を加えてゴア大統領が誕生していたことになる。

 今回の場合には、トランプ陣営による訴訟の詳細が不明であるが、接戦州で結果が出ていない州のうち、ペンシルべニアとジョージアの州議会は共和党が多数と理解するので、もし訴訟によって、選挙人団の決定が遅れると、一般投票による勝者と関係なく、共和党がその州の選挙人団を握ることにもなる。よって、この点がトランプ陣営による訴訟重視の主要な理由と考えられる。

大統領選の開票作業が続く米ペンシルベニア州フィラデルフィアで、警官隊を挟んでにらみ合うトランプ大統領の支持者(左)と、バイデン氏の支持者ら=2020年11月6日

 なお、12月8日までに決まった各州の選挙人は、14日に各州都において大統領選出のための選挙人投票を行い、その結果は1月6日に連邦議会において、開封、確認される。もし、その結果が、どの候補も過半数(270)を獲得できない場合(候補者が2名の場合には、実際には生じにくい)には、下院が大統領を選出することは周知の事実である。

 その詳細及び問題点については、10月27日の論座に掲載された、拙稿『トランプ再選の可能性は極めて低い』の末尾にある「今後の課題」に記載したとおりである。このプロセスでは民意と異なる結論が出される可能性もあり、今後の再検討が望まれるが、現在問題になっている、トランプ陣営による訴訟とは特に関係がないので、本稿で論じることはしない。

訴訟に勝ち目はあるのか

 2000年の選挙におけるフロリダのケースでも、最終的には連邦最高裁までもつれ込んだが、今回も州の最高裁判決に不服な当事者は連邦最高裁に上訴する可能性が強い。

・・・ログインして読む
(残り:約2161文字/本文:約4672文字)