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コロナ禍の中にも迫る米中「新冷戦」へ我が国の構えを

中山展宏 衆議院議員

経済安全保障を前提に

 令和に入った頃から「経済安全保障」という概念が議論され、その言葉が頻繁に使われるようになりました。

 経済は安全保障と密接な関係があり、安全保障への影響を考慮した経済活動が重要であることを踏まえ、国際社会では安全保障上の国益を追求する経済政策が採られています。日本では経済と安全保障を別次元として考える傾向があり、違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。

 「あらゆるものが手段となり、あらゆるところに情報が伝わり、あらゆるところが戦場になりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事という全く別の世界の間に横たわっていたすべての境界が打ち破られるのだ」

 これは1999年、中国人民解放軍国防大学の教授らが発表した「超限戦 21世紀の”新しい戦争”」の一節です。

 習近平国家主席の著書(2016年)には、「他人(先進国)が持っているものは私(中国)も持っており、他人が持っていても私に強みがあり、他人に強みがあっても私には優位性があるように努め、我が国の経済の全体的な資質と国際競争力を強化しなければならない」「経済発展と国防建設を統一的に計画し、軍民が深く融合する全要素・他分野・高効率の発展の枠組みを構築」「海洋、宇宙、サイバースペース、バイオ、新エネルギーなどの分野は強い軍民共用性を有する」「ネットワーク、極地、深海、宇宙空間などの新興分野の規則制定に対する参与を強化しなければならない」との言葉が並びます。

北京の人民大会堂で開かれた歓迎式典で閲兵をする副大統領時代のバイデン氏と国家副主席時代の習近平氏=2011年8月18日

 中国の名目GDPは20年前、日本の1/3以下でしたが、今では3倍となり、2030年代の早い時期に米国と肩を並べ追い抜こうとする勢いです。この著しい経済成長の深層で、国家安全保障上の国益を実現する目論見について、私たちは危惧せざるを得ません。

 2013年、複数の経済回廊を擁する”一帯一路”経済圏構想は提唱され、道路、港湾、発電所・パイプライン、通信などのインフラ投資、製造、金融、貿易取引などの対外投資を進め、アジアインフラ投資銀行も設立されました。中国からの資金借入をもとに開発したスリランカ南部のハンバントタ港が”債務の罠”に陥り、租借されたことは記憶に新しいと思います。往古からランドパワー(内陸勢力)に拠る中国が、リムランド(沿岸地帯)を制し、本格的にシーパワー(海上勢力)へ繰り出し、地政学的国益の圏域を広げ常態化すると受け止められます。

 日常から海洋、宇宙までのフィジカル空間、そしてネットワークで繋がるサイバー空間において、人、資源、人工物やサービス、投資、情報(データ)など、さらには国際ルールや国際標準によるガバナンスを駆使し、安全保障環境を拡張、支配しようとする覇権的挑戦は顕在化しています。

 自由主義、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済の普遍的価値を希求する私たちは、日米同盟による安全保障を基軸とし、中国(共産党)の全体主義を背景にした国家資本主義の威力に対して、経済・外交政策を通じ、どのように向き合うのか。

 我が国は2016年「自由で開かれたインド太平洋」を掲げ、私たちの価値観を基調とするアジアからアフリカ地域までの連結性向上を提唱し、法の支配、航行の自由、自由貿易を体現しようとしています。その上で、経済規模で世界1位・2位の米国と中国による”新冷戦”が現実味を帯びる中、経済安全保障に係る我が国の政策の蓋然性を高めることが生命線であると考えます。

米中デカップリングは不可避

 2015年、中国は半導体や5Gの次世代情報通信技術、デジタル制御の工作機械やロボット、省エネルギー・新エネルギー自動車やコネクテッドカー、先端新素材、バイオ医薬など重点10分野、23品目で製造強国への意欲を示した産業政策”中国製造2025”を標榜しました。加えて、2017年より軍民融合の国家体制と経済社会の持続的発展を目的とし、国内外の組織や個人に情報収集を強いることが可能な国家情報法が施行されました。

 他方、米国は中国による強制的な技術移転、知的財産権の侵害、国有企業への優遇策などを憂慮し、安全保障に関する予算や運用へ法的根拠を与える国防権限法(NDAA)と連動し、2019年から矢継ぎ早に輸出管理改革法(ECRA)、外国からの投資の審査を厳格化する外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)などの体系を整えました。バイオ、先端材料、半導体、AIやデータ分析技術、ロボット、脳とコンピュータを繋ぐブレイン・コンピュータ・インターフェース、量子情報、顔認証や声紋認証技術など、中国の戦略分野を網羅する先端基盤技術14分類47項目において輸出制限を強め、空港や港湾、軍事機密施設の近隣などの外国人による不動産取得を防ぐ措置もおこなっています。

 現在、米国は商務省が示すエンティティ・リスト(安全保障上の懸念から禁輸対象とする企業一覧)に載る企業への、米国製品はもとより米国由来の技術やソフトウェアを使った物品の輸出や再輸出、米国内の外国人へ開示する”みなし輸出”においても事前許可を求めています。この輸出規制が半導体メモリ大手の株式上場延期をはじめ日本企業の経営環境に影を落とす中、2020年12月、中国も相対する輸出管理法を施行、中国版エンティティ・リストを導入しました。

 米国は、特に先端基盤技術や知的財産、情報ネットワークの運用について、いわゆるファイブアイズである英・加・豪・ニュージーランド、貿易や投資における安全保障上のホワイト国、価値観を共有し信頼構築できる国々との間で制御しようとする傾向が顕著になってきています。

Poring Studio/Shutterstock.com

 一方の中国は、中長期の経済発展戦略として、安全保障環境が極端な状況でも自国内で完結する供給体制を確立するとともに、グローバルサプライチェーンが中国抜きでは機能しないメカニズム、すなわち中国への依存度を高めていく”拉緊”を目指し、内需と外需による”双循環”という考えを打ち出しました。最近では、政府調達における外資規制、自国製を推奨する排外的な安可目録(信創目録)が存在し、中国企業と外資企業との取引においても準拠されることが懸念されています。

 翻って、ご存じの通り、我が国の中国との輸出入総額は、米国より遥かに巨額となっています。

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