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草津町で考える 地方議会と「セカンドレイプ」

変えるためには徹底的な可視化しかない

井戸まさえ ジャーナリスト、元衆議院議員

 12月11日、湯煙があがる草津温泉で、性暴力被害根絶を訴えるフラワーデモに参加した。折しも草津町では黒岩信忠町長から性暴力があったと訴えた新井祥子町議会議員に対して住民投票によるリコールが行われ、2542票対208票の大差で可決、新井氏は失職したばかりであった。

 リコールの当日有権者数は5283人。リコールを行うことを求める署名活動では3180筆が集まっていたことを考えると、賛成票はその8割程度に留まり、思ったほど伸びなかったとも言える。町民の半数はこの件について、結果とは別途の思いを持っていたのかもしれない。

地方議会に慣習として内在された政治文化

日本外国特派員協会で会見し町議の性被害の訴えを否する黒岩信忠・草津町長=2020年12月14日、東京都千代田区

 さて、この日のフラワーデモで問われたのは「セカンドレイプ(二次被害)」である。「セカンドレイプ」とは、性暴力の被害者に対して、加害者からではなく、その状況を知った周囲の人々、第三者の言動、社会環境が当事者を傷つける行為を言う。

 そもそもは昨年、2019年11月に配信された電子書籍に、2015年1月、新井氏が黒岩町長から性暴力を受けたという告白が掲載されたことにある。2020年12月18日行われた外国特派員協会記者会見の資料によると、2019年7月、同年4月に2期目の当選を果たした新井祥子前議員は、その選挙で黒岩信忠町長が新井氏への選挙妨害を画策していたことを知り、その原因は性暴力についての口封じだったのではないかと考え始めたという。9月にライター飯塚怜児氏のインタビューを受けて被害を告白したが、新井氏が内容を確認することなく、2019年11月電子書籍は発行された。

 これに対し、町長は「事実無根で全部つくり話」と反論、新井氏を名誉毀損で刑事告訴。また、民事訴訟で、新井氏や飯塚氏、新井氏を支援する唯一の草津町議の中沢康治氏の3人を相手取り総額5000万円を求めた損害賠償請求を起こしている。

 電子書籍の内容、そしてファーストレイプがあったかないか等については現在裁判中であり、勝手な判断で言及することは避けなければならないのは当然である。しかし、議会はその判断を待つことなく、次々と新井氏、また中沢氏に対して懲罰等の処分を行った。

 新井氏の発言が「言論の品位」に欠けるとされ、議会から除名処分を受け失職、新井氏は除名処分取り消しを求める審決を県に申し立て、県は除名処分を一時停止したものの、発言により議会から議員辞職勧告と10日間の出席停止の懲罰。そして極めつけがリコールである。そもそもリコールは独善的な手法を取る権力者に対して住民自治の立場から反対を唱える手段であるにもかかわらず、逆に町議会議長が先導的立場をとり一議員を排除する手段となったことについて疑問が呈され、このリコール自体が「社会的セカンドレイプ」なのではないかとの声があがったのである。

 このことについては海外メディアの注目も高く、2020年12月には外国人特派員協会の記者会見が組まれ、14日には黒岩町長が、18日には新井前議員が東京・内幸町に出向き、記者の質問に対して答えている。その際にはそれぞれ資料を配布しているが、黒岩町長は主に裁判資料、新井氏は黒岩町長の主張に対して反論する内容だった。

 人口5000人の草津町は、町長はじめ町議会議員を温泉宿や燃料会社の経営者が占め、町民の多くは彼らが経営する旅館やホテル、企業の従業員であるという、他自治体ではあまりない特殊な事情を抱えている。小さな町なので噂話等もすぐに広まるため、一般論として、性被害の告発をしてももみ消されたり、信じてもらえないと最初から諦めるケースも多いであろう。

 黒岩町長、新井氏双方の主張と食い違いを聞いていると、これは草津町だけの問題に留まらないことを実感する。この国の政治自体が今、問われているとも思う。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止の呼びかけのなか、愛知県西尾市議会の自民系最大会派に所属する市議14人が18日夜に市内の旅館で飲酒やコンパニオンを伴う懇親会を開いたことが分かった。そこまでして、なぜ「懇親」しなければならないのか。地方議会が慣習として内在している政治文化そのものが問われているとも言える。それがこれまで幾度か問題とされながら、根本的な改善に至らなかったのはこれまでの慣習に対して異を唱える議員、特に女性議員に対しての「〝合法的〟抹殺」や「〝合法的〟事前排除」が実は日常的にも行われているからである。

 私が地方議員として、また国会議員として見聞きしたことの一端を書いておきたい。

「〝合法的〟抹殺」 性被害を訴える前と後に起こること

 政治活動を続ける中で、セクハラ行為や発現によって傷つけられる経験を持つ女性議員は多い。ただ、お互いに愚痴を言い合うことはあっても公言することはない。性被害を公言した女性議員を表立って応援することもできない。その後、自らの身に何が起こるかがわかるからで

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