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驕れる者は久しからず~「安倍氏立件」はあるのか

安倍前首相に壊された法治国家を取り戻すために

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 「驕れる者は久しからず」という言葉、実に古今を通じての名言と言えよう。

 昨年の4月13日、東京・新宿御苑の桜名所に1万8000人もの招待客を呼んで5500万円もの国費をかけ、当時の安倍晋三首相が主人公然として満座の会場を歩き回った。数多くの芸能人や「安倍応援団」とも言うべき右翼言論人の面々、そして山口県からは安倍前首相の選挙区の有権者約850人が押し寄せ、前首相とともに記念写真を撮った。

「桜を見る会」であいさつする安倍晋三首相=2019年4月13日、東京都新宿区

 「平成を名残惜しむか八重桜」

 挨拶に立った安倍前首相が紹介した自らの句だが、平成最後となったこの「桜を見る会」も今年、来年と開かれず、今後も開催されるかどうかはわからない。そして、安倍前首相の政治人生も、見ごろを終えた桜のように舞い散る可能性が少なくない。

 安倍前首相自身「名残惜しむ」心境なのかどうかは外部には伝わってこないが、現在の情勢から判断する限り、来年の総裁選出馬を目指すような政治活動は終了。政界引退の可能性も大きいと見られる。「桜を見る会」前夜祭の捜査をめぐって今後政界が激動する可能性もあるが、私に入ってきた情報を基に現時点での途中経過を報告しよう。

検察捜査、二つのシナリオ

 東京地検特捜部は安倍前首相に対して任意による事情聴取を要請している。特捜部は、前夜祭の収支について政治資金収支報告書に記載する義務があると判断しており、これを怠った安倍事務所の公設第一秘書ら10数人を任意で事情聴取。さらに安倍前首相本人から事情を聴く必要があると考えている。

 安倍前首相本人への事情聴取は今月中旬にも行われるが、聴取内容について、前首相側と検察側とに対立、争点があるようだ。

 安倍前首相側としては、基本的に「あくまで任意の聴取を受けるだけであり、前夜祭のことを聴くだけなら聴取を受けよう。他のことは聴かないでいただきたい」という考えだという。

 これに対して検察側は、前夜祭のことに限らず、様々な案件について聴取を行いたい意向のようだ。この争点は形式的なようにも見えるが、今後の捜査の進展を見極める上で重要なものだ。

 なぜだろうか。安倍前首相に対する今後の捜査の進展を大きく分けるなら、二つのシナリオが浮かんでくる。

 まず最初に考えられるのは、政治資金収支報告書への前夜祭収支不記載により安倍前首相の公設第一秘書らだけが略式起訴され、罰金刑などが科されるというシナリオ。この消極的なシナリオでは前首相本人は不起訴となる公算が強いが、それでも検察審査会でもう一度、起訴、不起訴の判断が問われることは間違いないだろう。

 次に考えられるシナリオは、安倍前首相を逮捕し、身柄を拘束した上で前夜祭以外の案件についても追及していくものだ。この積極的なシナリオであれば、当然安倍前首相の政治生命は終了するが、前者のシナリオでも前首相の政治勢力は格段に小さくなり、政界引退にまで追い込まれる可能性は少なくない。

 現在対立していると見られる安倍前首相側と検察側の事情聴取をめぐる争点は、この二つのシナリオに関わってくる。どちらのシナリオに沿って検察捜査が進むのかは現時点では不明だが、それぞれの可能性について検討してみよう。

安倍氏は菅総理の最大のライバル

 まず、秘書の略式起訴で終わる最初のケースだ。朝日新聞の11月25日付一面の記事によると、「桜を見る会」前夜祭に参加した安倍前首相の地元有権者は5年間で毎年450~750人。ホテルでの飲食代などに安倍事務所が負担した補填額は916万円。一人当たりざっと2000円から3000円の補填額になる。

 有権者への寄付行為にあたるが、寄付を受けていたという有権者側の認識の立証が難しく、立件困難と見られている。しかし、検察は前夜祭全体の収支そのものを政治資金収支報告書に記載すべきだとの見方を取っており、この件で担当していた公設第一秘書らを略式起訴し、罰金刑となる見通しだ。

 このため、政治資金収支報告書への不記載の件については、安倍前首相の関与を立証できたとしても、身柄を拘束するには額が小さすぎると見られる。前首相を逮捕、起訴するには、かつて田中角栄元首相が逮捕、起訴されたロッキード事件クラスの金額が必要と言われている。

 しかし、問題は安倍前首相が不起訴となった後に登場する検察審査会の対応だ。検察審査会は検察官が独占する公訴権の行使を審査し、不当な不起訴処分がなかったかどうか検査する機関だ。この検察審査会が二度「起訴相当」の議決をした場合には強制起訴の手続きに入らなければならない。

 安倍前首相が不起訴となれば、今回検察に対して前首相を告発していた弁護士グループは検察審査会に対して審査を申し立てる可能性が高い。検察審査会の審査はまず免れがたいだろう。

 検察の不起訴、検察審査会の強制起訴を受けて裁判となった事件に、現在立憲民主党所属の小沢一郎衆院議員の「陸山会事件」があった。しかし、この事件はむしろ検察側のずさんな捜査が問題となり、政治資金収支報告書へのわずかな形式的記載ミスが問われただけだった。このため、小沢議員の無罪は確定している。

 ところが、安倍前首相の場合は、前夜祭の収支自体を政治資金収支報告書に記載することは必要ないという見解を採っており、収支をまるまる記載していない。前首相自身、記載は必要ないと国会で何度も答弁し、今年2月3日の衆院予算委員会では、追及した立憲民主党の辻元清美衆院議員から「安倍方式」とまで揶揄された。

 この常識外れの「安倍方式」は、当然検察の見解とも真っ向から対立し、検察審査会が見逃すことも考えにくい。ロッキード事件などに比べ金額は格段に小さいが、安倍前首相の認識が改めて問題となることは間違いない。このため、検察審査会の審査の結果、強制起訴を免れる保証はなく、さらに言えば無罪となる保証もない。

 今回、安倍前首相が不起訴となっても、将来的な強制起訴、有罪というケースは十分考えられる。そのコースをたどれば前首相の政治的発言力は格段に落ち、少し前に前首相周辺から漏れてきた来秋の自民党総裁選への立候補情報などたちどころに消えて失せる。そして、安倍前首相が消えれば菅首相の当面のライバルはいなくなる。(論座11月28日『菅総理と検察が安倍氏に迫る「政界引退」』参照)

清和会の懇親会会場に到着し、安倍晋三前首相にあいさつする菅義偉首相=2020年9月28日、東京都港区

菅総理も避けたい「最悪の事態」

 しかし、ここで考えなければならないのは、安倍VS検察をめぐるもう一つのシナリオだ。つまり、先に紹介したもう一つの積極的なシナリオ、安倍前首相逮捕である。

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