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コロナ禍の今を新しい雇用を作り出す好機に~日本版「幸福予算」のすすめ

成長と効率重視の「新自由主義」から卒業してヒューマンファーストの世界に

円より子 元参議院議員、女性のための政治スクール校長

 「コロナ後」の新しい世界の社会経済システムを考え直す「グレート・リセット」の観点から、女性にからむ様々な問題を取り上げる連載「『グレート・リセット』と女性の時代」。コロナ禍で失職したり、収入が減る人が後を絶たないなか、4回目は、女性をめぐる働き方や収入の問題について考えます。
連載・ 円より子「グレート・リセット」と女性の時代 

 毎年恒例の忘年会のいくつかは、昨年は残念ながら取りやめました。それぞれ、20人以上という人数の集まりだったからです。

 ひとつは離婚女性の会。1980年代前半にできた会で、当初は再就職先の上司のセクハラへの対処や、別れた夫と子どもを会わせるべきかという相談など、毎月30〜40人が集まる賑やかな会でした。子どもたちに料理を教える合宿も毎年開いていましたが、主宰者の私の年齢に合わせるように会の平均年齢も高くなり、子どもたちも社会人になって、家を出ました。いま、ほとんどの会員は一人暮らしです。

働き続けている離婚女性たち

 彼女たちの共通点はいまだに働き続けていること。

 翻訳業務の正社員だった人は、定年後しばらくは契約で働いていたけれど、現在はコールセンターでの苦情処理担当。一日中座り続けで、苦情を聞き続けるのは相当疲れがたまると言います。別の女性は、市のシルバー人材センターに登録して、料理や家事代行に行っていたものの、月に働ける時間が制限されていて、それでは食べていけず、マンションの清掃員に転職しました。

 介護施設でヘルパーの仕事についていた二人は、高齢者の世話はやり甲斐があるけど、体がきつい、収入も低いし、と漏らしました。毎回1000円の会費でしたが、ワインとビールで口がなめらかになると、つい愚痴も出てくるのです。

安定していいよなと言われた私、非正規です

新型コロナの影響を理由に雇い止めをした派遣会社に抗議する総合サポートユニオンのメンバー=2020年6月30日、東京都新宿区

 そんな日頃の鬱憤のはけ口だった忘年会が昨年はできず、そのかわりというわけではないですが、私のところにこんな電話がありました。

 電話をしてきたのは、役所の窓口でコロナで減収になった人たちの相談業務をする人でした。女性の相談が増えたことに驚いた。派遣で働く人からの、仕事がなくなってどうすればいいか、という相談が多かった。なによりショックだったのは、何人もの人から、あんたなんかに俺たちの辛さはわからないだろう、公務員は安定していていいよな、と言われたことだった、という。

 そう言ったあと、彼女はこう言ったのです。

 「円さん、ご存知だと思いますが、私、非正規公務員なんです!」

 悲鳴にも似た声に、私は言葉を失いました。

公務員は「安定した仕事」は昔の話

 公務員に対しては、多くの人が「安定した仕事」という印象を持っているようですが、それはもう昔の話。今は公務員の3人から4人に一人は非正規公務員で、その約75%、4人に3人は女性です。市役所、図書館、公民館、公立保育園、児童相談所、保健所などの働き手の多くが、実は非正規雇用なのです。

 ハローワークで求職者の相談にのっている相談員が、毎年度、自分の雇用が更新されるかわからない不安な状況で働いているという笑えない話が、現実なのです。

 かつて、国内のあちこちに講演に呼ばれていたとき、終了後に担当者と話すことが多かったのですが、「私たちはみんなパートで、まともな収入が得られない」「女性を従の働き手としか見ていない雇用形態を変えるには、どうしたらいいのか」などと訴えられました。なんとかしたいと政府や経済界に提案もしたし、雑誌や週刊誌にも書いてきたのですが、そうした傾向は、最近ますます強くなっているようです。

原因は日本政府の政策の間違い

 非正規公務員が増えたのは2000年前後からですが、その頃から日本の経済構造は大きく変化しました。1998年からの20年間で年平均実質GDP成長率はたったの0.7%。つまり、まったく成長していない。

 対照的に企業収益は著しく伸びています。97年度の全法人(金融保険業を除く)の年間経常利益は28兆円でしたが、2018年度のそれは84兆円と3倍にも膨らんでいるのです。にもかかわらず、働く人の賃金は低下。2019年の一人平均賃金は実質で1997年から14%も下がっています。

 グローバリゼーションのせいだと言われますが、本当にそうなのか。98年以降、他の先進国では賃金は下がっていないのをどう説明するのでしょう。日本政府の政策の間違いだったのではないでしょうか。

 橋本龍太郎内閣が1997年に決めた財政構造改革や金融ビッグバンなどを、小泉純一郎、安倍晋三内閣でどんどん推し進めた新自由主義政策のもと、賃金は上がらず、非正規雇用と低賃金労働者が増え始めたのです。これはもう、女性だけの問題ではないのは明らかです。

不安定雇用・低賃金の人たちを直撃したコロナ

cloverlittleworld/shutterstock.com

 1997年に非正規労働者は1150万人でした。それが、2019年には2160万人と倍増しています。年収200万円以下の人も、900万人から1200万人にも増えている。昨年1年間、コロナによって、仕事を失う人、収入が減った人は数知れず。正確な統計はまだ出ていませんが、感染がさらに拡大している今、失業、倒産はさらに増えるでしょう。

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