メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

少数派支配国家バーレーンのコロナ対策アプリの危険性

[12]多数派シーア派政党を解党、政府と国民の間に広がる溝

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 バーレーンは人口170万の小国である。王家はスンニ派だが、国民の過半数はシーア派で、多数派を政治から排除した少数派支配となっている。国民の行動規制を伴うコロナ対策にも、宗派対立が影を落としている。

 バーレーンのコロナ感染状況は、11月26日時点で確認陽性者が8万6185人、死者340人。死者は日本の人口規模なら約2万5000人とかなり多い。9月半ばには1日800人を超えた感染者は、秋になって急増している他の中東の国々と違って、11月には100人台へと減少している。

バーレーンの新型コロナウイルス感染状況(2020年11月26日時点) 出典:世界保健機関バーレーンの新型コロナウイルス感染状況(2020年11月26日時点) 出典:世界保健機関

 感染を抑え込んでいる理由には積極的なPCR検査があげられる。英オクスフォード大学マーティン・スクールの情報サイトによると、バーレーンの11月23日時点での、これまでに実施されたPCR検査の総数は1000人あたり1159人と、すでに一人1回を超えていて、世界でも4位の多さである。ちなみに日本は1000人あたり29人と、世界で80位前後の少なさである。

 バーレーンのコロナ感染は、2月24日に帰国した女性が空港での検査で陽性が確認されたのを最初として、初期の陽性者のほとんどがイランから帰国したシーア派の国民だった。当時、イランにあるシーア派の聖地コムで感染が広がったが、バーレーンからも多くのシーア派の人々がイランを訪れていたからだ。

コロナウイルスについての緊急電話の番号を知らせるポスター=2020年6月、バーレーンの都市、リファー sumit Devlekar/Shutterstock.comコロナウイルスについての緊急電話の番号を知らせるポスター=2020年6月、バーレーンの都市、リファー sumit Devlekar/Shutterstock.com

 バーレーンはクウェートと同じく、感染者の多数が外国人という状況は変わらない。国内で劣悪な住環境に密集して住む外国人労働者に感染が広がったが、徹底した検査実施とともに、他のアラブ諸国と同様、学校、商店やショッピングモールの閉鎖などの感染対策をとり、6月下旬には新規感染者数が下降に転じた。

「最もプライバシーを侵す危険がある」感染対策アプリ

 政府が感染対策の目玉としたのは、「注意」を意味する「ビーアウェア」という行動追跡アプリを3月に導入したことだった。アプリは無料でダウンロードできる。アプリの使用を呼びかける政府のサイトには次のような説明がある。

#コロナの闘いに結束しよう
コロナと闘う国民的な取り組みとして、政府の情報電子政府局は市民と居住者の安全を守るために「ビーアウェア・バーレーン」アプリを導入しました。
アプリはGPS(全地球測位システム)機能を使って次のような方法でウイルスの拡散を減らすことに役立ちます。
・現在、陽性になっている感染者の過去14日間の行動記録をもとに、接触した個人に警告を送ります。
・10日間の隔離や外出自粛をしている感染者が自宅内にとどまっていることを確認します。
・決められた外出自粛や隔離期間を終えて行う検査の予約ができます。
・コロナ関係の国内や世界の統計を掲示します。
・保健当局からの最新の指針やウイルスについての情報を提供します。
・陽性が判明し、自宅待機を選んだ個人には、アプリと連携しているブレスレットが配布され、政府の担当チームに継続的に位置情報が送られます。自宅待機の指針を守らなかったり、携帯電話から15メートル以上離れて動き回ったり、隔離場所を変更しようとしたりすれば、個人と社会の安全を守るために、健康指針を順守することの重要性についての通知が送られます。

バーレーンのコロナ対策行動追跡アプリ「ビーアウェア」のダウンロードサイトバーレーンのコロナ対策行動追跡アプリ「ビーアウェア」のダウンロードサイト

 陽性と判定されて自宅待機となった感染者は、検査で陰性が確認されるまで、ブレスレットをつけて自宅にとどまることが求められ、このアプリによって一元的に監視される。ブレスレットを外して自宅から離れれば、法律違反として禁固や罰金に問われる。

 このアプリについてバーレーンの政府サイトでは、「ビーアウェアはコロナウイルスの拡散を阻止し、社会を守るために最新の技術と電話端末を利用するためのバーレーン政府による最良の国家的な取り組みである」とする政府高官の言葉を引用している。

 ただし、このアプリについては、国際的人権組織アムネスティ・インターナショナルが6月に「個人のプライバシーにとって最も危険なアプリ」として使用停止を求めた。

 アムネスティの安全点検チームが、欧州、中東、北アフリカでコロナ対策として使われている接触追跡アプリを調べたところ、

・・・ログインして読む
(残り:約2428文字/本文:約4172文字)