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トランプは敗れたがトランプイズムはつづく~2020年大統領選の本質

圧倒的な正統性を得られなかったバイデン。次期大統領選に向けての戦いを始めた共和党

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

 バイデン前副大統領が激戦を制し、大統領選挙に勝利を収めた……と言っていいのだろう。激戦州で提起されている訴訟はトランプサイドが負け続けており、全部片づけてもトランプ大統領が逆転できる見通しはかなり低い。

 ここ2週間の混乱によって、米国の大統領選挙のマニアックな仕組みにまで関心が高まっているが、日本を含むG7諸国からも、トランプ政権に最も近かったイスラエルからもバイデン氏への祝意が送られており、とうとう中国も祝意を表明するなど、バイデン政権誕生の既成事実が積みあがっている。

ホワイトハウス周辺でバイデン氏の勝利を祝う人たち=2020年11月8日、ワシントン、ランハム裕子撮影

バイデン氏が勝ったというよりトランプ氏が負けた

 今回の選挙の性格は、バイデン氏が勝ったというよりは、トランプ氏が負けたという要素が強い。本来弱い候補であったバイデン氏が勝利できたのは、トランプ氏が新型コロナウイルス問題で「負けた」からに他ならない。

 また、民主党がペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシンなどの北部産業州を大接戦の末に奪還できたのは、バイデン氏という候補が、保守的な白人有権者の間で嫌悪感を醸成しなかったというのが本当のところだろう。民主党支持者には目を背けたい真実だろうが、要は女性をトップに据えることに対する反感をまともに浴びなかったという点で、白人の高齢男性を候補に立てるメリットは確実にあったことになる。

 バイデン氏は、民主党であるにもかかわらず、人種問題に関してとかく白人男性のエリート目線に立った失言が目立つ。ヒラリー氏のメール問題と同様、ウクライナ問題も存在する。だが、それらの点はヒラリー氏と比べれば問題視されにくかった。“トランプ現象”に恐れをなした民主党やメディアが、前回の教訓を生かして一枚岩を演出したという要素も大きかっただろう。

民主党の左派急進勢力に鬱積する不満

 バイデン氏は、「勝利演説」において「私はすべてのアメリカ人にとっての大統領になる」と述べ、国内の融和を強調した。自らの支持者に対しても、個人的にトランプ支持者の知り合いがいたら、ねぎらいの声掛けをするようにと促している。分断された国家の次期大統領が、言うべきことをしっかり言っているという印象だ。ここはバイデン氏の温和な性格や苦労人としての積み重ねが生きているのだろう。

 もちろん、民主党内の言説が融和で統一されているわけではない。バイデン氏は民主党内の中道を代表する存在であり、民主党内の左派急進勢力に不満が鬱積(うっせき)していることは疑いの余地がない。また、激戦を勝ち抜いたとはいえ、圧倒的な正統性を手にするほどの勝利ではなかったこともあって、強い大統領にはなれないとの見方が強い。

演説会場の外に集まる支持者にスクリーンで勝利宣言をするバイデン氏=2020年11月7日、米デラウェア州ウィルミントン、渡辺丘撮影

注目を集める次期副大統領ハリス氏

 こうした民主党内の雰囲気を反映してか、バイデン氏以上に注目を集めているのがハリス氏だ。初の女性マイノリティの副大統領を実現したことは、もちろん歴史的な快挙である。また、ハリス氏の実績も実力も軽視すべきではない。

 彼女は、出身地のサンフランシスコの検事としてキャリアをスタートさせ、カリフォルニア州の司法長官、上院議員として頭角を現した。トランプ政権によるカバノー最高裁判事の任命にあたって、舌鋒鋭く過去の性的暴行疑惑を追及したことは記憶に新しい。民主党上院議員として大きな見せ場を作ったといえるだろう。

 2020年の大統領選挙においても、短期間ではあったが主要候補として躍り出るところまでいった。中道寄りのキャリアを歩みながら、大統領選挙では女性とマイノリティという二重のマイノリティ性を生かしてプログレッシブ(革新系)にうまく歩み寄り、党内にも目配りをする。苦労の度合いや実績はヒラリー氏の方が勝ると思うが、それだからこそ副大統領として任命されたともいえよう。

 バイデン氏は大統領就任時に78歳、4年後に再選をかけた戦う時には82歳である。トランプ氏も十分高齢だが、選挙中はバイデン氏の年齢を不安視する声が相当程度聞かれた。大統領の求心力に影響するのでおおっぴらには語られてはいないが、バイデン氏は2期目を目指さないのではないかという噂が絶えない。

 であれば、2024年時点でのハリス氏の存在感は、否応なく高まることになるだろう。今回のバイデン氏の選挙からも明らかなように、副大統領というのは大統領を目指すうえでもっとも有利な立場だからだ。

バイデン前副大統領の応援演説に立つカマラ・ハリス上院議員=2020年3月9日、米ミシガン州デトロイト、藤原学思撮影

すでに始まっている党派的攻撃

 共和党からすると、ハリス氏はもっとも敵対しやすいタイプに見えるだろう。「実力ではなく、二重のマイノリティ性ゆえに選ばれただけの存在ではないか」、「所詮、カリフォルニア州の恵まれた教養家庭に育ったエリートではないか」、「中道寄りと急進左派の間を行き来していて信用できない」などなど、ハリス氏をつぶすための運動はすでに始まっている。

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