メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

女性が仕事と出産を両立できる社会をつくる妙案あり~責任は政治にあり

女性たちは悩んでいる。「マタハラ裁判」の悲劇を繰り返さないために

円より子 元参議院議員、女性のための政治スクール校長

 「コロナ後」をにらみ、世界の社会経済システムを変えようという「グレート・リセット」。その観点から、女性を取り巻く様々な問題について考える連載「『グレート・リセット』と女性の時代」の5回目では、出産と働き方のあり方について考えます。
連載・ 円より子「グレート・リセット」と女性の時代

 今年の正月、テレビドラマ「逃げ恥SP」をご覧になった人もいるかと思います。同じ職場の女性社員が同時期に出産して休暇を取ると、職場が回らなくなるので、妊娠時期をずらすように言われている場面がでてきました。

 代替人員の確保ができないから、二人が同時に出産休暇や育児休暇をとったら、残っている社員の仕事量が倍増してしまうということで、法的には休暇が取れるようになっていても、妊娠を控えてしまうという笑えない話は、現実にもあります。そうこうしているうちに、産めなくなってしまう。

 子どもは神様の贈り物、天からの授かりもの。そうそう人間の思うようにはいかないのですが……。

妊娠前から迷う働く女性たち

 そんなわけで、仕事をする女性たちの多くは、仕事を続けるか、子どもを取るか、妊娠前から迷うことになります。

 女性が出産した時には、すみやかに人員を補充するシステムがあればいいけれど、会社が目先の利益を優先する現代社会では、「だから女性は採用しない」となりかねません。

 「逃げ恥」では、夫の平匡が育児休暇を申請しただけで、「男がなぜそんなに休むんだ」、「どうせ、何も役に立たないだろう?」、「それより仕事をしてくれよ」と言われてしまう。

 このドラマが、星野源のダンスと共に、女性たちに大人気だったのはまさに、現在の男社会を如実に表していたからだと、私は思います。

何回でも産みたかった!

 子どもを産むって、感動的で、ほんとうに楽しいことなんです。

 思えば、私が娘を産んだとき、状況はかなり厳しかった。夫の借金が膨れ上がっていて、夫は家に帰らず、だから子どもは一人で育てるしかないなと、生まれる5時間前まで仕事をしていたのです。でも、オギャーと出てきた赤ちゃんの顔を見たら、嬉しくて涙が出てきた。こんなに幸せな気持ちになれるなら、何回でも出産したいと思ったほどでした。

 子どもが生まれて5日で退院。翌日から仕事を始めました。地方出張は子どもと離れるのが悲しかったけれど、それでも稼ぐしかないと、バンバン仕事を引き受けていました。
当時35歳。「丸高」という、高齢出産のハンコを押されていましたが、まだ若くて身体が頑丈だったんですね。元気に産んでくれた親に感謝しました。そして、仕事がとにかくあったことにも。

 出産1カ月で札幌に出張した時、テレビの本番前におっぱいが張って痛くて、トイレに駆け込み、溢(あふ)れる乳を絞って捨てた時には、母乳を待っているに違いない娘を思って涙が出そうになりましたが、仕事のあるのはありがたかった。

第1子出産後、仕事を辞める人が6割

 けれど世の中は、せっかく子どもを授かったのに、その嬉しさと引き換えに仕事を失う人が多いのが実情です。統計によると、第一子の出産後、仕事を辞める人が6割もいるのです。

 夫の収入だけで食べていけるし、子育てと仕事の両立はちょっとしんどいと、自ら退職を選ぶ人ももちろんいるでしょう。でも、両立はしんどいと思う人の中にも、週3日だけとか、1日4時間の勤務で補充の人員もいて、職場に気兼ねしないですむのなら、働き続けたかった人は多いのではないでしょうか。

 また、育児休暇後に保育園にスムーズに入所できていれば、退職しなかった人も少なくないと思います。

studiolaut/shutterstock.com

最高裁で敗訴した「マタハラ裁判」

 2020年12月、「マタハラ裁判」とよばれ、一審では訴えていた女性が勝訴したものの、高裁で敗訴となり、メディアでも話題になった裁判が、最高裁で女性側の敗訴決定で終わりました。

 裁判の流れをかいつまんで説明しましょう。語学スクールに勤務していたAさんは、第1子が生まれたものの1年の育児休暇が終わっても保育園が見つからず、さらに半年、休暇を延ばしました。しかし、それでも無理で、正社員から契約社員になることになりました。

 ところが、その後すぐ保育園が見つかり、正社員に戻して欲しいといったところ、既に、英語教師のクラス編成などを済ませていた会社側はすぐにはできないと拒否。しかし、40万以上の収入が4分の1になったAさんは、契約社員になる時、正社員に戻れると書いてあったことから、労働局や個人加入の組合などに相談。訴訟にと発展したのでした。

 高裁や最高裁では、育休明けに正社員から契約社員になったことは、マタハラに当たらないとされました。理由は、保育園に入れず、正社員と同等の仕事ができないということです。

 さらに、Aさんが、会社から退職勧告をしていないにもかかわらず、社内外にそう言って、会社をさもマタハラのブラック企業と印象づけたり、社内での話し合いを録音していたことも問題になりました。

 この会社の社長は女性で、原告が出産する前に、女性たちが出産後も働きやすいように、社員で話し合って、契約社員という働き方を取り入れたし、社長自身も2人目を出産し、保育園探しに苦労していました。

 Aさんは保育園に入れることになったとして、正社員に戻りたいと訴えたそうですが、実は決まっていなかっただけでなく、申し込みもしていなかったそうです。

 Aさんに第一子が生まれたのは2013年。さぞ嬉しかったと思います。保育園に入れなかったばかりに、正社員の仕事と収入を失い、裁判で争って敗訴してしまうなど、その時は想像もしなかったはずです。社長の側も、女性たちが働きやすい会社にしたいと努力していたのに、自分の会社がブラック企業のように世間から叩かれるなど考えてもいなかったでしょう。

不条理な正規と非正規の間の格差

 妊娠出産で職場を離れる女性の代替人員を補充する中小企業には、国から助成金が出ます。休職中の給与は企業ではなく、国から給付金として、給与の5割から約7割が出ます。それなりに、育児休暇も取りやすくなってはきています。

 しかし、正規雇用者と非正規雇用者では大きな格差があります。厚生労働省調べ(2015年)では、育休取得率は正規雇用の女性が81.2%なのに対して非正規の女性は28.8%と、50%も差がある。保育園に入る際の点数も、正規は高くて、非正規は低い。つまり、入所しにくい。

 こうした正規と非正規の区別の裏に、女性は補助的な収入さえあれば良くて、短時間労働だから、保育園にも入れなくていいだろうといった考えが見え隠れします。

・・・ログインして読む
(残り:約1637文字/本文:約4513文字)